第3章sikiの旬と、未来構想
「みんなの夢を叶えながら、
サロンの価値を高めたい。」
今後、ヘアサロン以外に考えていることはありますか?
オンラインサロン「KIDS」と、アパレルブランド「:CASE(ケース)」のコラボで、美容師のワークウェアをつくっています。「:CASE」「Name.(ネーム)」のディレクターである松坂 生麻さんと友だちだった縁で、一緒にやることになりました。美容師さんってエプロンをすることがありますが、一歩間違えると“ほっこりカフェ店員さん”みたいになってしまう。それもかわいくていいんですけど、スタイリッシュでかっこいいものを目指していて、完成は3月か4月くらいの予定です。
※「:CASE」=独創的なデザインでファッションフリークから愛されている「Name.」の新ブランド(2021年 春夏デビュー)
コロナ禍でも攻めの姿勢は、すごいですね。
首都圏は集客しやすく、ブランディングしやすい。でも裏を返すと、固定費が高いぶんリスキーです。何もしないで悪くなる一方だったら、落ちてしまうだけ。スタッフを守るために、戦い方はおのずと見えてきます。「siki」が“旬”だとしたら、賞味期限を客観視できているので、今のうちにどう攻めていくか?そのスピード感を大切にしています。
流行りって、いつかは絶対すたれる。スタッフにも、そこは勘違いしてほしくないです。だからこそ、長く続かせるために、どういう企業にしていくか、どんなトライをしていくか。サロンブランディングが重要です。個人は「1×1=1」にしかならないけど、働いているスタッフ全員で「siki」をブランディングすれば、説得力や安心感が増していく。
サロン全体の結束力は、どのように醸成していますか?
たとえば、コンテストに出ているスタッフと、出ていないスタッフがいたとします。出ていないスタッフは、どうしても他人事になってしまいますよね。でも、そのコンテストに出るスタッフががんばってくれることによって、「siki」が話題になる。そうなれば、みんなにいい影響を届けてくれます。だから応援してあげてね、と言う。お互いのチャレンジを肯定して、応援する風土が生まれます。
「siki」のスタッフに共通点があるとしたら、僕を含めて、“自信がない人の集まり”であるということ。これは決して悪い事ではなく、だから人に優しくできたり、自問自答がしっかりできる。やる気とモチベーションはあるけど、自信がない人たち。もちろん、負けない部分、ゆずれない哲学はあるけど、自分が表舞台に立つタイプだと思っていない。
それは意外でした。採用のときは、どんな点を重視しますか?
面接では、「自分が!自分が!」という自信満々のスターは落とします。いくら売上があって、ビジュアルがよかったとしても。ほかの人が話しているときに、どういう姿勢で聞いているか、全体の時間配分を気にしているかとか、そういったところを見ています。協調性と積極性は真逆にあるものですが、ちょうどそのバランスのいいところ。この子だったら積極性もあるし、協調性もある、という人を採用します。
ちなみに、新卒の方の待遇は?
新卒は20.5万円+住宅手当が10%。アシスタントは、総支給で23万円くらいですね。美容師デビューしたてだと、一般的には16~17万円くらいだと思います。そうすると、手取りで13~14万円。これだと生活が厳しいですよね。
美容業界のシステムって、アシスタントのときは1年ごとに1万円ずつ上がっていくことが多いイメージです。でも僕は、1年生が一番給料が低い理由がわからなかった。働いている時間も、想いも、同じなのに。できる技術はシャンプーだけかもしれないけど、でも「シャンプーって一番大事」とよく言いますよね。だから1年目から、3年生と同じくらいの給料にしています。もちろん歩合によって、差はありますが。
アシスタントは「教育してあげている期間だから、お給料が低い」という考えもありますよね。
それも、おかしいと思ってしまう。よく、辞めることを会社に伝えたら「恩返ししていないのに」と言われた、という話を聞きます。僕は逆に、雇っていた側が恩を感じないといけないと思っています。辞めるスタッフに対して、「あいつは違ったな」と言う人もいますが、僕は、そういった無責任な発言はしたくない。人生のファーストチョイス、上京して初めて働くサロンを決めるという大事な分岐点で、そのサロンを「希望した」だけ。選んだのは僕ら。だから、僕らに責任がある。
磯田さんが育ってきた時代は、業界全体が厳しい環境だったのでは?
ときには、「僕だったらこうするかな?」と思ったこともあります。でも、いい意味で“見せてもらった”というか。反面教師として、違和感があった部分を、どんどんクリアにしていきたい。そういう経験をさせてもらったことは、すごく貴重で、感謝しています。
情報社会の中で、やり方・あり方は、進化するべきだと思います。働いている人やお客さんの気分にアンテナを張れば、自然と今やらなきゃいけないことがわかります。
まさに「新しい世代!」、という感じがします。
僕は今32歳、昭和最後の年に生まれました。表紙になりたい、本を出したい、有名になりたい、業界で大御所になりたい…そういった夢があった時期もありました。でも今は、スタッフと未来の話をして、ワチャワチャやっているのが一番幸せ。ただただ、みんなで楽しくお酒を飲みたいだけ。
お話をうかがっていると、究極は「スタッフ一人ひとりのための、サロンブランディング」。そういった印象を受けました。
みんなの夢を叶えながら、サロンの価値を高めていきたいですね。スタッフには長く、幸せでいてほしい。だからこそ、人間としてきちんとした人に育てたいと思っています。その子がたとえ美容師を辞めたとしても、人としての幸せを手に入れたら、それでいい。そのためにサロンとして影響力を持って、会社の中にいろんなポジションをつくっていきたい。正解がない世の中だから、悩んだこともあります。でも今は、自分たちの正義をつらぬいて、実行するのみです。
「あぁ、どれもすごくsikiっぽい!」
この、“っぽい”と感じさせることが、サロンブランディングの成果なのだと。
40代である自分たち世代は、ついつい気負ってしまいます。撮影ひとつとっても、ポーズをガチガチに決めて、照明をてらし、一眼レフで何枚も撮る。なんなら、あがった画像の明るさを調整したり…。
対して、磯田さんやsikiの画像はすべて、スマホで“ふいに撮った感”がある。それが、今の感性であり、今のリアルなのでしょう。
かっこつけないのに、かっこいい。気負わないのに、力強い。冷静なのに、情熱的。
…新しい世代が、ふいに突風であらわれた。磯田さんに、そんなすがすがしさを覚えました。