第2章「人を幸せにしたい」、その原点にあるもの
「幼少期に感じた周囲への“感謝の気持ち”を、
次の世代に引き継いでいきたいです。」
エザキさんのお話をうかがっていると、何度も「人を幸せにしたい」という言葉が出てきます。その想いの原点はどこからきているのでしょう?
祖父の影響が強いかもしれないですね。僕は父親がいない家庭で育ったこともあって、おじいちゃん子でした。じいちゃんは長崎で何百年と続く江崎鼈甲(べっこう)店を営んでいました。自分がきつくても、いつも人のことばかり考えている人で。家は裕福ではなかったし、父親もいなかったけれど、そんなじいちゃんの生き方を見てきたので、たくさんの人に助けられ幸せに育てられたという感謝の気持ちがいつもあります。だから自分も、人を幸せにしたい。その想いが、僕が仕事をするうえで大事にしているスタンスであり、原点かもしれません。じいちゃんは僕が独立する一カ月くらい前に亡くなりましたが、抗ガン剤で意識が薄れていたにもかかわらず、僕の手を握って「江崎のことを、守ってくれる人のおらんことが、悔しか」って言ったんです。じいちゃんの言った“江崎”というのは、家族のことだけでなく、江崎鼈甲店の従業員も含んだ意味だと思っています。
会社は違いますが、その意思を引き継いで、僕も今スタッフやお客さまを本当に「家族」だと思って接しています。お客さまも、もちろん家族。だからお客さまが困っていたら助けてあげたい。それが本当の意味での「サロン=社交場」だと思います。「grico」は「ただ髪を切る場所ではなく、それ以上のものを与える場所」にしたい。いや、「与える」というと、おこがましいですね。何より僕が、いつもお客さまから幸せをもらっているので。
エザキさんにとって、美容師の幅を広げるということは、人の幸せの幅も広げるということなんですね。
そうですね。独立するきっかけもそうでした。「grico」設立の前に、23歳でフリーになった時、いろんな地方からお客さまが来てくれたんです。その中に介護福祉士の仕事をしている女の子がいました。その子がある時「自分が担当していたご老人が亡くなった。それがショックでとても辛い」と僕の前でボロボロ泣いたんですね。その姿を見て、こんな風に真摯に仕事に向き合う人たちを応援したいと心から思いました。こういった人たちを助けるためにも、経営者になって自分の店を持ち、もっと自分の視野を広げたいと思いました。
それと、もうひとつ。ちょうど大家族に密着した番組がテレビでやっていて、それを見ながら、自分のフリーという立場を振り返ってみたんです。今は幸せでお金もまわっている。でも、お客さまという家族と、スタッフという家族がいて、父親的な存在である経営者がいたら、もっともっと人を幸せにできるんじゃないかって。そして自分がその父親、つまり経営者になろうと決めました。