第3章「人間教育」とは?
「スタッフを幸せにするのは、
僕のためでもある。」
「Gallica」は、独自のスタッフ教育を行っていることでも有名ですね。
アシスタント時代に、体調・メンタルを崩したことや、「なんでこんなに人が辞めていくんだろう」と感じたことが根底にあります。アシスタント歴9年目、10年目という人もいて、効率が悪いというか、どこかおかしいな…と。当時は有名店で働いて有名になるのが王道でしたが、そうなれない人も沢山いたし、「出来ない」と愚痴が多いような店にしたくなかった。
これは、人の根本を、変えないといけない。“根本”って、性格ではなく、“人の状態”のことです。サロンの環境が“いい状態”でないと、“いい思想”にならないのではないか、と。なので、“状態からよくしていく”、という教育です。
うちの決まりのひとつに、「怒らない」というものがあります。人に対して怒りの感情をぶつける人は、基本いません。怒ったほうが、手っ取り早く、人を服従させることができるかもしれない。でも、それで育った人が上の立場になると、競争だけの世界になってしまう。過去の美容業界には「俺が偉くて一番うまいから、俺の言った通りにしろ」というオーナーが、多かったのではないでしょうか。そうなると、昔の僕のように「自分には能力がない」と思って、成長しにくい人もいるのではと思いました。
一緒に働く人が幸せになっていないのに、自分だけ幸せになったら、息苦しい。だから、スタッフを幸せにするのは、僕のためでもあります。
具体的には、どのような取り組みを?
6つの項目を埋めていく、「未来計画シート」を作成してもらいます。これは僕自身が、美容専門学生の頃から続けているもので…。店舗展開のときの思考と同じで、最終的な目標から「逆算」で考えていくんです。
まずは、どんな人生を送りたいかの最終目的である「人生の目的」を決めます。次に、「ジャンルを問わず、やってみたいことの項目リスト」。そして「仕事やプライベートなどの目標」、目的を達成するために、行動計画を考える「人生計画」、「年間計画」、「月間目標」…といった具合です。
若い子って、健康をあまり気にしないですよね。健康も、今のうちからやっておくと、財産になる。スタッフが病気になるのは嫌です。僕は医者ではないので、助けてあげられない。なので、プライベートを含めた健康面も、このシートでちゃんと考えてもらうようにしています。
店長とともに、毎日「未来計画シート」の進捗を確認します。なので、直接やりとりしないとしても、52名のスタッフ全員の気持ちは、わかっているつもりです。店長にとっても、これが、マネジメントの訓練になります。
ある程度、店長に任せている部分もあるのですね。
僕がやっているのは「戦略」、店長は「戦術」、スタッフには尖った「武器」を持たせる。道を示しながらも、一人ひとりに合わせた「武器」を、いろんな方向から、一緒に考えてあげることが大事だと思います。僕は、今は“できるほう”かもしれないけれど、“できない人”の気持ちも、よくわかるからです。だから、サポートも、主体性もどちらも大切にしています。
教育面は、ほかに?
毎日の朝礼で、僕や店長が「経営理念」を話す時間が少しあります。スタッフにも1分間スピーチをしてもらって。「相手を思いやった言葉遣いで話すようにしましょう」とか。みんなで毎日話していると、現場も自然とそういう空気感になっていくんです。
サロンに出入りするディーラーさんからも、よく言われます。「普通は、一人くらいは病んでしまうスタッフがいたり、厳しい雰囲気があったりする。でもGallicaのスタッフはみんな気持ちよく挨拶してくれて、名前も覚えてくれる」と。
離職も少ないですね。ゼロではないですが、辞める理由が、マイナスなものではない。たとえば、スタッフが「沖縄で挑戦したい」とか「コンセプトが違う、ほかのサロンで挑戦したい」とか。僕も、「いってらっしゃい」と、前向きに送り出します。
今後の展開予定は?
創業時からの「10年で10店舗」は変わりません。いま7店舗なので、2025年までに、あと3店舗です。でも、いくら利益を上げたとしても、豊かでない会社は嫌ですね。スタッフ一人ひとりに、ちゃんと、心があるんで。
規模や売上だけではなく、みんなが健康で、みんなが豊かでいられるように。監視でも、競争でもなく、“共創する企業”を目指します。
自分がアシスタントだった頃は、「店長と気軽に喋る」なんてあり得ないことでしたが、うちではそれができる。子どもができたら相談できるスタッフもいるし、できなかったときに相談できるスタッフもいる。女性店長・ママ・パパ店長・若手やベテラン、多様性が育ちつつあります。気持ちが豊かになれるように、いろんな意味での“人間教育”を、これからも大事にしていきます。
かつて、ドン底を味わった自分の経験を、いまの経営に活かす。それが、少しでも社会や業界を変えるきっかけになればいいな、と。言うなれば、“ハッピーな逆襲”をしていきたいですね。
中村さんいわく、「自分の身長を超えるくらい本を読んだら、人は変わる、と思っています。たくさんの本を読めば、読む本も、自分のレベルも上がる。自分の経験なんて、たかが知れています。それよりも、問題を乗り越えてきた人たちの知恵を、本から得たほうがいい」と。
あまりにも達観しているので、中村さんが現在33歳と聞いて、驚きました。きっと、頭の中に数え切れないほどの知見を、何百冊という本から、自分自身に吸収させてきた証です。