｜第３章｜理美容業界の今後の課題

野嶋　先ほど給与の話がありましたが、新卒の採用もされているんですか？

BOWE　はい。今は理容専門学校に通う学生の人数自体が激変しています。だから新卒を採用できること自体が奇跡だと言わているのですが、うちの場合、ありがたいことに就職を希望してきてくれる人もいます。

　ただ、せっかく理美容師を選んで就職しても辞めていく人が多いのも事実です。華やかに見えるけれど肉体労働ですし、拘束時間も長いし、女性は特に大変ですよね。スタイリストデビューしてもある程度売り上げが伸びないと稼げない。素敵なヒューマンビジネスだということを感じる前に辞めてしまうのは残念なことです。でも、せっかく自分で選んだ仕事なので「理美容業界だから離職率が高く給料が低いのも仕方ないよね」とあきらめるのは嫌なんですよ。自分たちでできることから頑張っていきたいですね。

野嶋　具体的にJUNESではどんな取り組みをされているんですか？

BOWE　いま、美容業界では総スタッフに対して1人あたり70～80万円稼げるサロンはトップサロンと言われています。理容では60～70万円というところでしょうか。この職業は時間との物々交換の仕事ですから、一部のサロンを除いては裏をかえせば80万円が限界だともいえます。この生産性をあげるために、ひとつは客単価を上げるという道があります。ただ、1～2万円のカット料金をコンスタントに払えるのは限られた人しかいないと思うんです。ですからカット料金を極端に上げるのは現実的ではないと思います。そう考えると、1000円、2000円のコンパクトなメニューを入れていくという方法で客単価を上げていく工夫が必要になってくるかと思います。例えば原宿店では、シェービングを3000円で提供していますが、これはかなり需要もありメニューとして定着してきました。これからはカットやカラーやパーマといった髪をデザインするためのメニューだけではなく、癒されたり疲れがとれたりというようなメニューをプラスしていくことが必要になってくると思います。

　それから時間帯による戦略的な集客ですね。先ほど言ったようにメンズオンリーサロンは平日の昼間がどうしても集客しにくいので。最近目白の店舗では、R60プランと、目白っ子プランというサービスを打ち出したんですよ。11時～14時の時間帯に限ってR60プランは2800円でカットできるプラン。これはシャンプーの回数を1回減らしてスタートからフィニッシュまでを30分で施術することでこの値段を実現しました。それから目白っ子プランは、3才～12才のお子さんを対象にしたプランです。やはり2800円で、こちらは昔ながらのガムをプレゼントする特典つきです。この2つのプランで、メンズサロンにとっては集客しにくい時間帯へのアプローチをしています。

　それから、やはり今後重要になっていくのはシャンプーやスタイリング剤などの店販の開発ですよね。ここを一番強化していきたいと考えています。

野嶋　BOWEさんがプロデュースされたシャンプーもあるそうですね。

BOWE　育毛シャンプーです。パッケージにもこだわって、美意識の高い男性にも手に取ってもらいやすく、自宅に置きやすいものをと考えました。香りもちょっと変わっています。今までの商品は「メンズならメンソールっぽいようなスーッとする香り」というのが定番でしたが、もう少しフェミニンなやわらかい香りを採用しています。メンズオンリーサロンなので、育毛分野の製品に関してもお客さまも安心して買ってくださいます。

野嶋　最後にお伺いしたいのが、これからの兆しです。男性のお客さまの意識や志向の変化をどう見ていらっしゃいますか。

BOWE　キレイでいたい、清潔でいたいという男性がどんどん増えてきています。これは従来の「ユニセックス」という概念とは違っていて、「女子化」に近いと思います。男性に対する美容ビジネスは、今後ますます需要が増えると思いますね。それから最近はすぐにお金を使わず、価格に対する価値をしっかり吟味する方が増えています。価格と価値のバランスで、価値が上回らないと購入しない。逆に言うと、不景気でも気に入ったもの、必要なものには出資する。安いから買うわけではないというのがはっきりしていると思います。この中で選ばれるサロンになるためには、技術はもちろんですが、人と人とのつながりの密度をあげていくということが重要になってくると考えています。

野嶋　これからの理美容業界にとってヒントになるお話をたくさん聞かせていただきました。今日はありがとうございました。

（写真／中野愛子　文／増田ゆみ）