第3章withコロナ時代における理美容業の価値
「こういうときだからこそ、
業界一丸となって取り組みたい。」
コロナによってもたらされた、理美容業の「価値」とは?
北野●僕は他業界で働いていたときから強く感じていたことですが。理美容業は不景気や震災等の事象が発生しても、そのあとのリカバリーが早いというか、比較的お客さまの戻りが早い業界ですよね。理美容は、人々の生活の中で「気持ちの転換」「ストレス解消」という役割があります。今週は再開後の商業施設をできる限りみてまわっていますが、施設自体に人はあまり入っていなくても、理美容室はどこもいっぱい。業種としてすごく恵まれている、必要とされているということです。
お客さまが今、不安になっていることを解消してアプローチをしっかりすれば、お客さまからより強く選ばれる。この環境は、これからも続いていきます。時間はかかるかもしれませんが、取り組む価値がある。ちゃんと努力して、課題として捉えることができれば、ブランドとしてより強くなれると思います。
村橋●そうですね。何より「生活必需産業である」という認知は広まったと思います。結局、髪を切るというのは、どれだけIT化が進んでも、「人」が施術するというのは変わらない。今回、理美容師さんの価値が再認識されました。
また業界、サロンを見直すきっかけにもなったと思います。ここわずか2カ月の間に、クラウドファンディングで年間パスポートや施術の前売りチケットを売ったり、オンラインで新卒採用のサロン説明会をしたりと、いろんな新しいアイデア、ビジネスモデルが生まれています。誰も経験したことがない状況の中を、前に進みながら考えてチャレンジしている。そういう意味では、新しいビジネスチャンスが期待できるのかな、と思っています。
確かに、この状況にならなければ、このオンラインでの座談会もしていないですよね。
吉原●理美容業というのは、クリエイションとかテクニックばかり言われていましたが、ここにきて「本来の価値は衛生業」ということがわかったわけです。両方、大事なんです。バランスがとれていてこそ、価値。
コロナがあって、我々の生活の中でもっとも必要とされたのは、まず医療。医療従事者は、ものすごいリスクを背負いながら、人間の生命をあずかる価値の高い仕事です。これが第1フェーズ。理美容の仕事というのは、第2フェーズでやってきたと思います。第2フェーズに入ってくると「元気になりたい」「人間としてイキイキ生きたい」という気持ちから、「髪を整えよう」「キレイになりたい」となります。いかに人間の生活の中で理美容が大切なことか、みなさん感じたのでは。逆に言えば、理美容師のリスクにも気づいたと思います。お客さまから感染するかもしれない、うつしてしまう可能性もある。そういう意味でも、責任ある価値ある仕事です。
僕が新卒のスタッフに話すのは、「この仕事はリスクがあるよ」ということ。コロナもそうだし、次にまた別のウイルスが出てくるかもしれない。でも、これだけ人を美しく、元気にできる仕事だから、社会的価値が高い。そういう仕事をしている自覚を持ってプロフェッショナルになりなさい、と伝えています。
では最後に、この記事を読んでくださっている理美容サロン関係者のみなさんに、メッセージをお願いします。
北野●非常時に備えた経営が大事だと、今回あらためて思いました。楽観的な考えが必要なときもあるが、自分たち経営者は「いかに悲観的にものごとを捉えて、有事に備えるか」。最悪を想定して、最善を尽くす。あらためて、会社経営の本質を実感する機会となったのではないか、と思います。
村橋●さらに「業界のまとまり」を強化していくことが重要だと思っています。それぞれの団体・企業が、業界共通の課題に対して、速やかに連携できる体制づくり。それを常日頃から整えておく必要があります。たとえば、行政に対しては組合が働きかけ、一般消費者には各サロン、それをメディアが発信していくなど。それぞれの得意分野を使って連携していくことが、より重要になってくると思います。
吉原●今回のことで、業界のみんなが同じ土俵に立てた、という見方もできます。公衆衛生に関して、「組合が」とか「チェーン店が」ということではなくて、集約してやっていただきたいと思います。
ピンチはチャンス。「私たちは、国家資格という国から認められた職業である」「人々に必要とされている」など、価値ある仕事であることを自覚できました。それに、垣根はありません。そういう想いを持って、こういうときだからこそ、業界一丸となってやっていきたいですね。
ゲストのみなさんが普段使用していないテレビ会議システムだったこともあり、恐縮ながら操作に悪戦苦闘させてしまいました。
吉原さん64歳、北野さん50歳、村橋さん58歳。実績を含め、いわば理美容業界における重鎮です。そのような方々が率先して、この変化を受け入れている姿を目の当たりにしました。そして歴史を見直し、さらなる進化を目指す前向きさ。
吉原さんが最後にいった言葉、
「こういうときだからこそ、業界一丸となってやっていきたい。」
みなさんが深く、うなずいた瞬間でした。