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訪問美容~データ&実例編~

超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.57

実例編訪問美容で独立!ママでも一家の大黒柱に。

妊娠を期にサロンを退職し、出産後にひとりで「かみのけやさん」という訪問美容のブランドを立ち上げた丹羽美穂さん。訪問美容を始めてからこの仕事が天職と感じているという丹羽さんの訪問美容の道のりと、今後の展望についてお話を伺いました。

「かみのけやさん」丹羽美穂さん

訪問美容開始:
2020年
訪問施設数:
16施設
施設訪問頻度:
1カ月に1〜2回(1回の訪問で5〜30名)
訪問個人顧客数:
約100名
個人顧客訪問頻度:
1〜3カ月に1回
価格:
施設 カット2,500円〜、カラー4,500円〜、パーマ5,000円〜(施設も3名以下の場合は個人宅価格で対応)

Q

訪問美容を始めようと思ったきっかけは?

A

出産後の自分のキャリアを考えたことでした。

妊娠中に訪問美容の講座の広告を見て初めて知りました。

おしゃれが好きだった中学生のときに、通っていたサロンのスタイリストさんにあこがれて美容師を志しました。社会人スタート時は出身地である愛知のサロンでフルタイム勤務していましたが、結婚を機に浜松に転居。別のサロンにパートとして転職しました。妊娠したときに退職し、なんとなく出産後の自分の働き方を考えていたんです。子育てママスタイリストはパート勤務せざるを得ないと思っていたので、自分もそうなるのかなとか、自分のスタイリストとしての可能性ってそれくらいしなかいのかなと。そのときに、ネット広告で訪問美容の講座を見つけました。ママでも働きやすいと書いてあったので、そういう仕事があるんだと。また、実母が難病で家族で介護してきたこともあり、同じ境遇の方々に寄り添える仕事かもしれないと思いました。

  • 訪問美容を始めてまだ4年だが、多くの顧客を獲得している丹羽さん。一日ほぼフル稼働しているそう

訪問美容を実践されている美容師さんに同行させてもらったことで自信がつきました。

産後、子どもが9カ月のときに保育園に預けられることになり、その講座に行ってみたのが最初の一歩でした。講座では訪問美容の最低限の知識や技術を教わりましたが、そこから実際に顧客を獲得する道筋はイメージできませんでした。それでネットで訪問美容をやっている人を近場で探したんです。隣の市で訪問美容の実践とスクーリングをされている美容師さんを見つけて、介護施設に同行させてもらいました。現場の様子や実際に何をどのようにするのかを学べて、実践する自信がつきました。この方がその後お仕事を引退されて、施設を2件引き継がせていただけたのもラッキーでした。

  • 掃除機で髪を吸いながらカットできるバリカンを使用。安全で清潔にカットができる

Q

営業はどのようにされたのですか?

A

すべて自分の足で動きました。

飛び込み、ポスティング、ホームページ作成、SNSと何でもやっています。

まず自分をアピールするチラシを作って近隣の施設や包括支援センターに飛び込みで営業に行きました。個人宅には自分の足でポスティングもしましたね。また、ホームページを作ろうと考え、最初は地元の制作会社に頼もうと思いましたが費用が高額。そこで、クラウドワークスでできる人を探して、割安で作ってもらいました。SNSも開設しましたが、こちらはお客さまより訪問美容をやりたい美容師さんからのご相談の方が多くなったので、同業者向けの情報発信として利用しています。

  • 「自宅でも美容室クオリティー」と打ち出すことで、おしゃれをしたい高齢者やご家族から注目してもらえた

飛び込みやホームページでタネをまいた効果は徐々に出てきます。

当初はなかなか契約に結びつかなかったので不安もありました。営業に行くことへの辛さよりも契約がとれない不安の方が大きかったので、がんばれたのかもしれません。4~5カ月くらいして以前飛び込みしていた施設から問い合わせが来て、ようやく契約がとれました。すぐには実を結ばなくても、タネをまいておくことが大切なんです。個人宅のお客さまはほとんどがホームページからのお問い合わせです。私は「自宅や施設に出張美容室」「自宅でも美容室クオリティー」と打ち出していたので、福祉的なことを前面にしている近隣の訪問理美容会社とは違って見えたようです。そのため、個人宅のお客さまは女性が中心になっています。女性はカラーやパーマをされる方が多いので単価が高くなるメリットもあります。最初の一年はいつ契約が取れるかわからなかったこともあり、デイサービスでのパート介護職員とダブルワークしていました。訪問美容の講座に行った後に介護の知識ももう少し深めたいと思って、介護職員初任者研修の資格も取得していました。介護の資格がなくても訪問美容はできますし、直接お客さまの介助をするわけではありませんが、自分もお客さまもお互いに安心感につながると思っています。

  • 訪問手段である車に組み立て式移動シャンプー台やワゴン、掃除機などを積んでいる。訪問範囲は片道約1時間圏内としている

Q

ひとりで営業も実務もがんばれている原動力は?

A

自分がひとりでも1からものごとを生み出せるという思いです。

ママスタイリストが自分の道を切り拓け、一家の大黒柱にまでなれることを知ってほしい。

私が一歩踏み出せたのは、ネガティブな感情からだったかもしれません。パート勤務していたときに「これだけの数のお客さま対応をしても時給は変わらないの?」という現状を打開したい気持ちが強かったのです。ママスタイリストのパート以外の働き方を模索していたときに訪問美容という仕事と働き方を知ったのです。これなら時間にとらわれずに、自分の裁量で責任のある仕事ができるかもしれないと思ったのです。実際に独立して営業から訪問施術までひとりでやってみて、お客さまの数が増えていくなかで、自信がついていきました。現在の平均売上はサロンで社員として働いていたときの給与の3倍以上。私が一家の大黒柱になれました。自分の人生で1からものごとを生み出せて、生活ができる収入も得られるというのは、とてもやり甲斐があります。サロンの中で与えられた範囲で働くのではなく、自分で道を切り拓けるとは思ってもみませんでした。そんな自分の変化が嬉しいですね。子育て中のママ美容師さんたちにもこういう道があることを伝えたいです。

  • 訪問美容との出会いが、自分から一歩踏み出してものごとにチャレンジするきっかけになったという

訪問美容が天職と感じるほど自分に合っているけれど、業界の課題も感じています。

訪問美容をやってみて、訪問先の高齢者の方々とのふれあいが私にはとても楽しく自分にあっていると感じています。人生の先輩方に心から喜んでいただける姿を見られるのがうれしいですね。もうサロンワークには戻れないと思うくらい訪問美容は天職だったのかもしれません。
逆に大変だと思うのは、訪問美容業界全体の課題ですが、サロンに比べて単価を上げにくいことです。自分も営業を始めた当初は件数が欲しかったのでどうしても価格を下げざるを得なかったこともありますが、それでは継続しませんし自分が疲弊していきます。また、要介護度や重症度にかかわらず料金が一律というのも、本来は違うのではないかと思うこともあります。これらは自分ひとりでは解決できない課題なので、業界全体で考える機会があったらいいなと思います。

  • 個人宅のお客さまは女性が中心だが、ご要望があればご夫婦ともに施術することももちろんある

  • 「人生の先輩方のお話を聞きながら施術することが楽しい」と語る丹羽さん

Q

丹羽さんの今後の展望は?

A

いろいろな方の相談に乗れる人になりたいです。

心理学も学んでみたいです。

SNSで同業者からの相談が来るとお伝えしましたが、訪問美容を志す方々の相談に乗っているうちに、人の心の悩みにもっと寄り添えるようになりたいと思うようになりました。心理学などを学んで、人の相談に乗る仕事もしていきたいと考えています。それが、訪問美容のお客さまの心にさらに寄り添えることにもつながるのではないかと期待しています。

丹羽さんからひとこと

訪問美容はこれからもっと必要とされる仕事だと思いますが、私のように向いている人とサロンの方が合っている人とそれぞれです。興味があるのなら、実際にやっている方に1度同行させてもらうとよいと思います。現場で生で体験すると空気感もわかるので、ご自身が訪問美容に向いているかそうでないかがわかると思います。

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