※「ホットペッパービューティーアカデミー×ハリウッド大学院大学」寄付講座
ホットペッパービューティーアカデミーは、美容系専門職大学院であるハリウッド大学院大学にて、2022年10月~2023年1月、寄付講座「ビューティビジネス概論」を開講。そのなかで計4回、美容業界の最先端をいくサロン経営者をお招きして、アカデミー長・千葉 智之とのトークディスカッションを開催
3回目となるゲスト回は、2022年12月8日。「QBハウス」など、国内外で735店舗(※2022年12月時点)を展開するキュービーネットホールディングス株式会社 代表取締役社長・北野 泰男さん。『ヘアカット専門店「QBハウス」~既成と規制を突破する~』をテーマにした、講演&トークディスカッションをレポート!
ニューヨークは、過去最高の売上を更新中
—(アカデミー長/千葉)現在735店舗とは、すごいですね!海外も積極的に展開されています。
はい、735店舗のうち、海外は香港・台湾・シンガポールなど137店舗になります。この(2022年)12月、カナダに会社をつくったので、さらに海外展開を加速させていきます。
—コロナ禍による、集客面での影響はいかがでしたか?
国内に関しては、ほとんど回復していますね。ビジネス街は下がり、都心から少し離れたところは上がっている傾向。海外でいうと、香港は規制もあって回復が遅れていますが、シンガポールはほぼ戻りつつあり、ニューヨーク・台湾は好調です。
ニューヨークはコロナ禍で現地の理美容師が去り、営業できなくなったサロンが多かったんです。また、物価がかなり上がったので、ほかに比べて金額が安い、というのもあって、うちに流れてきた。ロックダウン再開後、過去最高売上を更新中です。
—個人的に、「日本が一番安い」というのは複雑な心境です。
「ニューヨーク店は、ほかのサロンに比べて安い」とのことでしたが、日本円で約4,440円。QBさんのなかで一番高いんですね!
ただ、ニューヨークは今、ラーメン一杯が3,700~3,800円とかなので。物価から考えると、高いわけではないと思います。
—なるほど。ニューヨークはチップがあると思いますが、給料はどのように設定されていますか?
担当スタイリストには、給料と別にチップが入る形です。腕のいいスタイリストだと、チップもすごい額になりますね。指名制ではないので、お客さまも「あなた、よかったよ」という気持ちを、チップに込めてくれるんです。海外のスタイリストは「歩合」がないと、モチベーションが出づらい傾向にあります。一方、日本は「チームワーク」も大切にしているので、それらを含めた「評価」で昇給があります。
ゴールは「切れる人」ではなく、「教えられる人」
—「教育」は、どのようにされていますか?
理美容業界は、「修業期間が長い」「手荒れ・腰痛がつらい」「年齢とともに指名が減り、長く働くことが難しい」という理由で、去ってしまう人が多いですよね?それらを解決するため、2012年に「ロジスカットスクール東京」を設立しました。国内には、計8校あります。
入社したら、1 日8時間・6カ月で計1,152時間の研修をします。サロンワークには入らず、トレーニングに集中できる環境なので、半年という短期間で一人前になります。
「切れる人になる」を達成したら、最終的なゴールは「教えられる人になる」。年齢を重ねて体力が落ちても、教えることを身につければ、長く活躍できます。ちなみに現在、70歳代の技術講師もいます。
—それは素晴らしいですね!QBさんはサロンワークでも84歳まで働いた方がいる、とのことでした。「長く働ける」を、実現できています。
ちなみに研修マニュアルは、どのようなものですか?
QBは「カットが約10分」と決まっているので、そのスピードを叶えるためにロジカルに考える必要があります。技術を言語化し、さらに「頭の形を科学する」と呼んでいますが、頭の骨格上の点と線を図解であらわします。
10分でいくつかのスタイルを仕上げる社内コンテストもあり、みんなで日々ブラッシュアップしていますね。理美容の世界って「センスのある・なし」で済ませてしまうこともありますが、それは違う。もし技術が習得できないとしたら、それは「教える側」の問題だと思います。
—海外にもスクールはありますか?
現在、シンガポール・台湾・香港にあります。現地で教えるのは、日本のトレーナーのなかでも、特に実績を上げている人。やはり海外でのトレーナーは、難易度が非常に高いんです。
専門用語もたくさんあるので、当初は、通訳を介しても意思疎通が難しい面が多々ありました。海外の方は、わからないことは「わからない」とハッキリ言う。なので、マニュアルは細かいニュアンスに至るまで丁寧な言葉で、より論理的に伝わるように意識しています。
でも言葉以上に、「想い」が大事だとも思います。試行錯誤しながら、「教え方」を高めていく。そのステップが学びになるのでしょう、海外に行ったトレーナーは、さらに大きく成長しますね。
—スクールの反応は、いかがですか?
シンガポールは、2007年に「ロジスカットスクール」を設立しました。設立当初の卒業生には恨まれてしまうくらい(笑)、ものすごくブラッシュアップしています。まったく切れない人でも、10分で切れるようになる。スクールの卒業生が現場に出ると、クオリティが高いと評判になっているんです。この間は、70代の女性から「入学したい!」という希望がありました。
日本のやり方を一方的に押しつけるのではなく、その国ごとに合わせています。トレーナーも、スクールの卒業生が担えるようにしていきたい。現在、現役の専門学生にもバリカンワークなどの技術講座の提供に取り組んでいます。その方々の中から、QBハウスを足掛かりに世界に羽ばたいていってもらえれば、うれしいですね。
経営者として、意思決定は正しかったか?と常に自分に問う
—コロナ禍が始まったばかりの2020年、北野さんにインタビューをさせてもらいました。大変な状況のなか、スピード感をもって戦略を進める姿は、まさに「頼れるリーダー」という印象です。
あのときは、平然を装っていました(笑)。特にコロナ禍では、大事な判断を迫られることの連続でしたね。
実現したい未来に向け、計画を立て、実行する。そして大切なのは「振り返り」。自分の意思決定は正しかったのか、反省すべきところはなかったかと、常に自分自身に問います。コロナ禍では、時に現場の店長・マネージャーに苦しい思いをさせてしまった出来事も、あったからです。
—北野さんが、経営者として強く意識していることは、何ですか?
経営者は、感性だけでなく、理性も必要。自分だけの方程式を、確実に仲間に伝えられることが大事です。会社経営は、利益を出すことはもちろん、その状態を「持続」していかないといけない。「これがいい」と言って、成功するほど甘くありません。ライバルがマネできないモデルを、どうつくるか?そして、店舗にお金をかけるのではなく、「人」にかける。これからも最小の投資で、スタイリストに最大限、還元していきたいと思っています。
▼キュービーネットホールディングス株式会社
https://www.qbnet.jp/