第2章デビュー後も成長を続けられる「7年カリキュラム」
「スタイリストになるまでの勉強は予習。
なってからの“学び”こそ大事なんです。」
「FLEAR」の離職率が低いのは、「辞めさせない仕組み」のおかげなんですね。その仕組みのひとつとして、教育も重視されています。
昔は「はやりのヘアスタイル」ってものがあって、みんな同じ型を覚えたらいい部分もありましたよね。でも今はそうじゃない、「一人ひとりに応じたヘアスタイル」が求められる。だからこそ教育がしっかりしていないとダメなんです。
技術を高めることはもちろん、カウンセリング能力を磨くことも重視しています。うちはカラーやパーマの際、スタイリストだけでなくアシスタントもカウンセリングに同席するんですよ。聞き取る能力が磨かれないと、お客さまの要望に応えることはできない。だから同じ注文内容を聞いても、仕上がりは人によって違ってくるはずです。
聞き取った要望からスタイリストが仕上がりを決めたら、カラー剤の組み合わせやパーマに何ミリロットを使うかといった細かい指示はしません。アシスタント自身がゴールに向けて、どうしたらいいのかを考える。もちろん、間違ったゴールに向かってしまいそうなときはフォローしますけどね。まずは、自分自身で考えさせることが大事なんです。
教育体制としては「7年カリキュラム」というものを導入しているとか。
教育期間は3年間に設定しているサロンが多いでしょう。うちも短くしようと思えばできますが、そうすると中身を絞り込むことになりますよね。それに最低限の技術は3年間で詰め込むことができても、集客や撮影のノウハウまではとても手が回りません。
スタイリストになったらレッスンはしない風潮がありますが、本当は“なってからの勉強”が大事。スタイリストになるまでの勉強は予習みたいなものです。シャンプーひとつにしても、何もわからないうちにやるのと、髪質やケアについて知ったうえでするのでは別ものです。実際、僕は19歳で店長になったときに、初心にかえってイチからすべて練習し直したんです。するとシャンプーもパーマも、新人のときには見えなかった気づきが多くありました。
ですから「7年カリキュラム」というのは、スタイリストになってからの勉強も含めて7年間のカリキュラムという意味。うちは平均して3年くらいでスタイリストになるので、その後も4年間はカリキュラムを組んでいるということです。別に7年じゃなくて20年だっていいけど(笑)、一応ひとつの区切りとして7年間にしています。
スタイリストデビューしてからの教育カリキュラムは、どのようなものですか。
新規のお客さまを担当できる状態になったスタッフに向けて、「1カ月間に撮影を5回と、店舗ブログを8記事アップすることを3カ月間クリアする」という課題があります。たとえば撮影というのは、街に出てモデルハントするところから、スタイリングをして撮影するまで。モデルハントすることでコミュニケーション能力が鍛えられ、撮影のためにどんなスタイルにするかを考える機会にもなるという意図があります。また、ブログは集客の手段としてノウハウを身に付けていたほうがいいでしょう。ブログを書くために最初は、ネットリテラシーだとか写真を入れたほうが読みやすいといった“基本”を伝える場も設けています。
このほか、6年目・7年目になったら、個人面談でスタッフごとの得意分野、目指す分野を話し合って、その目標実現に向けて必要な教育を用意しています。ですから「カラーを極めたい」「講師を目指したい」など、個々の目標によって教育内容は変わってきます。
離職率が低いもうひとつの理由として、企業理念やスタッフの行動指針を定めたクレドの存在も影響していそうですね。クレドを導入する企業が増えていますが、「FLEAR」ではいつからあるのでしょう。
以前から自然発生的なルールはありましたが、それをクレドという形にしたのは5年ほど前です。行動指針としては「仕事に工夫・改善・アイデアを」といった項目を挙げた若手スタッフ向けのものと、「チームの温度を下げない」などの項目がある先輩向けのものがあり、このほかに店長の心得なども定めています。
離職率の低下にどれだけ影響したかは定かではありませんが、うちは人間関係がとてもいいのは確かです。日ごろからよく言っていることに「問題ができたらグチを言うよりも相談しよう」というものがあります。ときには同期と吞みながらグチを言うのもいいですが、それでは不満を抱えたままで「解決」になりません。それよりは上司に相談してもらったほうがいい。店長など上司の立場にあるスタッフには、「相談されたらきちんと向き合い、解決策を探るように」と指導しています。
企業理念に「誠実に行動し 情熱で成長する 仲間であろう」とある通り、「チーム」であることを大切にされていますね。
そうですね、この仕事はチームでやっていくものだと考えています。たとえばフロント担当の子がいるおかげで、美容師はカットに集中できるわけですから。お客さまを喜ばせるにも、まずスタッフ同士が相手を喜ばせる関係性が築けていないとダメだと思う。短期ならごまかせるかもしれないけれど、お付き合いを続けるうちにお客さまにも見透かされてしまうでしょう。
うちの教育の特徴のひとつとして、2年目の子が1年目の新人に教える場があります。その際、新人に対しては「先輩は自分の練習時間を削って教えてくれているんだよ」と伝えています。すると教わる新人は真剣に学ぶ姿勢になるし、翌年になって教える立場になったとき「自分も先輩から、そうしてもらった」と恩返しのような気持ちで臨んでくれます。こうして人間関係を大切にして育んでいくことは、とても大事だと思っています。