第2章美容師の地位向上と労働環境の整備。その想いの原点
「“やればできる”という成功体験。
社員にも同じように感じてほしい。」
「TJ天気予報」はご主人でありCEOの武司さんとの結婚を機に始めたそうですが、大前さんが初めてご自身のヘアサロンを開いたのはそれより前、22歳のときだったとか?
そうですね。美容学校卒業後、美容室に2年務めただけで独立しましたから、向こう見ずでした。貧しい母子家庭に育ちましたので、みじめな現状を打破したいといった感情が強くありました。母は離婚後、美容師として収入を得て私を育ててくれましたから、私も同じ職業を選んでいました。私が勤めた美容室は繊維業界が盛んな時期で、お金持ちのすごいお客さまがお越しになったりと、とても繁盛していました。一方、母は細々と一人で美容室をやっていまして、そのギャップに対しての悔しさに「私もやればなんとかなるかもしれない」と、若気の至りで独立しました。
長屋の一角の店舗で22歳のときに独立、26歳で店舗用の中古住宅購入、28歳で店舗移転と、20代でたくさんの借金をして返済をしていく経験をしました。また、お客さまの大切さも、身に染みて感じる20代を過ごしました。
当時の経験が、現在につながっていると感じる点はありますか?
はい。20代で経験した大きな出来事は、「やればできる」という自信を持てたことです。最初の店舗改装費用の100万円、中古住宅購入の1400万円、店舗移転のときには2300万円の借金でした。でもこれらを30歳の時には決着をつけて「田んぼの真ん中に学校を」と、一風変わった大前武司の夢に乗って、それから夢の続きがつながっていきました。だから「人は変わることができるんだ」と、実感しています。とても貧しい家庭環境からのスタートでしたが、マイナスに思えることが大きければ大きいほど、それは人生を切り開く原動力になります。つらい経験や困難を乗り越えて、人は大きく成長することができる。その道のりの中で経験する小さな成功体験が、次への扉を開く勇気をくれるんですね。
多くの社員のみなさんが、弊社と「今」という時間をともに生きています。日常の中には、辛いことの方が多くを占めているかもしれませんが、「やればできる、思ったように自分の人生をつくりだすことができる」という体験を、この素晴らしい美容の仕事を通して実感していただきたいですね。そして、幸せを多く感じられる心を育てていってほしいと思います。
「労働環境を整える」というお考えに至ったのは、どのようなことからでしょうか?
今もそうかもしれないですが、私が若い頃はもっと、「美容師」という職業が軽んじられていると感じることが多かったんです。たとえば我が子の結婚に際してご両親が結婚相手の職業を聞いたとき、一般企業の会社員と美容サロン勤めだとしたら、後者のほうがなんとなく不安定な職業だというイメージを抱く人が多いのではないでしょうか。そうした状況に限らず、弊社の社員のみなさんには、「ここに勤めたから人生で損をした」なんて経験は絶対にしてほしくないんです。美容師の職業としての地位を向上させて、みんなに安心して働いてもらえる環境を提供することが、私の務めだと思っています。
社員のみなさんがいきいきと働く姿から、「安心して働ける環境」は実現しているように見受けられますね。
実現できているかどうかは何とも言えませんが、美容師という職業の地位向上には、良い会社をつくること、地域のお客さまに頼りにしていただける私たちであり続けることが大切です。年収ベースの職業ランキングで、私たちの仕事は非常に低い位置にランキングされていることがありますが、それはとても悔しいことです。「生涯を通して、豊かに人生を送れる仕事にしていかないといけない」といった想いは、どの経営者のみなさんもお持ちだと思います。
今回「イノベーターが見ている未来」といったテーマで、インタビューを受けさせていただきました。私は弊社の社員のみなさんが、どのような未来を描き出すチャレンジをするのか、その力を応援し、私自身も一緒にチャレンジをしていきたいと思っています。