第2章「人が辞めない組織づくり」その近道とは?
「“いい人材”に来てもらうためには、“いい会社”にするしかない。
そして会社の理念を共有すること。技術教育はそのあとです。」
理容室からレディースシェービングへ手を広げ、現在はネイルやリラクゼーションサロンなど8業態20ブランドを展開されています。複数の業態を手がける理由は?
単一業態だと、どうしても発展に限りがあります。たとえば商業施設のテナントに入る場合、単一だと競合店がすでにある場合は出店が難しい。でも複数の業態があれば、そのうちのどれかは出店が可能になる。これは人材にもあてはめることができます。年齢や志向がさまざまなスタッフを抱えていても、いろんな店があれば一人ひとりに適した職場を提供することができますから。
多数の店舗を展開しているのも、同様の考えからでしょうか。
もちろん事業拡大のためもありますが、出店とは「社員が活躍できる場をつくる」ための手段です。また多店舗展開をすることで、そのスケールに惹かれた「いい人材」が集まります。
業態や社員が増えるほど、そのマネジメントも難しくなるのが一般的です。そこはどう乗り越えてきたのでしょう。
最初はうまく「仕組み化」できていませんでした。でも会社を大きくするには、会社自体の魅力を高めることが第一です。その手段を探るため、僕は講習会やビジネス書などで常に学び、いいものはどんどん取り入れるようにしてきました。そうしたなかで、2009年に読んだ本にとても衝撃を受けたんです。『朝30分の掃除から儲かる会社になる』という小山昇さんの著書で、会社を立て直す過程にとった手段や事例が書かれたものでした。読んですぐ、小山さんの会社を見学に訪れまして。小山さんにお会いしてさらに感銘を受け、経営勉強会に参加しました。
そこでの学びを取り入れた「環境整備」は、リビアスを象徴する経営術のひとつですね。これを行うことで、どんな効果があるのでしょう。
「環境整備」とは、簡単に言うと「徹底した整理整頓をつうじた社員教育」。1カ月間毎日、どこの整備をするかという計画を各スタッフが立てて実行し、チェック項目にそって毎月一回評価を受けるという決まりです。「人の教育は形から」という考えが基になっています。整理整頓、あいさつといった「形の教育」をまず徹底させて、「心の教育」はそれからです。整理整頓というのは、やれば必ず変化が目に見えてわかりますよね。そうすると自信がついて、本人も変わっていきます。
「環境整備」は毎朝30分間、全店で必ず行います。やり続けることが一番難しく、そして一番大事でもあります。徹底して行う習慣は、必ずその他の仕事にも反映されます。ですからこれは筋トレみたいなもので、組織の体幹をつくるトレーニングなんです。根本がしっかりしていれば、社員それぞれに個性があってもずれることはありません。
「やり続けることが一番難しい」とはその通りだと思います。続けるための対策はありますか?
毎月1回の検査日を設けているので、やっていなければすぐわかります。さすがに今は副社長と手分けするようにしましたが、以前は僕が全店をまわっていました。
おひとりで全店をまわっていたのですか!手分けしたとはいえ、いまも負担が大きいのでは?
でも自分の足で行くことで店舗の様子がよくわかり、問題の早期発見に役立ちます。問題があるところは「なんか雰囲気が悪いな」と感じるものです。それに陣中見舞いの意味合いもありますね。会社が大きくなると、どうしても社長・社員間でお互いの顔が見えなくなりますから。顔を合わせて話すことは、信頼関係につながります。そのため社員との飲み会も頻繁に開いていますよ。昨年は一年のうち280日くらいが飲み会だったんじゃないかな(笑)。
それに、各店をまわるのが大変だと感じたことはありません。ありがたいことに、行けばみんな喜んで迎えてくれます。モチベーションが上がりますよ、僕自身がね。でもうちの会社自体は人間でいうと「小学生から中学生になったくらいかな」と思うので、これからは親離れというか、上層部に任せられるものは僕から移行する段階だと思っています。
「環境整備」以外に、大切にしている教育方針はありますか。
技術・能力よりも第一に「価値観教育」を重視しています。技術はうちを辞めても学べるけれど、「リビアスで働きたい」と思ってもらうためには価値観を同じにすることが大切です。価値観、つまり会社の理念や方針です。会社にとって戦力になるのは、社長と価値観を共有できている人ですから。毎年の目標は「経営計画書」にすべて入れ込み、本の形にして全社員に渡しています。「人が辞めない会社」への近道は、社員一人ひとりに愛社精神を根付かせること。「いい人材」に来てもらうためには、「いい会社」にするしかない。そして「いい会社に見合う取り組み」をしていけば、それに合う価値観の人が集まります。
経営計画書には都合のいいことだけではなく、借入金などの財務表もすべて記載しています。全部見せることでこちらの本気が伝わりますし、社員の経営への参加意識もアップします。人事評価方針も書いてあり、チャンスが全員に与えられるようにしています。やる気がある人は方針に応じた行動をとれば、正当な評価が受けられる仕組みです。
財務表などの経営計画書をいち社員が読み解けるというのも珍しいですね。そうした教育もされているのですか。
いくつかありますが、店長クラスには「理美容版MG(マネジメントゲーム)研修」を実施しています。これは、プレイヤーが経営者として会社のマネジメントを行うシミュレーションゲームを、理美容業界版にしたもの。サロンオーナーになって、決算書の作成や人材管理をゲーム感覚で疑似体験できる教育ツールです。
この研修を受けることで、経営の共通言語をもつことができる。また若い社員でも、利益や人件費などを考えられる人材に育ちます。だからうちの営業管理は店長に任せています。各店の売上目標などをまとめた経営計画や実行計画を、それぞれの店長が作成しているんです。もちろん最初からきちんとしたものは作れませんが、研修や半年ごとの評価をすることで上達していきます。
リビアスの経営サポート事業部では、他社の理美容サロン・企業向けに経営セミナーを開いています。これは社員教育を基にしたものなんですね。
うちはFC(フランチャイズ)店舗があるのですが、弊社の社員教育を受けた直営店と、そうではないFC店舗でスタッフの質に差が出てきた。それを埋めるために、FC店舗向けの経営セミナーを開いたのが始まりです。いまはFCに限らず他社さんも受け入れ、弊社のノウハウを体験してもらえるようになっています。