女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.119「一人ひとりに寄り添う」大手サロンの女性支援スタイルとは?
HAIR & MAKE EARTH(株式会社アースホールディングス)
東京都渋谷区
トータルビューティサロン「HAIR & MAKE EARTH」を全国に展開する株式会社アースホールディングス。現在、全248店舗のフランチャイズ店を運営し、スタッフの総数は約3300名に。そのうち約6割が女性で、美容師の他、アイデザイナーやネイリスト、エステティシャン、レセプションなど幅広い職種で活躍しています。驚くべきは常に100名ほどのスタッフが、産休・育休期間中にあるということ。復帰率も高く、ママスタッフは正確な数を追うのが難しいほどに多く在籍しているといいます。女性の活躍を後押しする大手サロンならではの取り組みとその歩みについて、代表取締役の國分利治さんと人事部人財採用セクションの行田ゆかりさんに伺いました。
1取り組み
スタッフ一人ひとりの希望に合わせた
フレキシブルな勤務形態。
どんな取り組み?
ママスタッフは出産して復帰する際、正社員とパートのどちらか希望する雇用形態を選べる。パートの場合は、週2日以上、かつ1日4時間以上働けることが条件。正社員でも土日いずれかの休みが可能で、保育園のお迎えに合わせて勤務時間を短縮できるなど、柔軟な対応がとられている。「正社員の時短勤務は、復帰後しばらくの期間限定で行っています。無理がないかどうか様子を見ながら、スタッフ本人と一緒に継続可能な勤務スタイルを決めていくようにしています」と行田さん。
その背景は?
同じママスタッフでも、たくさん働きたいという人もいれば、家庭を優先したいという人もいて、希望する勤務スタイルはさまざま。働き続けてもらうためには、各スタッフに合わせたフレキシブルな対応が必要だ。「弊社にはフランチャイズが100社、店舗が248軒あります。私たち本社の人事部だけで全スタッフをケアすることは難しいのですが、FC店のオーナーたちがそれぞれにスタッフときちんと向き合ってくれているおかげで、柔軟な対応が実現できています。弊社のフランチャイズは暖簾分けスタイルで、すべてのFC店のオーナーが独立支援制度によりオーナーになった元EARTHのスタッフ。よって、全オーナーが弊社の理念を理解しているという土台があるんです」と行田さんは話す。ママスタッフに限らず、雇用形態は状況に応じていつでも変更が可能。パートで復帰後、子どもが保育園に入園したタイミングで正社員に戻るママスタッフも少なくないという。
2取り組み
店舗数が多いため、出産前と同じ環境での復帰がしやすい。
どんな取り組み?
産休・育休明けのスタッフは、本人が希望すればほとんどの場合、出産前に勤務していた店舗に復帰することができる。万が一、もとの店舗での受け入れが難しい時には、隣駅など近くの店舗に異動して復帰することも。これにより、産休前の指名客を取り戻しやすい環境で、不安の少ない再スタートが切れる。
その背景は?
「美容業界で産休・育休をとったスタッフが直面する問題として、産休前に在籍していた店舗の人員が充足するなどで復帰がしづらい、という話をよく聞きます」と行田さん。HAIR & MAKE EARTHは全国展開の知名度もあり、どの店舗もお客さまの数が多く、スタッフ増員には常に積極的な姿勢をとっている。そのため、産休・育休をとったスタッフが戻れなくなるというケースはほとんどない。さらに各地域の鉄道沿線に複数店舗を展開しているため、「近くの店舗への異動」という提案もできる。オーナーの異なるFC間での店舗異動もでき、日本各地に店舗があるため、スタッフが結婚して別の地域へ引っ越す際にも、退職せずに新居近くの店舗へ異動することが可能だ。「結婚や出産でいったん現場を離れても、希望すればほぼ100%戻ってこられる環境が整っています」と行田さん。
3取り組み
急な欠勤をフォローする、近隣店舗同士の「ヘルプ制度」。
どんな取り組み?
市街地などHAIR & MAKE EARTHの店舗が多く点在するエリアでは、いざという時に近くの店舗同士でスタッフを派遣し合える「ヘルプ制度」を導入。病気やけがなどでスタッフの急な欠勤が生じた場合、店長が社内ネットワークで近隣店舗の予約状況を確認し、人員に余裕のある店舗へ応援スタッフを要請することもできる。
背景とメリットは?
女性に限らず、全スタッフの急な休みをフォローするために創業当初から取り入れていた制度だが、体調が安定しない幼児を育てるママスタッフには特に好評。子どもの発熱などで急な欠勤を余儀なくされた時、「ヘルプ制度」が利用できれば、心の負担が軽減される。「ヘルプ制度がないエリアでは、レセプションスタッフがお客さまへ連絡をして、予約や指名の変更をご相談するようにしています。レセプションスタッフがいない店舗では、スタッフが手分けしてお客さまへ連絡することも。誰でも急な休みが生じることはあるので、お互いさまです」と行田さん。
4取り組み
勤務時間内の研修で、キャリアUPやキャリア転向をサポート。
どんな取り組み?
本社に併設されたアカデミーでは、種類さまざまなヘアカットをはじめ、まつげエクステ、着付け、ヘアアレンジなど多彩な講習を実施。サロンの繁忙期以外はほぼ毎日オープンしており、スタッフは希望する講習を何度でも受けることができる。「社内講師のレッスンの他、外部から講師を招いて開催する特別講習もあります。定員制ですが、沖縄など遠くの店舗から足を運んできて受講するスタッフも多いです」と行田さん。アカデミーの他、各店舗で随時行われているスキルアップのための研修も、勤務時間内の実施を原則としている。
メリットは?
いつでも学べる環境を用意することで、やる気のあるスタッフはどんどんレベルアップし、仕事の幅を広げていくことができる。出産退職や産休・育休などでブランクがあるスタッフも、技術を学び直すことができるため、ブランクの克服が早くなる。さらに、学びやすい環境はスタッフのキャリア転向も後押ししていると行田さんは語る。「レセプションで入社したスタッフが、アカデミーや店舗でネイルの研修を受けて、ネイリストに転向するケースは多くあります。レセプションにもキャリアパスはありますが、技術を習得することで、将来的な選択肢が広がります」。オーナーたちも、サロン内にネイルやエステのブースを設け、スタッフが習得した技術を生かせるように対応しているという。
代表取締役インタビュー
- Q. 女性活躍支援の取り組みを始めたきっかけを教えてください。
-
A. 創業当時から、育児中のスタッフがパートで活躍していました。
結婚や出産後も働き続けてほしいと思っていたので、育児中のスタッフにはパートという雇用形態を1店舗目から用意していました。正社員の場合は仕事第一の姿勢を求めていたため、家庭を優先して働きたいスタッフには厳しい環境だったと思います。その後、福利厚生など細かい制度を整えてきましたが、大きな変化があったのは5年ほど前。トータルビューティーサロンの展開を始めたことで、ネイリストやエステティシャンなど、一般企業のような就業スタイルで働いてきたスタッフたちが仲間に加わったんです。朝や夜の練習がなくて、基本的に残業もない。美容師の文化とは異なりますが、時流を汲むことも必要と考えました。新たな文化も取り入れながら、女性も活躍しやすい環境づくりを進めているところです。
- Q. 100社ものフランチャイズを展開されていますが、「統一を目指さず、個性を伸ばす」という企業理念を実践するために行っていることがあれば、教えてください。
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A. 店づくりのほとんどをオーナーたちに任せています。
アースホールディングスとして「統一を目指さず、個性を伸ばす」という企業理念を掲げていますが、フランチャイズ100社のオーナーそれぞれの理念もあって、「統一を目指さず、個性を伸ばす。プラス、和気あいあいやろう」など、アレンジしているところも多いようです。チェーン店というとみんな同じ造りで展開するのが一般的ですが、美容室の経営としては“個性”がないのはつまらない。うちはマニュアルは少ない方ですし、決まりもほとんど設けていません。「自己主張できる組織づくり」を運営のテーマにしているので、店づくりはほとんどすべて、オーナーたちに任せています。もとは赤を基調にしていた店舗デザインやロゴも、最近はすっかりカラフルになっているんですよ(笑)。
- Q. スタッフの働く環境をよりよくするために、課題とされていることは?
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A. 土日の休みを浸透させることです。
昨年から月1回の土日休みを提案しているのですが、それが実践できていないスタッフがまだいます。忙しい店舗には難しい課題ですが、土日に休みが取れる環境を作っていかないと、美容師を志望する人もなかなか増えません。特に美容学校を卒業してすぐに土日の休みがなくなると、美容業界以外の友人と遊ぶことができなくなり、偏った志向になりやすい。お客さまの気持ちを理解できる美容師であるためにも、休日はいろいろな友人と会って話してほしいと思っています。僕は若手の頃、休みを惜しんで働いていたけれど、そういう働き方に耐えられる人は100人中ひとりくらいじゃないでしょうか。今は、残る99人に向けて発信していかないと、人材確保が難しい時代です。まずは土日の休みを浸透させて、仕事がハード過ぎるという美容業界のイメージを変えていかなければと思います。
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