サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。

vol.65
実例編大阪エステサロンで訪問美容を開始。1年で売上を伸ばせた理由は?

CRESTAGE
- 全スタッフ1名
- 1店舗
- オーナー:
- 米田美穂さん
- 訪問美容開始:
- 2024年
- 訪問施設数:
- 3施設
- 訪問個人顧客数:
- 20名
- 訪問スタッフ:
- 1名(不定期で依頼する業務委託メンバーは約3名)
- 価格:
- フェイシャルエステ(個人宅)フェイシャル+選べるサブメニュー計90分1万9,800円、フット爪切り4,000円~、+足裏角質ケア2,000円~、フットトリートメント15分2,000円、ネイル(ケア+水性ネイル)4,000円
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Q
訪問美容に関心を持ったきっかけは?
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A
父の介護・看取りをしたことがきっかけでした。
美容を通じて「介護業界に恩返しがしたい」。
元々は化粧品の販売やスキンケアアドバイザーをしており、コロナ禍をきっかけに独立しました。当時いちばん下の子供が生後4カ月で、病気の父を自宅で介護する必要もありましたので、オンラインでスキンケアのカウンセリングをして物販も行うといったスタイルで仕事をしていました。その時にお世話になった看護師・介護士・ケアマネジャーの方々がすごく良い方たちで…私は美容しかやってこなかった人間ですから、この美容の力で介護業界に恩返しがしたいと思い、訪問美容に挑戦することにしました。
介護美容の専門学校に通いながら体験モニターを募集。
自分自身に訪問美容・介護美容の知識がまったくなかったものですから、まずは介護美容の専門学校に1年間通うことにしました。卒業までは体験モニターを募集し、とにかく経験を積みながら宣伝に使えるような写真を撮っていくことに。そこから口コミで利用が広がったり、有料化の後でも継続したいと言っていただけたり…利用の輪が広がっていったと思います。高齢女性の方の口コミ力って本当にすごいんです。元気で明るくて「ギャル」と呼びたいくらいで(笑)、たくさんパワーをいただきました。
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4人のお子さんのママでもある米田さん
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Q
どうやってお客さまを増やしていきましたか?
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A
体験会の実施、高齢者の方や介護施設への営業など、できること何でもやりました。
最初は個人宅を中心に広げていった。
サロンは2024年1月にオープンして、介護美容専門学校を卒業した3月から訪問美容を本格的にスタートさせました。まずは区民センターの集会室を借りて、地域密着の体験会を月に1回実施。ご利用者さまはアクティブシニアの方々がメインで、ハンドケア・ネイル・フットケアなどを提供していました。福祉会館に週1回通って、高齢者の方向けのイベントでチラシを配らせていただいたり、高齢者の方が集まる喫茶店に足繁く通ってお声がけしたり。あとは友人にご家族を紹介してもらったり、知人の介護職の方に紹介をお願いしたり…できることは何でもやりました。体験会の時は必ずと言って良いほど「お店はどこでやっているの?」と聞かれるので、店舗を構えていることも信頼につながっているのかなと感じています。個人的に「訪問美容・介護美容の魅力は個別ケアができることだ」と思っていましたので、在学中から個人宅を中心にご利用者さまを増やしていきました。でもどんなに頑張っても1日で2回訪問するのが限界という状態。介護施設にも広げていかなければ…と感じるようになったのです。
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「CRESTAGE」店内の様子。清潔感があり、洗練された空間で施術を受けられる
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訪問美容には、これらの商材を小さなボトルに詰め替えて持って行っているそう
「介護施設にとってのメリット」を伝えていった。
介護施設には、最初は挨拶回りからスタート。2025年の3月頃から本格的に営業を行い、契約をいただけるようになってきました。意外とお断りされることは少なかったですね。営業の際に「介護施設にとってのメリット」をしっかり伝えていたからかもしれません。介護美容は「キレイになること」だけが価値なのではありません。美容はあくまでもツールのひとつで、大切なのはご利用者さまとのコミュニケーションなのです。「この1時間は私におまかせください。ご利用者さま3人を同時に見守りながらフットケアを行っていきます」といったスタンスです。介護施設の方々が提供する衣食住とは違った触れ合いができて、最初は緊張していたご利用者さまが、互いのぬくもりを感じながら施術をするうちに心が打ち解けていって、涙を流して喜んでくださることもあります。お金のやりとりは施設を通さず、直接ご家族と行うことも強みになっているかもしれません。最初にご家族の方の同席必須の無料体験会を実施し、その後はご家族と直接契約を交わしています。介護職の方の負担を増やさず、むしろ軽減しながらケアができる。そういった魅力を伝えていくことで、契約が少しずつ増えていきました。
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訪問美容を始めた当初は、自治体のイベントなどでメイクレッスンも行っていたそう
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Q
訪問美容で利益を出せるようになったのは?
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A
スタートして丸1年経った頃です。
サロン営業、訪問美容、講師の三本柱で活動。
初期費用としていちばん大きかったのは介護美容専門学校の学費ですね。収入として安定しだしたのは、サロンをオープンしてから丸1年経った頃でしょうか。現在の仕事のバランスとしては、サロン営業が月に6回で、訪問美容は週2~3回。あとは訪問美容を始めたい方に対して行っている講座やコーチングに充てています。売上としてはこの講座・コーチングがいちばん大きいです。訪問美容の売上は月によって波がありますが、35万円を下回ることはないかと思います。母の日期間に販売したギフトチケット「介護美容を贈ろう」も好評で、60件を超える依頼をいただきました。ご予約の人数が多くてひとりでは手が回らないときは、業務委託スタッフに来てもらったり、コーチングを行っている生徒さんに体験も兼ねてお手伝いをお願いすることも。私も必ず現場に行っています。
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オンライン講座・コーチングの生徒はまだ募集中だという米田さん
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Q
今後の夢や目標は?
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A
地域の課題解決のために行動していきたいと思っています。
訪問美容のやりがいは、ご本人と家族に喜んでいただけること。
私自身が介護をしていましたので、現在介護をしているご家族の気持ちはとてもよくわかります。親御さんの命と向き合うご家族には「怖い」という気持ちもあるでしょうし、やるせないと感じることもあるはずです。そういったことも含めて今日この瞬間が掛けがえのない貴重なひとときです。そのお時間をご一緒させていただけて、ご利用者さまご本人が喜んでくださることでご家族から「ありがとう」という声をいただけるなんて、こんなに嬉しいことはありません。ご家族から「あなた(米田さん)がいてくれるおかげで、お母さんがすごく嬉しそう」とおっしゃっていただけたこともあります。ご家族に寄り添い、心の負担を軽減していきたいと考えておりますので、そんな言葉をいただけた時が本当に幸せです。
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訪問エステの様子。介護施設のベッド上でも施術を行っている
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訪問美容の道具一式。可動式ベッドはアウトドアグッズを使用している
孤立している高齢者の方々とつながれる社会をつくりたい。
訪問美容・介護美容を始める前は「本当にニーズがあるのかな?」「ご利用者さまの課題って何だろう」とわからないことも多かったので、そこを探るために区民センターや福祉会館で体験会の声がけを行っていました。でもそこで深刻な地域の課題を目の当たりにしたのです。超高齢化社会の中、地域との関係性が希薄になって孤立化している高齢者の方々がたくさんいました。どうやったらこの課題を解決できるのか?といろいろ考えまして、まずは行政と協力してイベントをやっていく予定です。高齢者の方、障がいがある方、若い健康な方々が接点を持ち、互いに支え合えるコミュニティをつくっていきたいのです。まずは小規模なイベントから始めて、どんどん輪を大きくしていけたら…と考えています。
米田さんからひとこと
今はまだエステ・ネイルなどの訪問美容・介護美容で成功している方は少ないですし、私も正解がない中で手探りでやってきました。でもひとつ言えるのは「机の前だけでは答えは得られない」ということです。答えは現場にしかありません。一歩踏み出すのは怖いかもしれませんが「目が出るまで最低1年はかかる」と思って続けることが大切ではないでしょうか。逆に言えば「続けてさえいればいつか勝てる」のですが、続けられる人は本当に少ない。泥臭く頑張った者勝ちだと思って、ぜひ続けていってほしいと思います。
Salon Data
CRESTAGE
- アクセス
- 粉浜(こはま)駅から徒歩3分
- 創業年
- 2024年
- 店舗数
- 1店舗
- 設備
- 完全個室1部屋
- スタッフ数
- 1名