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僕は、ヤキモチ焼きなんです。世の中でウケているものとか、ちょっと憎らしい(笑)。
千葉
この記事は、美容サロンの方々がおもな読者です。「男性美容師は、40代を超えると一線で活躍し続けることが難しい」とも言われます。
カタチを変えながら、第一線で活躍し続けてきた糸井さんには、どんな秘訣があるのでしょうか。糸井
「あの頃のあの人はすごくよかったんだけど、そのあとつまらなくなったよね」っていうのは、広告の世界もそう。巨匠みたいな人はいるけど、ものすごく長くいる人って少ない。なんでだろうね…。
僕はねぇ、ヤキモチ焼きなんですよ。世の中でウケているものとか、ちょっと憎らしい(笑)。本当に嫉妬しているのとは違って、“憧れ”がある。「俺にはそれ、できないわ」っていうのをみると、小さく嫉妬してる。「なんでできるんだろう?」「おまえのほうが、正しいよ」って。それは、いくつになっても、ずっとそう。
最近だと、3歳の孫娘に「おまえは正しい!」と思った。アメリカで流行っているお遊戯のゲームをやっていたんです。ミカンを置いて、その数でバンッ・バンッと拍手して、置かなかったら拍手しないというゲーム。孫は本当に楽しそうに、ミカンを置いたり、くるくるまわったりしているんだけど、ルールは理解していない。それで、大人がやり方を教えるうちに、機嫌が悪くなって机の下に隠れちゃった。ルールを先に覚えて、それに合わせて遊ばせようとしたことが間違っている。どうして大人はこうやってしまうんだろう、と反省しました。
そういったことに気づけないまま、自分が「上」にいると思っている人が、“止まる”んだと思う。仕事のやり方を教えるなかで、「こうなんだよ」と昔ながらの方法で、カタから押しつけるのは、自分をつまらなくしている。人と人とが出会ったら、全然違うクリエイティブが生まれるのに。
美容サロンの人だったら、どうだろう…。「お客さまにもいろんな好みがあるんで、最近どんな映画を観ましたか?って聞くようにしているんです」って、もし自慢気に言う人がいたら、「それが迷惑なこともあるんじゃないかな?」と思ってしまう。どういうところに、その人のスイッチがあるかは、そんな簡単にわかるものじゃない。おそるおそる押してみる、くらいのそういう気持ち。自分をちょっと否定するとか、批評する目があると、いいのかな。
千葉
73歳の今現在もカリスマであり続けている糸井さんですが、「何歳まで働く」と、決めているんですか?
糸井
いつも、“辞めるために働いている”。これ、本当なんです。「いつでも辞める」って社内で言うと、「だから、(君たちが)しっかりしろよ」と言っているようにも聞こえてしまうから、脅迫になっちゃう。それはよくない。でも、できることなら、“無責任な継続”をしたいんですよ。社長業って、組織のなかで「親」みたいに例えられるんだけど…。僕は早く、もっとハッキリと、ただの“オジサン”になりたい。そしたら、思いやりがちょっと足りないな、ということも言える気がして。
社長って、プレッシャーをかけて力を及ばせる以上に、気を遣いすぎている。今、この人にこれを言ったら、キャパシティ的にオーバーしちゃうから、また別の機会にしようとか。それがジャマ。「おまえならできる!」と、笑いながらやらせちゃう人のほうが、働く側もラクだったりする。
文化祭前の徹夜なんて、みんな大好きだったよね。でも、社長業をしていると、それを奪ってしまう可能性が高い。今、ほぼ日が準備していることで書き入れ時なものがあるんだけど(4月29日~5月4日に開催する「生活のたのしみ展2022」)、僕はなるべく手出しをしないようにしています。みんなきっと、無理してがんばっているだろうから。社長として「止めよう」と言ってしまう、自分にさせないように。
カリスマうんぬんじゃなくて、なんだろう…。責任感でやる仕事は、つまんないです!そう思っていると、きっと、辞める時がわかるんじゃないかな。自分では、そう思っています。「あのオジサンがきて、仕事増えちゃったよ(笑)」みたいな、そういう人になりたいね。
『時代のトレンドは、常に動くもの。それが強い勢いであればあるほど、同じ振れ幅で廃れていく。だから、会社のみんなによく言うのは「それは、縄文時代の人でも同じように思うかな?」ということ。縄文時代は約1万年あって、人類の歴史で一番長い。その時代の人でも同じように思うってことは、本当の意味での心の動き。だから、エッセンシャルに考えられるように意識している』
考えている“本質のレベル”が、圧倒的に違う。だから常に、人間のコアな部分に響くクリエイティブをつくり続けることができるのだ。
こんなにも自然体で、知らないことを面白がれる、カッコいい70代に、僕もなりたい!
ホットペッパービューティーアカデミー/アカデミー長・千葉智之