ヘアサロン領域
2013.05.08
福岡・天神に店舗を構えるswitch。「全国就職したいヘアサロンランキング」で、毎年上位にランクインすることでも知られています。
地域に根ざしたあたたかさと、洗練されたデザインを次々アウトプットするデザイン力。両輪を回転させ、福岡のトップランナーであり続けるswitchのオーナー、隈本さんにお話を伺いました。
PROFILE
隈本 達也
熊本県出身。大村美容専門学校卒業後、福岡市内数サロンを経て、1997年田中征洋氏と共に福岡市天神に「switch」を設立。1店舗のサロン形態に拘り15年目を迎え、100坪セット面28席のスタッフ20数名のサロンに。オープン当初より美容業界誌などに取り上げられ、九州・福岡では常に注目度の高いサロンの代表を勤める。業界誌のアンケート、「全国憧れの美容室ランキング」では11位と東京のトップサロンに並んで上位の人気。
スタイリストとしてもサロンに立ち、同サロンのビジュアルワークを手がけ、その一環で始めたカメラワークの世界観には定評がある。サロンのお客様を撮り下ろした「yellow[girls]」が好評。美容業界でも、サロンブランドづくり、集客・広報の成功事例として、その取り組みに注目が集まっている。
|第2章|動物園じゃなくてサファリパークでありたい
野嶋 switchの経営がどんな評価をされているかということのひとつの目安として、学生さんからの人気があると思うんですね。学生さんって、働いている人たちの幸福度を敏感に感じているんじゃないかと思うんですよ。「あのサロンに入ったらキツいよね」とか。逆に「このサロンに行きたい」と思うときは、そこで働いている人がハッピーそうだということを敏感に感じているのではないかなと思うわけです。switchさんは、美容学校の学生さんからの支持がすごく高いですよね。
隈本 もちろん幸福の形はいろいろあるから、全部はとれないですが、シンプルに「物づくりって楽しいよね」という人たちが生存できる場でありたいとは思うんです。
野嶋 スタイリストの方、みんなユニークな感じがしますよね。それと、共通して皆さん、笑顔が絶えない感じがします。
隈本 みんな自然体なんだと思います。作り笑顔はないと思います。でも自然体だから、ちょっと抜けたこともやりますよね(笑)。すっとぼけたこともするし。うちのスタッフを見ると、いろいろ好き勝手にやっちゃっている。でも「え、そんなことをやっていいの?」 ということを誰かがやりだすのを見ないと、自分たちも型を崩せないから。そういう変わりものがいる環境をすごく求めているんですよね。全員変わり者だと困るんですけど(笑)。
この仕事をやっていたら、どうしても正しいことってこれだって決めつけがちになっちゃうんですが、考え方の多様性を受け止められる自分をずっと持っていたいなと思っています。
野嶋 そういう教育のほうが成長しますよね。ある程度自分の責任でやらなきゃいけないですし。型にはめないほうが、結果的にもモチベーションが上がるし、努力もするし、成長もする。
隈本 そうなんですよ! 努力は勝手にしてもらうものだと思っているから、教育しない、まとめない。
野嶋 とはいえ、switchとしてのまとまりは感じます。きちんとマネジメントされていて、野放しにされていないのだというのは感じますよ。
隈本 そこはね、檻の中ではなく牧場なんです。動物園じゃなくサファリパーク(笑)。
野嶋 裁量権が多いというか、自由度が高いということなんでしょうね。でも、組織の価値観などはどうやって作っているんですか?
隈本 1本ブレないルーツとか、軸に執着して、話をするようにしています。そこはスタッフに、もう何度も何度も話しています。例えば「人として」「美容師として」「男として」最低限やらなきゃいけないことってあるよね。食べていけないとだめだよね、とか。そういうようなことだけは、すごく話します。
時間が経っても残るものとか、変わらないものとか、そういうことがわかった上で今必要なことをやろうとか。「今、絶対にこれをやってください」というものはないけれども、ルーツは忘れないでということはすごく話すかなぁ。
野嶋 すごいですね。それってまさにいま、文科省が全国の中学校で実現したいと言っていることですね。
隈本 難しいですよね(笑)。難しいと思います。例えばなんですが、お店の中で言うと「いらっしゃいませ」という言葉も「ありがとうございました」という言葉も使わないで人を迎えたり、人を送り出したりすることができたら、それが本当の接客というものなんじゃないのとか、そういう投げかけをしますね。
野嶋 原点ですね。
隈本 美容室に長くそこに通いたくなるのは、メニューも技術も要因かもしれないけれど、結局はその人の人間力が大きいと思うから。お客様に支持してもらいながら、成長していくことを忘れないようにしてやっていけば、多少失敗してもまた来てくれるよって思っています。
野嶋 その「本当の意味の接客」みたいなものは、どういったところでジャッジするんでしょうか。
隈本 僕がずっと続けていることのひとつに、新卒で入ってくる子たちに、美容室に抱いているイメージを聞くというのがあるんですよね。それを毎年知ることがすごく重要だと思っています。新入社員は果てしなくお客様に近いから。お客様に近い時期に「美容室って、こういう場所だと思っていました」とその子たちが言うことが、真実じゃないかなと思うんです。そして、キャリアのある人たちの経験や成功談をヒントにするのではなく、美容師を目指していた人たちが、美容師ってこうだろうと思っていた形に近いものにしていくほうが、第三者としての理想の美容師像というか、美容室像のヒントになるんじゃないかと思っているんですよね。
だから、わけのわからない子たちと話すほうが好きなんですよね(笑)。お、コイツ美容業界のこと全然知らないな、社会のこともわかっていないな、というような子たち。その子たちが美容室に持っている夢、それを崩したらいけないと思って。
野嶋 その子の周りには、そのように考えている友達がいっぱいいるっていうことですもんね。
隈本 そうです。もちろん全部が全部夢物語じゃ難しいから、現実的に考えないといけないです。でも、その夢を知っておくということが、何か行動する時のヒントになるんですよね。そしてそれが結局、ゆるがないものであったりするのかなと思っているんですよね。だから常に「若い人たちが働きたい店」にしたいなと思っていますし、若い人たちが興味を持つようなイメージワークやサロン作りをしていかないと、人が集まってこないのかなと思っています。