サロンで始める
訪問美容~実施マニュアル編~

訪問美容を始めたいオーナーの皆様に贈る全13シリーズ。
実例などを交えながら、訪問美容経営のために必要なノウハウをわかりやすくご紹介します。

vol.13

【経営・マネジメント編/スタッフ教育その2】人材をマネジメントしよう③

【経営・マネジメント編/スタッフ教育その2】

人材をマネジメントしよう③

実例紹介や事業計画の立て方、営業方法など、さまざまなテーマをお届けしてきた「サロンで始める訪問美容」。ラストとなる今回は、訪問美容を始める前に、携わるスタッフ全員が身につけておきたい3つの要素についてレクチャーします。

アドバイザー:ふくりび 岩岡さん

アドバイザー:
ふくりび 岩岡さん

お客さまの安心・満足につながる
「3つの要素」を理解しておきましょう。

 訪問美容の現場では、vol.12でご紹介した技術とともに、お客さまの希望をくみ取る「コミュニケーション能力」や、お客さまの安心につながる「安全管理の徹底」「緊急時の対応力」が求められます。事前にしっかり身につけておきましょう。

「訪問美容」スタートまでの6ステップ

1

お客さま本人や家族と信頼を築くために、
「コミュニケーション能力」を磨きましょう。

 訪問美容の基本は、お客さま本人やその家族と信頼関係を築くことです。そのために重要なのは、コミュニケーション。施術の結果が希望に沿わなかったなどの事態を避けるためにも、まずはお客さま・ご家族の要望をしっかり聞いたうえで、情報をわかりやすく正確に伝え、相手が正しく理解できたかを確認しましょう。

 またコミュニケーションは、「言語」そのものに加えて「非言語的なもの(表情や動作、装いなど)」と「準言語(声のトーンや速さなど)」で成り立っています。ある研究では、メッセージを伝える際の「非言語的なもの」の役割は、65%を占めるともいわれています。下記に紹介する3つの「非言語」部分を見直し、コミュニケーション能力を高めましょう。

1.表情/姿勢

 はっきりとした声であいさつすることはもちろんですが、笑顔も必須。「笑顔」はすべての基本です。また、謙虚な姿勢でいることや、相手の話を聞くために少し前傾姿勢をとること、腕や足を組まないことは、話を聞く姿勢として大切です。

2.共感的態度

 共感とは、相手と同じ目線に立ち、「あなたの気持ちはわかる」という気持ちを伝えることです。上から目線で「かわいそう」と同情することは共感ではないのでご注意を。共感の姿勢を示す際は、以下の3つの基本を意識しましょう。

①目の動きや視線を合わせる「アイコンタクト」
②無声の反応であり、最小限の励ましの方法とされる「うなずき」
③「ええ」「そうなんですね」など、有声の反応である「相づち」

3.身だしなみ/装い

 見た目は人の評価に大きく影響するといわれています。相手の身だしなみを整える美容のプロにとって、自分自身が身だしなみを整えることは、信頼関係を築くうえで欠かせません。おしゃれを追求するのではなく、相手と状況を意識した清潔感のある装いを身につけましょう。基本的に、ミニスカートや大ぶりのアクセサリーは避けるなど、お客さまをサポートしやすい動きやすい服装がおすすめです。(服装については、vol.2のコラムを参照)。

【よくある質問】
高齢のお客さまへの言葉遣い、注意すべき点は?

 相手が高齢者の場合、親しみを込めて「おばあちゃん」「おじいちゃん」と話しかけることがありますが、訪問美容の現場では「個別化」が原則のため、「○○さん」と呼びかけるべきです。また、敬語を用いることはもちろん、円滑なコミュニケーションを図るために、下記の「クッション言葉」や「ほめ言葉」もぜひ積極的に活用しましょう。

●相手を嫌な気分にさせない「クッション言葉」/「恐れ入りますが」「大変申し訳ございませんが」など
●相手を良い気分にさせる「ほめ言葉」/「とても素敵ですよ」など

2

訪問美容を安心してご利用いただくために、
「安全管理の徹底」を心がけましょう。

 虚弱もしくは寝たきりの高齢者の方は免疫力が低下しており、感染症を起こしやすい状態といえます。また高齢者は、感染症を起こしても熱や咳が出にくいなど、症状がわかりづらいことが多くあります。そのため感染から自らの身を守り、ほかのお客さまに感染を広げないために、「感染予防」を徹底しましょう。衛生面に気を配ることはもちろん、下記の感染予防の知識も身につけ、習慣づけることが大切です。

【感染予防の基本&ポイント】

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①施術前後に必ず、手指消毒または手洗いを実施する

  • 書類などに書き込む前にも①を行う(施術を行った手でそのまま書類に触らない)。

②施術後にうがいを行う

③マスク・手袋を必要に応じて着用する

  • 咳や痰がみられたり、血液や体液が飛び散る場合においては、必ずマスクを着用し、施術後は必ずうがいをする。
  • 血液・体液、傷のある皮膚、粘膜に触れるときは、必ず手袋を着用し、施術後は必ず手袋を外して手洗いする。

※注意/器具等の衛生管理については、美容師法に準ずる。

※参考/施設では夏はノロウイルス、冬はインフルエンザ等の集団感染が起こりやすく、予約がキャンセルになることも多い。

 また、マスクを着用していない状態でお客さまが咳き込まれたなどの場合は、お客さまが感染症かどうかに関わらず、美容師法に準じて対処しましょう。サロンのオーナーや責任者へ連絡を取り、周りの人(同行している同僚やケアマネジャーなど)に現場の状況を確認してもらいましょう。これは万が一、感染してしまった場合、労災認定の際に状況説明が必須となるためです。

3

いざというときに適切な行動を取るために、
「緊急時の対応」を確認しておきましょう。

 お客さまの体調が急変したり、転倒してしまった場合は、素早く、適切な行動を取ることが肝心です。付き添われている介護者に協力を求めることが大前提ですが、いざというときの備えは大切。下のシーン別対応法を参考に、サロンで緊急時の対応マニュアルを作っておきましょう。また、訪問美容の施術をして大丈夫か、下のお役立ちチェックリストを参考に決めておくことも大切です。

1.倒れているお客さまを発見した場合

 まず落ち着くことが重要。心肺停止の可能性があるため、迅速な対応が求められます。基本は、近くの人にできる限り応援を要請することです。

①意識の有無を確認し、最寄りの家族・介護スタッフを呼ぶ
②呼吸と脈の有無を確認する
③呼吸と脈がない場合は近くの人に応援を頼み、搬送を手伝う
※救急の知識がある場合は、心臓マッサージを行う

2.お客さまが転倒・転落した場合

 一見、外傷がなくても、後に骨折などの問題が発覚することがよくあります。誠意ある速やかな対応により、後のトラブルを回避できることもあるので、お客さまが転倒・転落してしまったことは、絶対に隠さず、早めに対応・報告を行いましょう

①必要があれば応援を呼ぶ
②「大丈夫ですか?」「気持ち悪くないですか?」など、症状を尋ねる
③家族や介護スタッフと、サロンの責任者に報告する

3.お客さまが過剰に反応された場合

お客さまによっては、施術を嫌がって抵抗するなど、過剰な反応を示す方がいらっしゃいます。無理に力で抑えつけようとせず、付き添いの方に応援を要請しましょう。

①第一に、お客さまの安全を確保する
②相手の話をよく聞く。決して力で無理に抑えつけようとしない
③周囲の人をできる限り集めるなど、応援を要請する

【よくある質問】
賠償保険には入った方がいい?

 訪問美容サービスを保証対象にしている賠償保険に加入しておくと、事故が起きてしまったときに、お客さまだけでなく、スタッフなどサロンを守ることができます。「施設の機材を壊してしまった」「施術中にケガをさせてしまった」など、万が一のときのために、ぜひ加入を検討しましょう。賠償保険への加入は、お客さまの安心感につながるほか、ほかの訪問美容事業者との差別化にもつながります。

お役立ちチェックリスト

訪問美容の施術をしても大丈夫?

訪問美容の現場でスタッフが迅速に判断できるよう、施術をしても大丈夫か、下のチェックリストを参考に決めておきましょう。不安がある場合は自己判断せず、医師や看護師、介護スタッフなどに必ず確認しましょう。

【訪問美容の施術 チェックリスト】

△ 医師の許可があるなら施術を行ってもよいと思われる条件

× 施術を断ったほうがよいと思われる条件

1.傷病について
めまいを起こしやすい。
頚動脈狭窄を指摘されている。
× 頚椎症、脊柱管狭窄症、リウマチなどにより頚椎の変形が著しい。
または、首に強い痛みをともなっている。
× 心不全・呼吸不全状態で、酸素を2L/分以上吸入している。
× 38度を超える発熱を起こしている。
× 咳がひどい。
× おう吐や下痢などの胃腸炎症状がある。
× 疥癬(かいせん)、ノロウイルスなど、特殊な予防衣の着用が必要となる感染症にかかっている。
2.特別な対応を必要としている場合
経鼻経管栄養管理中である。
気管切開をしている。
× 人工呼吸器管理中である。
× 看護が必要な程度の痛みがある。
× モニター測定中である(バイタルサインが不安定である)。
× 1時間おきか、それより頻繁に痰の吸入が必要である。
3.心身の状態に関して
認知症の周辺症状(暴言・暴力・介護への抵抗など)がある。
4.そのほか
× 医師から洗髪が許可されていない。

人材をマネジメントしよう③/やることチェックリスト

  • お客さまやご家族と信頼関係を築けるよう、コミュニケーション能力を磨く。
    (お客さまに受け入れられる表情や態度、装い、言葉遣いなどを理解する)

  • お客さまや自身の安全のために、感染予防の基本や感染トラブルへの対処法を身につける。

  • お客さまの緊急時に適切な行動が取れるよう、対応マニュアルを作成しておく。

  • リスクを避けるために、訪問美容の施術基準を決めておく。

お客さまを第一に考え、信頼と安心を届けましょう。

 ご高齢の方などのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上につながる訪問美容のサービスは、信頼と安心をお届けすることが何よりの基本となります。相手が聞きとりやすいよう話す速度や声のトーンに気をつける、お客さまが感染しないよう感染予防を徹底するなど、常にお客さまを第一に考え、思いやりを持って訪問美容に取り組みましょう。

この連載は今回で終わりとなります。ぜひみなさん、訪問美容スタートへの第一歩を踏み出してくださいね。

監修NPO法人 全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)

理事長 赤木勝幸さん

理事長 赤木勝幸さん

「誰もがその人らしく美しく過ごせる社会の実現」を目指し、全国の「訪問理美容サービス」の質の向上、理美容師の育成や高齢者・介護者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上などに尽力する同協会を2007年に設立、理事長に就任。2008年社会貢献支援財団社会貢献賞受賞。著書に、「技術からマネジメントまで 訪問理美容スタートBOOK(女性モード社)」など。

事務局長 岩岡ひとみさん

事務局長 岩岡ひとみさん

同協会の事務局長。ヘルパー2級取得、美容師国家資格取得。2009年内閣府青年社会活動コアリーダー育成プログラム英国派遣団員。2010年東アジア地域国際シンポジウム招聘者。2012年内閣府女性のチャレンジ賞受賞。2013年シアトルiLeap SIFJ招聘者、第27回人間力大賞厚生労働大臣奨励賞受賞。2012年より愛知学院大学経営学部非常勤講師。

ふくりび http://www.fukuribi.jp/

「技術からマネジメントまで 訪問理美容スタートBOOK」

参考文献

「技術からマネジメントまで 訪問理美容スタートBOOK」

NPO法人 全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)編著/女性モード社
編集・取材・文
平尾祐子

※掲載されている情報は2016年05月30日現在のものです

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