第3章美容業界の今後の発展に求められること
「雇用環境のイノベーションなくしては、
今後の美容業界はもたないでしょう。」
現状の美容業界について改善すべきだと思う点はありますか。
いまの美容業界、特にヘアサロンは「市場を持っていかれている業界」と言えます。昔は美容室と言ったらヘアはもちろん、着付け、エステ、化粧品やアクセサリーの販売まで担っていました。でもいまや、着付けもエステも専門店があるし、店販を利用されるのはお客さまの1割ほど。売上全体から見ると5%くらいというところでしょう。
店販は伸びしろがあるとも言えますが、美容サロンがうかうかしているうちに、ここの物販市場を狙って業界外の企業が参入してくるおそれもあります。たとえば、物販を通じて顧客情報が得られるため、ビッグデータを収集する目的でIT系企業がネット通販で参入してくる可能性が考えられるでしょう。
そうしてヨソの業界から新規参入してくることで、美容業界は機会損失していく状況にあると?
そうなる可能性は高いと思いますよ。美容サロン自体をいきなり外の業界の人がやるのは難しくても、物販市場などからどんどん取っていかれて、気づいたら美容サロンがただの「カット屋さん」になってしまうこともあり得る。
いまは人間がやっていることもAIによる代替品がどんどん出てきます。オートシャンプーはすでにあるし、オートカラーも登場するかもしれない。受付機能や、アドバイスだってAIで代替できるでしょう。すると「ヨソの業界の参入は難しい」という従来の業界の常識は通用しなくなりますから、危機感は持つべきです。
異なる業界への参入としては、美容業界から介護業界に進出する「訪問美容」も近年は注目されています。
現状では介護事業者がヘアを手がける形が多く、美容業界は遅れをとっている状況でしょう。うちとしてもいまの段階では、参入は考えていません。美容室のスタッフは20代~30代が多いので、介護施設の利用者の年齢層とミスマッチなんですよね。ただ、うちに通っていてくれたお客さまが介護施設を利用する世代になったら「引き続きAshの人にやってもらいたい」という要望も出てくるかもしれません。だから将来的には進出する可能性もあります。
それに美容室って週末の夜が忙しくて、平日の昼間は比較的空いていますよね。この空き時間を訪問美容に使えたら、生産性を高めることもできます。また、長く働いてくれた40代以上のスタッフが活躍する場のひとつとしても、訪問美容は有効でしょう。
先ほど「美容師は30代で辞める人が多い」とのお話がありましたが、吉原さんはさまざまなタイプのサロンを用意するなど、「長く働ける環境づくり」をとても重視されていますね。
従業員満足を高めるために環境づくりが大切なのはもちろんですが、今後は雇用形態のイノベーションが起きないと美容業界はもたない。少子高齢化社会に突入した現在、新しい働き方、40歳以降の働き方を考えなくてはいけません。
働き手も高齢化していき、そうした人たちが働ける環境も求められてくる。年金を受給するようになっても、受給額が減らない範囲で働くことができます。その場合は週休3日、9時~15時といった働き方で十分ですから、経営側も多様な働き方を整備する必要があります。
それに「働く」目的って、お金を得るためだけじゃないですからね。いくつになっても、自分の技術を活かして生きていけたら嬉しいでしょう?だからこそ、生涯にわたって活躍できる場を用意することが、経営者の務めだと思うんです。
従業員満足と、ブランドの深化。それが「100年ブランド」の実現につながると考えています。
「今の時代は動画でしょ?」という提案をいただき、
インタビューにくわえて、オンライン型セミナーにも登壇いただくことになりました。
業界はもちろん世の中全体の兆しを捉える視野の広さに、
いつも驚かされます。
御年61歳。「次の世代に経営手法を伝えるのが自分の役割」だと
知見を惜しみなく披露してくださいます。
その裏で、56歳でMBA取得に挑戦など「学び続ける努力」を怠らない姿に、
畏敬の念を抱かずにはいられません。