第3章3人が思い描く未来
「美容師の地位向上を目指して、
ONE’s キングダムを創る!」
順調に拡大を続けていますが、今後の構想は?
阿部●目指す最終形態は、うちに携わる人たちに圧倒的な福利厚生、待遇を与えたい。ある種の“独自経済特区”を創って、税金として国に納める金額と等価くらいのリターンが得られるようにしたいですね。中2病っぽいって言われますが(笑)、「ONE’s キングダム」を創りたい。一つの街を創るようなイメージです。
※キングダム:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて連載中の、古代中国における戦国大河ロマンを描いたマンガ。“組織の在り方”という視点で、参考になるという声が多い
“独自経済特区”について、もう少し教えてください。
阿部●高水準の給与を用意しても、それら全部が社員の自由になるわけではなく国税を納める必要があります。税金を払うこと、税率が上がるのってみんな嫌がるけど、そこは避けられるものではない。だから代わりにというか、うちが経営する飲食業や不動産業の施設やサービスを安く利用できるようにする。あとは、ONE’s ポイント的なものを作って、ポイントが使える提携施設を増やしていって、社員にポイントを支給する方法もありますよね。そうして結果的に可処分所得を増やすわけです。
これが実現できたら、国への経済貢献にもなるし、他の企業にもぜひ取り入れてもらいたいと思っていて。日本経済界に、やっていきましょうよってアピールしていきたいんですよね。そのためにはまず上場しなければならないと思っています。株式会社として上場したら、自社株の分配で社員に配当を出すこともできるし、そのへんも全力で駆使していきたい。
でも、もしかしたら配当制度は、上場前にやれるかもしれません。今後の検討材料ですね。
「ONE’s キングダム」による恩恵がいろいろあるから、税金がいわば実質無料になる。そんな世界観というわけですね。そのために計画していることはありますか。
阿部●当面のテーマは「内製の強化」と「規模拡大」。この2つに真摯に向き合って突き進んでいきます。直近では名古屋に新店舗を出すので、我々のテリトリー外のエリアで戦えるのか、というのもチャレンジの一つ。あとは先ほどちょっと話したように、コロナ禍で予定が崩れてしまった今年の事業計画を挽回していきます。「あいつら本当に飲食業に進出できたかな?」って、来年の様子を見守っていてください!
みなさんいろんな事業を手掛けていますが、美容業界の将来に対する想い、目指していることをお聞かせください。
吉田●経営者になったいまも、「お客さまをきれいにしたい、美容が好き」という根本は変わりません。好きな業界ではあるけど、悲しいと思うのは労働面、給与面でブラックと言われる社会的地位の低さ。
美容業界を離れる理由は「美容師が嫌いになったから」じゃなくて、「好きなだけじゃ食べていけないから」という人も多くいる。「嫌い」と「つらい」は違うと思うんです。だからうちは、そういう人も含めた、“すべての美容師の受け皿”になりたい。有名店で働くカリスマを目指す人、マイペースにパートで働きたい人、いろんな人にマッチするブランドをうちのグループで用意して、美容師が最終的に行きつく場所になりたいって考えています。
鈴木●美容師って国家資格を持っている割に、地位が低いのが現状です。だけど、この先の日本経済を考えると縮小傾向にあり、美容だけをしていては限界に直面するでしょう。だから多角展開を進めることで、そこをフォローしていきたいですね。
美容師をやりながら不動産の資産運用ができたりとか、うちの事業部に所属してそちらの手当も出すようにしたり。そうして社員たちがきちんと稼げる場を用意して、所得を向上させていくことで地位向上につなげたい。美容業界を変えたいって大きなことを考えているわけじゃなくて、「僕らに携わる人を幸せにしたい」って気持ちです。
阿部●美容業界に関して僕がやりたいのは、夢と現実のギャップを埋めること。さっき話したように、夢を抱いてこの業界に入ってきた子たちのロマンが実現できる環境をつくりたい。そして、美容師の将来的なキャリアを用意すること。美容師はみんながんばって働いてくれているけど、50歳が限界とも言われている。がんばってくれている子たちの将来を、経営者側はみんなきちんと考えてあげているのか?という疑問があって。
じゃあどうするかと考えると、僕は多角化しないと無理だと思うんですね。だからONE’sとして多角経営を進めるのはもちろん、他の企業にもこのビジネスモデルをすすめたい。もしイチから事業を立ち上げるのが大変なら、僕たちの代理店という形で美容師が稼げる仕組みを提供していくのもアリかなと思っています。
多角経営をしながらも、やはり美容業界には強い思い入れがあるんですね。
阿部●上場だの日本経済だのと言いましたけど、僕も美容師出身ですから、やっぱり美容業界には愛着があるんです。それに経済を活性化させる点においても、美容って大切。結局、人間ってメンタルに左右されるじゃないですか。メンタルの改善に美容は必要不可欠なものだし、そういう意味では経済活性化の直接的な因子ではなくても、メンタル的な因子として、美容は軸になるものです。
僕らは美容から始まったからこそ、どれだけ規模が大きくなったとしても、“美容を追求していきたい”と思っています。
『“若いからこそ、ベテランの大人より、ビシッとしようぜ!”っていう反骨精神がある』と語る。
だから、教育の効率化だけではなく、“人間力を育てる”ことにも重きをおく。
挨拶・お礼をきちんとする、遅刻をしない…など、人として大切にしてほしいことを、スタッフに日々伝えているそう。それは『ONE’sを離れても、戦える人間になってほしい』という想いからだ。
創業から、たった3年でこのスピード展開。実は、20年後の構想までも、ありありと描いている。若き彼らの“挑戦”という物語。その20年後も、目が離せない。