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第2章なぜ美容師に「人間力」が必要なのか?

「技術を教えながら、人間教育もする。
“お客さまにとってのシャンプーの価値とは?”ってね。」

菅野さんは現在、「MINX」全体の教育を統括する立場でもいらっしゃいます。技術面だけではなく「人間力」の教育にも力を入れていますよね。どのように育んでいるのでしょう。

新人に関しては、まず入社前の10月に内定式というものを行っています。このときに「お客さまの文化になる」という「MINX」の理念について話します。文化とは何か、美容師の前に人間としてどうあるべきか、会社として社会に貢献する役割などの「MINXイズム」を、美容学生のうちから伝えていきます。

そして入社後の半年間は、毎週火曜が研修日(※火曜はサロンの定休日だが、他の曜日で休みをとる完全週休2日制)。新人をひとつの店舗に集めて、入社10年以上のトレーナー役が講師となって、さまざまな技術を教えています。そして技術だけでなく、“技術を通した人間教育”も行っています。たとえばシャンプーは「やり方」を学ばせるだけじゃなく、「お客さまにとってシャンプーとはどんな価値があるものだろう?」という話をするんです。

それは興味深い試みですね。スタイリストになって以降も、人間教育はされるのでしょうか。

はい。面談を通じて、あるいはスタイリストミーティングで話し合う場を設けています。スタイリストはベクトルが自分に向いていて、“成果”というと“売上”ばかりを気にしがち。でも「後輩スタッフの成長のために何ができているのか?」という点を意識させ、マネージャーという次のステップになるための準備をさせています。

個々の性質や考え方を変えるのは技術力を磨くのとは違った難しさがあります。みなさん変われるものですか?

人としての成長が足りないと、結局はお客さまからも支持してもらえません。だから僕が無理やり変えるというよりも、自分から「変わらなければ」と、意識できるんだと思いますよ。

それに、全員が同じ道を目指さなければいけないわけではない。その子のやりたいことや、個性に応じて進むべき道を与えるようにしています。たとえば、ある30代の女性スタイリストは後輩教育に時間がとられることを悩んでいました。それで「自分は“MINX”にふさわしくないから辞めたい」と相談してきたんです。何がしたいかを聞くと、「お客さまと向き合うのが好き」だという。それであれば、「後輩教育の勉強会には出なくていいよ」ということで、現在はプレイヤーとして活躍してもらっています。

反対に男性スタイリストは年齢が上がるにつれて、勢いがある後輩に売上面では抜かれることが少なくない。でも積み重ねてきた知識と技術を活かして、「教育者」としてのポジションを確立することはできる。だからそうした方向に進む道も用意するようにしています。

スタッフの考え方を知るためにも、日頃からコミュニケーションは重視していますか。

いまの子は「技術を高めたい」「こうなりたい」という欲求が薄い。「自分らしくあること」「自分がここにいていいんだと感じること」を大切にしていて、“承認欲求”がモチベーションのもとになっています。僕らの時代は「有名になりたい!」「業界を変えたい!」という“自己実現欲求”のカタマリなので、全然違うんですよね(笑)。

だから仕事においてもお客さまやスタイリストとの日々のコミュニケーションが大切。そうしたかかわりがなく技術の提供だけになると、途端につまらない「作業」に感じてしまい、やる気が下がっていきます。なので僕もスタッフとのコミュニケーションは大事にしていますね。銀座店だけで45人くらいスタッフがいるんですが、インスタグラムでも全員のストーリー(投稿後24時間で消える写真や動画)をチェックするし、コメントもする。

それはマメですね!インスタも誰が見てくれたか、投稿者本人はわかりますものね。

そうそう、「見てくれているんだ!」と感じてもらうことが大事。会社としても、入社から半年後と年末には、「がんばっているね、見守っているよ」と伝えるための手紙を新人に渡すようにしています。

来年度からは新人のメンタル面のサポートをするメンター役の導入も考えています。これまで技術面の教育担当はいましたが、それにプラスして新人と年齢が近い若手スタイリストを“見守り役”としてつける予定です。

人材育成環境が非常に手厚いゆえと言いますか、「MINX」ではスタイリストデビューまで平均で4年ほどかけています。他社では教育期間を短縮する動きもありますが、その点はどうお考えですか。

教育期間に関しては、長短どちらにもメリット・デメリットがあるでしょう。どちらを選択するかは、僕ら「MINX」が何を大事にしているのかという点が判断材料になります。僕らはお客さまの期待を超えなくてはいけません。お客さまは髪を切るだけじゃなく、プラスアルファの感動を求めて「MINX」に足を運んでくださる。そのプラスアルファを提供するには、1~2年の教育では到達しづらい。そして技術も人間力も必要だという考えから、現在の体制にしています。

  • 菅野さんが代表を務める「MINX銀座店」は総勢約45名の大所帯。それでも一人ひとりの動向を気にかけ、仕事の合間にスタッフのSNSの個人アカウントまで目を配る

  • スタッフ向けの社内研修では入社10年以上のメンバーから選ばれた技術トレーナーが講師を務める。実技に加え、技術に伴う論理やおもてなしの姿勢についても教育していく

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