2012.12.18
「ファッション、建築、音楽、デザイン、アート、飲食をコンテンツに遊び場を創造する」を コンセプトに掲げ、東京スカイツリー、渋谷ヒカリエ、東急プラザ表参道原宿など話題のスポットで店舗プロデュースなどを手掛けるトランジットジェネラルオフィス。
“ブームを生み出す仕掛人”と呼ばれる同社代表の中村貞裕氏に、流行るブランドを形にする発想法をお話しいただきました。
PROFILE
中村 貞裕(なかむら さだひろ)
1971年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、伊勢丹を経て、2001年に「ファッション、建築、音楽、デザイン、アート、飲食をコンテンツに遊び場を創造する」を企業コンセプトに、トランジットジェネラルオフィスを設立。カフェブームの立役者としてカフェ「Sign」をはじめ「bills」など、カフェやレストランの運営を約40店舗手掛けるほか、ホテル「CLASKA」「堂島ホテル」「the SOHO」などの話題の施設、さらにはオフィス、商業施設、ファッションブランドのブランディングやプロデュースなど、その仕事は多岐にわたり、今後は海外 進出も控えている。近年グループ会社として、イベント&ケータリング会社「TRANSIT CREW」、不動産総合プロデュース会社「REAL GATE」、ITソリューション会社「JET AGENCY」、人材紹介会社の「Departure & Partners」を設立。トランジットのユニークでエッジの効いたテイストやセンス、サービスは、日本はもとより海外においても高く評価されており、空間創造総合企業を目指し、話題の遊び場を創造すべく日々精力的に活動中。2012年7月に『中村貞裕式 ミーハー仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版。
|第3章|流行るブランド作りに欠かせない3つのポイント
僕たちが話題になる、流行る店を作る時には、
①コンセプトとネーミングを決める、②コンテンツを決める、③キャスティングを決める、の3つのポイントを押さえています。
コンセプトとネーミングを決める時は、2つを別々に考えるのではなく、同時に考えていきます。コンセプトはキャッチフレーズをつけるように15文字程度でまとめ、そのコンセプトを端的に表すネーミングを考える。これが、雑誌に載ったり、クチコミで話題になったりする時に重要になります。
例えば「Sign」の場合は、「待ち合わせカフェ」がコンセプトで、その目印という意味で「Sign」という名前をつけました。コンセプトが簡単に言えると、スタッフも説明しやすく愛着がわきますし、お客さまもほかの人に紹介しやすい。クチコミ効果が生まれやすくなるのです。
コンセプトとネーミングが決まったら、次はコンテンツ作りです。美容室やサロンなら、どんなメニューを入れるか、インテリアをどうするか、お店のロゴデザインはどうするか、スタッフの制服はどんなものにするか、どんなBGMを流すかといったことですね。
この時も僕たちは、雑誌の特集などを調べて、話題になりやすいキーワードを探します。カフェなら、女子会やママ友、ペット、カフェミュージックといった特集が組まれていて、それらがキーワードになることがわかります。こうしたちょっとでもフックになりそうなキーワード、コンテンツとなり得る抽象的な言葉を、たくさん書き出していきます。
コンテンツを出し切ったら、より具体的なキャスティングを考えていきます。キャスティングと言うと人のイメージがありますが、個人名でも、ブランドや会社の名前でも、イベント名でもいいのです。
僕らがプロデュースを手掛けたリノベーションホテル「CLASKA(クラスカ)」の場合は、「本との暮らし」をキーワードに、「Hacknet(ハックネット)」という本屋さんをキャスティングしました。「Hacknet」は当時、雑誌「BRUTUS(ブルータス)」の本特集で大々的に取り上げられていて注目していたんですね。もともとあった美容室は「犬の美容室」に切り替え、やはり当時人気のあったトリミングサロン「DogMan(ドッグマン)」を入れました。また、ロビーでは定期的に大人のパーティーを開催するため、DJの沖野修也さんをブッキングしました。
このキャスティングが実は一番難しいところで、ここでも目利き力が必要になります。ただ、キャスティングに関しては、その分野の目利きだと思える人に依頼してもいいと思います。僕が美容室のプロデュースを頼まれたとしても、このキャスティングの部分はわかる人をブッキングしますね。自分で自信があると確信できないことは、自分でやらずに人に任せる。それも1つの方法です。「1+1=無限大」という考え方で、自分たちが持っていない部分はほかからどんどん足して大きくして話題にしていくのが、僕ら流のやり方です。
そんなふうに、ネーミングとコンセプト、コンテンツ、キャスティングを決めていくと、あらゆるメディアの取材が入る可能性のある、PRフックでとげだらけの空間ができ上がります。そうするとあとはもう、コンテンツやキャスティングをより具体化したプレスリリースを作って配信するなど、その情報を発信するだけでいいんですね。
僕らはここまでを第1フェーズの「空間ブランディングプロデュース」と捉えています。ただ、それだけでは作りっぱなし、話題になっただけで終わってしまいます。重要なのは、その先の第2フェーズの「オペレーション」。仕事の依頼があった時は、なるべくそこまで関われる契約をしてもらうように話しています。
オペレーションがしっかりしていないとブランドとして認められないということは、実体験から学んだことです。僕が伊勢丹から独立して始めた小さなカフェも、毎日地道に続けたことで、今では大手不動産から出店を依頼されるまでになりました。これはまだまだおこがましいとは思いますが、ブランドとして認められてきた証でしょう。お店は生き物なので、オープンしてからもその時々に合ったコンテンツやキャスティングを考えて発信し続けないといけない。継続が大切で、そのためにはしっかりとしたオペレーションが必要なのです。