「障がいがあるお客さまに、どう接したらいいんだろう?」
「何か特別な対応が必要なのかな…?」
そう感じて、少し戸惑ってしまうサロンスタッフの方もいらっしゃるかもしれません。
この連載では、障がいがあるお客さまとの向き合い方をテーマに、現場で役立つヒントをお届けしています。今回は、「精神障がい・発達障がい」のあるお客さまについてです。
外見からはわかりにくいため、「見えない障がい」とも呼ばれます。だからこそ、私たちはまず「知る」ことから始めてみませんか? ちょっとした知識と想像力が、お客さまの安心感を育み、信頼されるサロンへの第一歩となります。
まずは知ることから。精神障がい・発達障がいとは?
精神障がいとは?
脳の機能的な問題や心理的な要因が関係し、思考、感情、行動に影響を及ぼしている障がいです。特定の刺激や状況でパニックになったり、動けなくなってしまうこともあり、日常生活や社会生活に困難が生じる状態を指します。症状や状態は人それぞれで、100人いれば100通りの症状の現れ方があります。
発達障がいとは?
脳機能の発達が関係する障がいです。代表的な特徴として、他人との関係づくりやコミュニケーションなどが苦手であること、パターン化した行動への強いこだわりや、感覚の敏感さといった特徴があります。苦手な刺激が続くと、パニックになってしまったり、不安を落ち着かせるために独り言を言ったり、大きな声を出す人もいます。

症状はさまざまであるため、サロンの環境やスタッフの対応が、ご本人の安心感に大きく影響することを、まずは心に留めておきましょう。
【シーン別】~精神障がい・発達障がいがあるお客さま~「あったら、嬉しい」配慮は?
精神障がい・発達障がいのあるお客さまが、どのような配慮が「あったら、嬉しい」と感じているのでしょうか。#3でご紹介した調査をもとに、予約からお会計まで、5つのシーン別に見ていきましょう。障がいがある方全体の平均値と比較すると、その「気持ち」がより具体的に見えてきます。
《予約時》「個別の相談」が安心の第一歩

精神障がい・発達障がいのある方(n=218)、全体平均(n=442)/ともに複数回答
注目したいのは、2位の「個別相談や質問ができる機能がある」(37.6%)。全体の平均値(30.5%)より7.1ポイントも高く、来店前に不安を解消したいという気持ちが伝わってきます。予約時の備考欄の設置や、自社ホームページの問い合わせフォームの案内などを工夫するだけで、お客さまの心のハードルをぐっと下げることができます。
《受付時》「ゆっくり・はっきり」が基本姿勢

精神障がい・発達障がいのある方(n=218)、全体平均(n=442)/ともに複数回答
1位の「ゆっくり・はっきり話してくれる」(52.8%)は全体平均(44.8%)を8ポイント上回りました。一度に多くの情報を伝えると、混乱させてしまうことがあります。まずは落ち着いたトーンで、一つひとつ伝えることを意識してみましょう。
《カウンセリング時》心地よい「距離感」を大切に

精神障がい・発達障がいのある方(n=218)、全体平均(n=442)/ともに複数回答
1位の「無理に話を続けず、適度な距離間で対応してくれる」(61.9%)は全体平均(51.6%)を10ポイントも上回る結果に。2位の「専門用語を使わず、具体的に伝えてくれる」(51.8%)も全体平均(42.8%)を9ポイント上回ります。コミュニケーションに苦手意識を持つ方も少なくありません。「今日は会話を楽しみたいですか?静かに過ごしたいですか?」と最初に希望を聞くだけで、お客さまは安心して過ごせます。また、3位「ゆっくり・わかりやすい言葉で説明してくれる」「要望を一方的に決めず、こちらの希望を丁寧に聞き取ってくれる」(ともに47.7%)も全体平均より高く、具体的で丁寧な説明が求められていることが分かります。
《施術時》「静かな時間」と「五感への配慮」がカギ

精神障がい・発達障がいのある方(n=218)、全体平均(n=442)/ともに複数回答
1位の「話しかけず、静かに過ごせるよう配慮してくれる」(66.1%)は全体平均(56.1%)を10ポイント上回る結果となりました。「静かに過ごしたい」というニーズは、精神・発達障がいのあるお客さまにとって特に重要です。 さらに見逃せないのが3位の「刺激への配慮」。こちらも全体平均(26.2%)を10ポイント上回っており、シャンプーの香りやドライヤーの音、照明の明るさなど、五感の敏感さに寄り添う姿勢が大切になります。
《会計時》「焦らせない」やさしさが心にしみる

精神障がい・発達障がいのある方(n=218)、全体平均(n=442)/ともに複数回答
2位の「支払い時に急がせず、待ってくれる」(56.9%)は全体平均(51.1%)より5.8ポイント高く、ここでも「焦らなくて済む、落ち着いた環境」が求められていることがわかります。キャッシュレス決済の導入も、スムーズな支払いを助け、お客さまの負担を軽減します。
~精神障がい・発達障がいがあるお客さま~
お客さまの声で知る「本当にうれしかった配慮」
実際のサロン現場で、お客さまが「うれしかった」と感じたのはどんな瞬間だったのでしょうか。
40代・女性
「静かに過ごしたい」を尊重してくれた
カルテに『会話を楽しみたいか』を書く項目があり、仕事内容などプライベートな質問をされずに済んでありがたかったです
(障がい上、短時間の仕事なので)初回からプライベートな質問をされて、仕事内容などを聞かれると正直その後は通いづらくなります。「今日はお仕事ですか?」「この時間にお帰りですか?」「お休みだったんですか?」とか聞かれるとなんだか嫌な気持ちになります
40代・男性
事前に伝えた「苦手」に対し、柔軟な対応がうれしかった
事前に「シャンプー中に話しかけないでほしい」「香りが強いのが苦手」と伝えたところ、丁寧に対応してくれたことがありました。また、体調に不安があることを伝えると、照明を少し落としてくれたり、静かな席に案内してもらえたりして、とても安心できました
- 予約時に『施術は静かに過ごしたい』というチェック項目があるとあまり話さなくていいので助かります(30代/女性)
- 精神症状について、あれこれ聞いたりせずにたぶん一般の方と同じように接してくれた(50代/女性)
30代・女性
柔軟で、あたたかい対応に救われた
精神的にボロボロで、予約時間に連絡できず遅れた時、すごくやさしく対応してくれて涙が出ました
- 暖房が暑くて苦手だと伝えたら、ドアを開けて換気してくれた。トリートメントのミストが嫌だと伝えたら、ミスト無しで対応してくれた(30代/女性)
▶一つひとつ、丁寧な説明が安心につながった
- カラーの時、わかるまで丁寧に説明してくれた。病気のことを伝えたら、真摯に説明してくれてうれしかった(20代・女性)
- できない施術は、きちんと理由を説明してもらえました。シャワーの温度やマッサージの強さも聞いてくれるので答えやすいです(30代/女性)
- 空調を調節してくれた。耳元のカット(バリカン)がうるさく感じるので耳栓をしてもいいか聞いたら大丈夫だった。長時間が苦しいので、なるべく時間をかけないように配慮してくれた(40代/女性)
高価な設備や特別なスキルは必要ありません。ちょっとした言葉や行動に、思いやりが宿っています。