女性が活躍するサロン
女性スタッフが辞めない
サロンの秘訣
結婚・出産を経ても女性スタッフが長く活躍している、さまざまなサロンの取り組みや職場づくりを紹介していきます。
vol.97スタッフ4分の1以上が勤続20年超。
エステティシャンがやめない会社の秘密とは?
キャロリーヌ
東京都・神奈川県
「体の中からキレイを引き出す」をコンセプトに、東京都を中心に7店舗を展開するエステティックサロン「キャロリーヌ」。今年8月に創業40周年を迎える老舗は、1989年に美容業界ではまだ珍しかった時短社員を導入。女性の働きやすさを追求したシステムを次々と取り入れ、「エステティシャンが辞めないサロン」を築き上げてきました。ベテランから若手までがプロとして輝く環境づくりの秘訣とは何でしょうか。「女性の、女性による、女性のためのサロン」を掲げる、代表取締役社長の井野洋子さんにお話をうかがいました。
1取り組み
ママスタッフは、子どもが15歳になるまで時短勤務可能。
どんな取り組み?
フルタイム正社員は実働8時間のシフト制で、完全週休2日。産休・育休から復帰した後の働き方はフルタイム正社員を継続するか、時短正社員やパートを選ぶことができる。時短正社員制度は業界に先駆けて1989年に導入。それ以来「1日7時間・週5日」で運用されてきたが、昨年から「1日6時間・週4日以上」という選択肢も新たに設けられた。時短正社員の期間は最長15年間。小学校を卒業する時点で一度会社と相談のうえ、スタッフの希望があれば子どもが義務教育を終えるまで継続。子育てが一段落すればフルタイムに復帰する道がある。
背景とメリットは?
独自の研修システムを通して人材教育に力を入れてきた「キャロリーヌ」では、大切に育てたスタッフを定着させるための環境整備にも早くから取り組んできた。同社では、時短正社員制度と社会保険を完備した翌年の1990年に、時短正社員第一号が誕生している。
時短制度があれば、スタッフは出産・育児をしながら正社員として働き続けることができる。新たに1日6時間・週4日以上の規定を設けたことで、社会保険に加入しながら、よりプライベート重視で働ける選択肢が増えた。また時短勤務を15年まで継続できることで、子どもの学童保育や受験などのイベントにも余裕を持って対応できる。現在スタッフの約3分の1がママだが、パートを選んでいるのは夫の扶養の範囲内で働くことを選んだ3名のみ。ここ数年のママスタッフの離職は、夫の転勤に伴う1例以外にない。
2取り組み
多様な研修と明確な昇格基準により、時短ママでも役職に就ける。
どんな取り組み?
挨拶から基礎を学ぶ2カ月間の新人研修の他に、プロフェッショナル研修、リーダー養成研修など、会社の状況に合わせて臨機応変に学びの場を設けている。そのほとんどが営業時間内に行われ、スタッフにとっては自分を磨くチャンスが多い。
接客や技術のスキルには1級〜8級の等級があり、年に1〜2回、筆記試験と共に「スキル級テスト」を実施。必要とされるスキル級を獲得し、行動評価などをクリアすれば昇格となり、給与や賞与に反映される。時短ママでも条件が満たされれば、部長やマネージャーなどの役職に就くことが可能だ。会社では、こうした評価を含む制度をまとめた冊子「人事のしくみハンドブック」を作成。スタッフ全員に配布し、必要な時にいつでも確認できるようにしている。
なぜそうした?メリットは?
代表取締役社長の井野洋子さんは、サロンに人材を定着させるには、スタッフ育成と公平な人事システムが鍵だと考えてきた。多くのチャンスを与え、評価基準を開示する「頑張っただけ正しく評価されるしくみ」が、スタッフのモチベーションアップに繋がっている。
「キャロリーヌ」ではスタッフの離職率が非常に低く、勤続10年を超えるスタッフが全体の3分の1以上を占める。勤続20年以上のスタッフも15名在籍している。サロン全店のトップである統括責任者も、昨年まで12年間時短勤務を続けてきたママスタッフ。彼女は意欲のある若手のロールモデルになっているという。
3取り組み
面談や他店ヘルプなど、ママスタッフをサポートするさまざまな体制。
どんな取り組み?
「キャロリーヌ」では、エステティシャンの完全指名制を取っていない。その代わりに、誰が担当しても質の高い施術ができる技術研修と、綿密なお客さま情報の共有に務めている。そのためママスタッフが産休に入る時も担当の引き継ぎなどはなく、周囲のスタッフにも負担が少ない。
産休明けのスタッフには役員が面談を行い「サロンの現状について」「会社としてスタッフに何をして欲しいのか」を共有する場を持つ。さらに全店舗の責任者は専用SNSで繋がっており、子どもの病気などによるスタッフの急な欠勤が出た時は、お互いの店舗にスタッフを融通し合う「他店ヘルプ」のしくみがある。
なぜそうした?メリットは?
「ママスタッフが復帰後に、子どもの病気などで思うように働けないのは仕方がありません。織り込み済みのこととして、会社が準備しておくのは当然です」(代表取締役社長・井野洋子さん)。サロンが指名制を取らないのは、研修が多く対応しきれないことが理由のひとつだが、スタッフが急に休んだ時に穴を埋められるのもメリット。「他店ヘルプ」で店舗同士が助け合えば、現場の負担を最小限に抑えることができる。
また、産休明けは今までと働き方が変わるため、ママスタッフのモチベーションが落ちやすい。「会社はあなたを必要としている」と面談ではっきりと伝えるのは、モチベーションをキープさせるためだ。そんな会社の姿勢は若いスタッフにも浸透し、自然と先輩であるママスタッフをフォローする風土ができているという。
4取り組み
イベントを通じて、スタッフ同士が支え合う風土をつくる。
どんな取り組み?
スタッフの福利厚生として、お花見とクリスマス会を毎年開催。社長宅にスタッフを招待して手料理を振る舞うクリスマス会は、26年間続いている。また、スタッフの子ども達には15歳になるまで、毎年社長からメッセージを添えたクリスマスプレゼントが贈られている。他にも、ボーリング大会やバーベキュー大会などさまざまなイベントを開催している。
なぜそうした?
「女性が働き続けられる会社づくりには、何が起きても乗り越えられるシステムと、精神的に支え合う風土の両輪が大切です」と井野さん。親子で楽しめる社内イベントはスタッフ間の親睦を深めるとともに、若手に対しては先輩親子を通じて将来像を見せることもできる。子ども達に毎年届くクリスマスプレゼントは、頑張るママスタッフにとって励みになる。次の世代により良い職場環境を手渡すためにも、こうしたアットホームな社風を守っていきたいと考えている。
社長インタビュー
- Q. 業界に先駆けて女性支援に取り組んできたのはなぜですか?
-
A. 女性がスキルを活かして生涯働けるサロンを目指したからです。
「女性の、女性による、女性のためのサロン」がこの会社の目指すところだからです。女性は人生の中で結婚、出産、育児、介護と人のために働く場面が多いですよね。そんな中でも各自のライフステージに合わせて、スキルを活かして最後まで働ける場をつくりたい。確かな技術があれば、女性は60歳、70歳になっても働けます。本人も環境が整っていれば、慣れた職場で働き続けたいはずです。経験を積んだスタッフの定着は「結果を出せるエステティックサロン」として、お客さまの信頼にも繋がります。働きやすさを追求した結果、産休・育休・時短などは早くから運用してますし、制度も柔軟に改善してきました。
たとえば有給休暇の取得率が90%以上なのも自慢なんです。全スタッフに「消化してください」とプッシュして、できなければ翌年に繰り越ししています。美容業界でそこまで徹底している会社は、ちょっと珍しいかもしれませんね。
- Q. 今後に向けて取り組みたいことはありますか?
-
A. 役職を持って産休に入ったスタッフとの情報共有です。
今も産後に復帰するスタッフに対しては、ブランクの間に導入された新技術や、変更点を確認するためのサポートを行っています。ただ、役職者の場合はもう少し踏み込んで、休んでいる間もサロンの情報を共有するしくみを考えています。たとえば、私が定期的に発行しているサロンの新聞を配布するなどですね。できるだけブランクの影響を減らし、少しのトレーニング期間をおいて、再びキャリアを積んでいけるシステムをつくりたい。去年3名が復帰して、今はたまたま産休中のスタッフがいません。でも9年前から毎年新卒を採用しているので、ママ予備軍はたくさんいるんです。これは一例ですが、まだまだ改善できることは多いでしょうね。
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