サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.35
実例編移動美容車ですべての人をキレイに!
はさみ日和
- 全スタッフ1名
- 1店舗
- 店長:
- こめだやよいさん
- 訪問美容開始:
- 2020年(Kirocarとして)
- 訪問施設数:
- 9施設(1回の訪問で9〜20名)
- 施設訪問頻度:
- 1〜2カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 1名
- 価格:
- カット3,000円〜、パーマ1万円〜、カラー8,000円〜
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Q
訪問美容を始めたきっかけを教えてください。
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A
ボランティアからスタートして、12年前には有料の訪問美容を始めました。
勤務していたサロンでボランティアカットに行ったのが最初のきっかけです。
もともと東京でヘアメイクとして働いており、技術向上のためにサロンでも勤務するようになりました。数年後に故郷である奈良に戻って地元のサロンに転職しました。当時、奈良のサロンでは社会福祉活動が盛んで、ボランティアで施設にカットに行く活動をしていたのです。実は私の母がグループホームを経営していたので、勤務していたサロンにボランティア先として実家を紹介しました。最初のころは私はまだアシスタントでしたが、ハサミを持てるようになってから、施設の利用者さまにカットモデルになってもらっていました。
スタイリストデビュー後、ボランティアでやっていた方々にもご理解いただき有料にしてもらいました。これが私の訪問美容スタートで、今から12年ほど前のことです。同じ頃、サロンのお客さまのなかにも高齢でサロンに来られなくなった方が出始め、そうした方々のご自宅への在宅訪問も始めました。
お客さまからの情報で、仕事と育児の両立について考え始めました。
当時はサロンの休日に個人で訪問美容をしていました。あくまで主軸はサロンでしたが、もともとヘアメイクだったこともあり、同じ場所でずっと働くより、いろんな場所に行って違う環境で仕事をすることが性に合っていたんです。利用者の方々が喜んでくださるのもうれしかったですし、自分が楽しくてやっていた感じです。
訪問美容を本格的にやりたいと考え始めたのは、子どもができたことが大きかったですね。サロンで子どものいるお客さまとお話しするなかで、子育てしながらの働き方についていろいろな情報をいただいていました。例えば、保育園のうちは預かってくれる時間が長いけれど、小学校に入ると行事が増えて仕事を休まなければならないことが多くなるなどです。そんな話をうかがいながら、「子どもが小学校に入るまでに独立して、時間の融通がきくようにしよう」とか「訪問美容なら遅くとも16時には終わるので、育児と両立しやすいのでは」と考えるようになりました。
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Q
移動美容車で本格的に施設訪問を始めたきっかけは?
-
A
介護施設のオーナーである兄の勧めです。
介護サービスの一環として移動美容車を導入。
計画通り、子どもが小学校にあがる際に独立して「はさみ日和」をオープンしました。「はさみ日和」の立地は、実家のグループホームのはなれだった場所です(現在グループホームは別の場所に移転)。なので、こちらから施設に訪問するだけでなく、施設に入居されている利用者の方々が、気分転換にサロンに来てくださったりしていました。
数年前に兄がグループホームを母から引き継ぎ、経営者として介護の仕事を見直そうと考えていました。時代の流れとして施設よりも在宅介護が主流になりつつあります。介護職の方々の多様な活躍の場としても、すでに行っていた訪問介護の拡大を検討し始めたのです。そのときに、介護だけでなく美容も必要だと考え、私のサロンも兄の介護会社の傘下に入ることになりました。さらに、近年は自然災害の増加で、避難所生活をする人々が珍しくなくなってきています。高齢者の方だけでなく、そうした方々にも美容を提供できるように、移動美容車を導入することになったのです。それをサロンとは別のブランドで「Kirocar」として始めることになりました。移動美容車は一般の方も施術できるよう、美容室として登録しています。(※移動美容車の制度は自治体によって異なります。)
契約に結びついたのは紹介がメイン。
営業は、最初はチラシを配ったり、施設も回ったりしましたがすべて門前払いされました。奈良では初めての移動美容車なので、なかなか理解してもらえなかったようです。断られ続けるとかなり心が折れますね。契約がとれた施設は兄の介護関連の知人からの紹介だったり、コロナ禍でそれまで訪問美容師が入っていた施設から、「移動美容車なら施設に人が入らずにできるので」とお声掛けいただいたところだったりです。
営業に向かない私がやるよりも、兄も「営業のプロを雇った方が効率がいい」と言ってくれているので、今後はプロにお任せすると思います。
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Q
訪問美容をやって大変だったことは?
-
A
関係する人々すべてに満足いただくことのむずかしさです。
「おしゃれにしたい」気持ちと「健康を守る」ことの間で葛藤がありました。
施設の方々の施術をやり始めて大変だったのは、私は「おしゃれにしてあげたい」と思いご本人も同じ気持ちなのに、職員さんやご家族などから「短くしてくれ」と言われる矛盾でした。でもそれは、みんなが利用者さまのことを想ってのことなのです。例えば髪が長いと汗をかくことであせもができやすかったり、風邪を引きやすかったりするからです。
私は幸い、家族が施設を経営していたので、「なんでなの?」と率直に聞くことができ、理由を丁寧に説明してもらうことができました。でも、もし私と同じ疑問を抱えている人がいれば、相手が誰でも同じように理由や気持ちを聞くといいと思います。わからないことは素直に「教えてください」と聞くことで、関係性も築けていけると思います。
とにかくいろんな方法を試して、相手にも聞いてみる。
職員の方やご家族の気持ちが理解できても、「健康を守る髪の短さ」と「おしゃれさ」を両方叶える方法を見つけるまで、何年もモヤモヤした日々が続きました。その間、いろんな方法を試し続けてきました。例えば、後ろは短くしても横は長めに残したり、外側は長くして内側は刈り上げるなど…数え切れないほどです。ある方法を試してみて、次回の訪問のときに利用者さまに「どうでしたか?」と感想を聞いてから修正したりもしていました。
さらに、寝たきりや体に傾きのある方など、利用者さまの体の状況によっても、できる施術が限られてきます。そうした個別対応ができるようになるまでに、何年もかかりましたね。でも困ったら職員さんやご本人さまにその都度聞いています。
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Q
今後は移動美容をどうしていきたいですか?
-
A
移動スーパーのように定期的にさまざまな地域を回りたいです!
困っている人みんなの近くに行って、キレイにしてさしあげたい。
私が移動美容を続けるモチベーションは「日本にはこんなにたくさん美容室があるのに、行けない人が多い現状はおかしい」という想いです。そのため、施設だけでなく、移動スーパーのように定期的にいろいろな地域を訪ねていって、介護が必要な人も介護をする人もキレイにしてさしあげたいと思っています。
施設に行って気づいたのは、多くの施設には訪問理美容が入っているので、施設の利用者さまはキレイになることができています。困っているのはむしろ在宅の方で、自宅に他人を入れるのを好まない場合、訪問美容を受けることができていません。そうした方々の近くに移動美容車が行くことで、ご家族みんながキレイになって喜んでいただけることが私の理想です。介護を受ける人もする人も、家から連れ出すきっかけになって、休めるひとときをつくってさしあげたいです。
みんなが来たくなる「おしゃれな移動美容車」にしました!
みなさんの憩いの場を目指すためにも、移動美容車を作るときに「おしゃれな車にする」ことを意識しました。サロンの外観やインテリアをおしゃれにするのと同様に、「あの車で切ってほしい!」とどの年代の方にも思っていただけることが大事だと考えたからです。おしゃれなフードトラックのようなイメージです。だから色も内装もこだわりました。
さらに、それを広めるために、いずれは人も車も増やして、望まれればどこへでも行けるようになれたらいいですね。
こめださんからひとこと
訪問美容の営業をすると、かなり価格の安い訪問理美容業者がすでに入っていることに多く直面すると思います。もちろん利用者さまのなかには美容にお金をかけられない方もいらっしゃいますが、お金をかけておしゃれをしたい方もたくさんいます。美容師側がサロンよりも低価格で訪問美容をすることで、自らの首をしめているように感じます。そのことで美容師全体の社会的地位が低くなっているのではないでしょうか。料理人が自宅まで来て料理してくれたら高いお金を払いたくなりますよね。それと同じで、訪問して施術したらサロン以上にお金をいただいてもおかしくないと思うのです。もしも営業で値切られることがあっても「自分の技術がその値段でいいのか?」と今一度考えてほしいと思います。みんなで訪問美容師の地位を下げないようにがんばりましょう!
Salon Data
はさみ日和【ハサミビヨリ】
- アクセス
- 近鉄郡山駅よりバスで矢田寺駅前行き30分。矢田バス停より徒歩1分
- 創業年
- 2018年
- 店舗数
- 1店舗
- 設備
- セット面1席
- スタッフ数
- 1名