サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.48
実例編サロン営業35年。訪問美容を15年続ける理由とは?
tabasa
- 全スタッフ5名
- 2店舗
- チーフ・訪問美容師:
- 北川健太さん
- 訪問美容開始:
- 2007年ごろ
- 訪問個人顧客数:
- 約50名
- 個人顧客訪問頻度:
- 週に1回〜2カ月に1回
- 訪問スタッフ:
- 5名(サロンと兼務)
- 価格:
- カット5,000円〜、パーマ9,500円〜、カラー9,500円〜
-
Q
訪問美容を始めようと思ったきっかけは?
-
A
サロンに来られなくなったお客さまたちからのご要望でした。
お客さまもスタッフも、長くつきあっていきたい。
オーナー内藤さん:サロンをオープンして今年で35年目です。「tabasa」は幅広い年代のお客さまに長くご利用いただいており、オープン当初に50代・60代だったお客さまは現在は80代・90代になっています。15年ほど前から、年齢とともにサロンに通えなくなった常連のお客さまが出てきました。とてもおしゃれでいらしたお客さまが、介護のショートステイ先で髪をただ短くカットされて残念に感じられていたのを目の当たりにしたりしていたのです。それなら私たちがご自宅に行ってカットしてさしあげられたらと思ったのがきっかけでした。
また、サロンのスタッフたちも長く勤務してくれています。スタッフたちが年齢を重ねても続けられる勤務形態の選択肢としても、訪問美容は有効だと考えました。
高校時代から福祉に興味があり、訪問美容がやりたくて美容師に。
北川さん:高校時代から看護師や介護士などの仕事に関心があり、ボランティアで介護施設に行っていました。認知症でほとんど表情がなかった高齢の女性が、美容師さんに髪をカットしてもらい「キレイになったね」とみんなに言われて、笑顔になってうっとりと鏡を見ていたのです。その様子を見て、「美容でも福祉の仕事ができる!」と知り美容師を目指しました。
新卒で就活をしていた13年前は、訪問美容をやっているサロンがほとんどなく、ようやく巡り会えたのが「tabasa」でした。入社時から訪問美容をやりたい旨を伝えると、サロンの費用でヘルパー2級(現:介護職員初任者研修)の資格を取らせてもらいました。以後、スタイリストになってから、サロンワークと兼務しながら訪問美容のメインスタッフを任されています。
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Q
訪問美容を始めるために何から準備しましたか?
-
A
在宅で施術ができる道具を揃えました。
在宅中心から施設へシフトチェンジしようとした矢先にコロナ禍が来ました。
オーナー内藤さん:最初はお客さまのご自宅で、ベッドに寝たままの状態でもシャンプーできる、簡易的な携帯用シャンプー台など道具を揃えることから始めました。スタッフ全員で練習して、使いこなせるようにしました。もともと幅広く営業していたわけではなく、サロンに来られなくなったお客さまに対して、ご自宅や、施設に入所された場合は施設にお邪魔して施術してきました。
在宅だけだと移動時間も多く、効率が良くありません。訪問美容で利益を出すためには介護施設訪問も視野に入れるべきと考えました。そして、3年ほど前に訪問美容用の車や、180度リクライニングできる移動式のイスやシャンプー台など設備を整え、介護施設への営業を始めたのです。
ホームページや紹介で個人のお客さまは広がっています。
北川さん:コロナ禍の影響で一時期はストップしていましたが、介護施設への営業は現在も進めています。直接飛び込みで伺ったり、求人情報誌でオープニングスタッフを募集している新しい施設を見つけると電話してみるなどです。
在宅のお客さまは、ご家族がうちのホームページを見たり、地域包括支援センターやケアマネさんにパンフレットを渡しているので、そこからのご紹介でご連絡をくださるなど、サロンのお客さま以外でも増えてきています。訪問美容の新規のお客さまは基本は私が担当していますが、サロンと同様に指名があればどのスタッフも対応し、全員が訪問美容をできる態勢になっています。
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Q
訪問美容を実際にやってみてどうでしたか?
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A
ご本人だけでなく、ご家族さまも喜んでくれることがやりがいにつながります。
家族のようにかわいがっていただけるのが嬉しいです。
北川さん:訪問美容ができることをホームぺージなどに載せたのをきっかけに、高齢者の方だけでなく、障がいのある方、怪我やご病気の方、育児中の方などさまざまな方からお電話をいただいています。それぞれ状況が異なったり、同じ方でも体調によって前回と同じようにはできなかったりと、その都度判断し、臨機応変な対応をしなければならないことも多いです。
それでも施術後に、ご本人だけでなくご家族も喜んでくださると、やってよかったといつも思います。日頃なかなか外出できない方が多いですが、「キレイになったからおでかけしようね」とご家族に声をかけられて嬉しそうにされている様子を見ると、こちらも幸せな気持ちになります。私のことを孫のようにかわいがってくださり、訪問すると私の娘の写真を見たがって「ひ孫ができたよう」と言っていただけるのもありがたいです。
訪問でもサロンでも、生涯お客さまをキレイにしていきたい。
オーナー内藤さん:よく訪問先のお客さまが「先生、長生きしてね」と声をかけてくださいます。「みんなを幸せにする」が「tabasa」のコンセプト。私がずっとがんばることで、お互いに年齢を経てもずっとお客さまとおつきあいさせていただき、生涯キレイで幸せになっていただければと思っています。在宅で長く伺っていたお客さまが、先日、介護施設に入所されました。その方のご主人から「実は僕の髪もやってほしいとずっと思っていたので、また来てくださいね」とお電話をいただきました。ご家族で頼ってくださり、ありがたく感じています。
訪問美容だけでなく、サロンもバリアフリーなので、車いすでも入れるようにしていたり、トイレに手すりも付けています。また、「tabasa はなれ」という完全個室の店舗もあるので、ご家族同伴でも他のお客さまに気兼ねなくお過ごしいただけるようにしています。
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Q
今後は訪問美容をどう展開していきたいですか?
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A
介護施設に参入できるよう、力を入れていきたいです。
技術や設備など、他店との差別化ポイントをアピールしていきたい。
オーナー内藤さん:スタッフたちにとって喜びだけでなく、稼げる場所として訪問美容を位置づけていきたいので、やはり介護施設営業に力を入れていきたいです。在宅のお客さまは、サロンで我々の技術や接客をご存じいただいていることで、訪問美容につながっています。心掛けてきたのは、サロンワーク以上に手早く、キレイにしてさしあげること。そして、その時間を楽しんでいただくことです。在宅で長く訪問美容を行ってきた技術力や経験とともに、リクライニングシートなどの設備面も整えているので、他店とは差別化できる我々の強みを介護施設にもアピールしていきたいです。
新しくできる介護施設に訪問美容のプロとしてアドバイスしていきたい。
北川さん:理美容のためのスペースを設けている介護施設もありますが、実際に利用すると使い勝手がよくなかったりすることもあります。介護施設は増え続けています。介護施設が今後理美容スペースを作る際、我々がアドバイスできることもあるので、そうした建設中の施設にも積極的にアプローチしています。将来的には「訪問美容といえば『tabasa』」と言われるくらいになれたらと思っています。
北川さんからひとこと
訪問美容を始める際に、美容師が最も壁と感じるのが営業だと思います。最初は門前払いは当たり前ですが、それが怖く感じますよね。我々も地域包括支援センターを訪ねたとき、最初は門前払いでした。でも、2回目は市役所に紹介してもらって行ったら、すごく真剣に話を聞いてくださったのです。紹介や人脈はとても大事です。忘れた頃に声がかかることもあって、どこでつながりが実るかわからないので、いろんな人に名刺やチラシをとにかく渡しておくことから始めてはいかがでしょう。
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