第2章チームサロンを実現する教育体制
「“利他主義”と、ただ言っても浸透しない。
前例を作り、目に見える形で提示する」
開業5周年を迎えて、現在のスタッフ数や平均年齢を教えてください。離職が少ないとも聞きますが、実際いかがでしょう。
美容室のスタッフは87名で、平均年齢は23.5歳。新卒はアシスタントから2年~2年半ほどで、また中途の場合は1年~2年でデビューする子が多く、スタイリストの平均年齢は26歳です。
離職は少ないと言っても、多少はあります。そのほとんどは入って1年未満のアシスタントです。離職理由はみんな同じで、「周りのモチベーションが高すぎて自分には合わない」というもの。こうしろ!って強制してはいませんが、「周りを見て落ち込んでしまった」と言われます。
やはり若いスタッフが多いんですね。Z世代と言われる若者層の教育に悩むサロンも多いですが、sandさんの教育方針は?
うちの教育理念は「優しく厳しく、厳しく、でも最後まで温かく」。昔も今も変わらないことですが、理不尽なことって誰でも拒否反応を示しますよね?僕もそうです。
だから、叱るときもまずは相手の話をしっかり聞く。そうして相手を認めたうえで、こちらの考えを伝える。この順番を守ることは大事にしていて。聞くだけ、伝えるだけ、ではどちらもダメなので、そのバランスは意識しています。
双方向のコミュニケーションを重視されている。それはやるべきこととして常に意識されている?
意識はしていますが無理しているわけじゃなくて、そもそも“人”が好きなんです。先日もアシスタントの子たちを連れて、飲みに行ったところで(笑)。スタッフが喜ぶ顔を見たり、この会社最高!って思ってもらえたら嬉しい。じゃあそのために何ができる?という考え方です。
美容業界は昔の徒弟制度のような上下関係が残っていることも…。sandさんが柔軟にいまの時代に対応した教育ができているのはなぜでしょう。
それは先ほどお話しした、勤めていたときの失敗があったおかげかも…。「ついていけない」と言われてしまった自分の経験が、いまの考え方の基になっています。うちも上下関係はある程度ありますが、厳しすぎないというか。ある程度の緊張感は必要だけれど、あまりピリピリしていると委縮につながりますから。タテ社会すぎない、いい感じでフラットな組織づくりを目指しています。
周りからは「体育会系」と言われますが、実際に働くスタッフは「全然、体育会系じゃない」と言いますね。ワイワイしている感じが、体育会系に映るんですかね。
島崎さんも、スタッフのみなさんも「挨拶を元気良くしてくれる礼儀正しさ」が、体育会系と感じるのかもしれませんね。ちなみに、島崎さんが大事にする考え方を、幹部の方にはどのように浸透させましたか?
会社の風土をつくるには最初が肝心と考え、最初の2年間くらいはスタッフ数を10人程度にとどめてチーム作りに力を注ぎました。
まずは僕が先陣を切って姿勢を示しながら、仲間を尊重する意識を浸透させる。その立ち上げスタッフが現在はリーダー的な立場になっていて、彼らが会社としての理念を後輩へと継承させています。
チーム作りを重視しつつも、実力の差により抜きん出たスタープレイヤーは出てくるもの。その点で意識的に行っていることは?
スーパースターになると天狗になってしまう人も多いですよね。感謝の気持ちをなくして、自分一人の力でやっていると考えて謙虚さを失う。そうするとスターに憧れる後輩が、悪い部分もマネしてしまい、負の連鎖が起きる。
そうしないためにはこれも最初が肝心で、最初の育て方にはとても注意して、利己的ではなく“利他的”な考え方ができるような意識付けを行いました。
現在はスタッフが87名いて、平均給与額はどれくらいですか?
役員を抜いたスタイリストの平均給与は繁忙期だと約140万円、通常期で100万円ちょっとくらい。年収にするとデビュー後のスタッフの平均が約1,220万円。これは2,000万円台の子を含めた平均なので、デビューしたての子だと400万~500万円くらいですね。
給与の評価軸は売上ベースで、プラス役職手当が付きます。また、それとは別に年1回の賞与に関しては、売上に直接反映されない目に見えない仕事とか、教育など社内活動に対する貢献度で評価しています。ちなみに、前期の賞与額は、総額で1,300万円を超えました。
売上以外の評価基準があるのは素敵ですね。導入したいと思いつつ、定量評価するのが難しいというサロンさんの声も聞きます。
うちのミッションは「導く」。ビジョンが「日本一のチームサロンになる。日本一のチームサロンから生まれる、“満足を超える感動”を日本中のお客様に届ける」。
ですからミッションでもある「導く」ことを最上級の評価基準にしていて。年1回のスタッフアンケートで「誰に一番導いてもらったか」を聞き取り、その結果を「導き賞」の賞与という金銭的な形で表しています。ほかにも、「掃除を頑張ってくれたで賞」「嫌な仕事を一番頑張っているで賞」といったものがあります。
「導く」というのは、具体的に?
スタッフが「この人のおかげでいまの自分がある」「この人がいたから美容師として楽しく働ける」と感じることなら何でもいいんです。技術で導くタイプもいれば、飲みに行って相談にのるタイプもいるし、方法は人それぞれ。
導くための行動指針となるのが、うちのバリューに設定した「誰が為(たがため)」。「誰かのためを思い行動すると、結果自分の幸せに繋がる」という想いを込めたものです。
そうした考え方を伝える場を設けているのですか。
入社後に新入社員向けの合同研修として1回6時間の「マインド研修」を計6回、行っています。役員やマネージャーから会社の道のりや大事にしていることを伝える座学のほか、新人スタッフに将来の夢と、それを実現するためのプロセスを書いてもらって発表させる場もあります。
まず立ち上げメンバーであるマネジメント層の意識を統一させて、その後はマインド研修で新人にも意識を浸透させる。その結果、「チームサロン」というsandさんの風土ができ上がったんですね。
あとは先ほどお話しした「導き賞」。多い子には100万円くらい賞与を渡しているんで、みんな「導き賞」を取りたいわけです。どんな子が評価されるかというと、利己的ではなく利他的な行いができる人だなって見ているとわかる。だから自分もそうなろうと、日々の行動が自発的に利他的になっていく、といういい流れができています。
「利他主義」ってどういうことかを言葉で伝えるのは難しいし、言ってるだけでは浸透しません。だからどんな行動をしたら会社から評価されるのかを示す「導き賞」という前例をどんどん作って、目に見える形で提示しているんです。
そうしたチーム作りの教育方法や運営方針というのは、島崎さんが考えたものですか?
細かい部分や日々の実践方法はチームの長や副長が意見を出し、幹部会議で話し合って決めています。大枠は僕が考えていて、自分が育った環境と似ている部分もあるし、違う部分もあります。
自分がどうだったかにとらわれず、時代に応じたベストだと思う方法をとっています。どんなふうにしようかっていうのは、若い彼らが求めていることを日々のコミュニケーションから探ったり、彼らの夢や理想を聞いているからアイデアが湧くのかもしれません。
結果的に順調にサロン数も増え、給与として社員に還元もできている。sandがうまく経営できている秘訣はどこにあると、ご自身はお考えですか?
やっぱりすべての土台となる人間関係がうまくいっていること。僕は、不満や不安ってジャマなものだと思っているんです。会社やメンバーに対しての不満はゼロにできるのが一番いい。そこで悩まなくてよければ、お客さまをガッカリさせてしまったことだとか、同僚や後輩をうまく導けてないことに対する不安や不満を解決するために時間を注ぐことができる。人間関係がいいおかげで、会社としてもうまく流れに乗っているのかなと思います。
あとは幹部のパワーですね。「sand」は幹部の熱量が、とても強いんです。これも、大きな成功要因だと思います。