第3章ネイル業界の発展に必要なものとは
「“美容室ネイル”でお客さまの裾野を広げ、
ネイル業界に真の競争を引き起こしたい。」
経営面や教育面において、ネイル業界全体の傾向としてはヘア業界に比べてまだ整備が遅れているとも言われます。改革を進められてきた鈴木さんから見て、この先のネイル業界はどうなると予想されますか。
ネイルサロンは、趣味の延長のような“ゆるい”サロンも多いです。それを否定するわけではないけれど、ブームも一段落した現状では、きちんと「仕事」としてとらえたサロン運営を行わないとお客さまは増えていかないと思います。とはいえ、ネイル業界に携わる人たちの意識を変えるのは難しいのも事実。だったら、いっそのことネイルの施術も、まずは、ヘアサロンが引き受ければいいと僕は思っています。
それは、ヘアサロンでネイリストを雇用するということでしょうか。
ネイリストではなく、ヘアのアシスタントがネイルを担当することを考えています。美容師とネイリストでは仕事への価値観などが異なる場合が多く、マネジメントが大変なことも・・・。そういった背景があってか、美容室のオーナーはネイリストを雇用するのを嫌がる場合があるので(笑)。ヘアサロンで手軽にジェルネイルを提供するために、弊社では特許技術を取得したネイル商材「ペラベース」を開発しました。ジェルネイルの施術で一番手間がかかり爪を傷めるのは溶剤を使ってオフすることですが、「ペラベース」はシールをはがすように、簡単にペロンて取れるんです。爪を削るサンディングが不要・アセトンも不使用ということもあって、爪を全く傷めないんです。ヘアサロンのお客さまの大半は、凝ったアートではなく単色塗りに少しストーンを使う程度のシンプルなものをオーダーされます。「ペラベース」なら、ある程度の講習を受ければ、ヘアアシスタントでも施術が可能です。
ヘアサロンで手軽にネイルができるようになれば、ネイルを楽しむお客さまの裾野が広がり、アシスタントの売上アップにもなります。もっと凝ったネイルを望むお客さまはきちんとしたネイリストがいるサロンを利用すればいい。そこまでじゃない方、例えばネイル未経験の人は気軽にヘアサロンでネイルを体験して欲しい。そうして競争が起きることがネイル業界の改革になるし、ネイル経験者を増やすことが業界の活性化になると思うんです。先日見た「今後10年でコンピュータに取って代わられる職業一覧」にネイリストも挙がっていましたが、本気度が足りないネイリストさんは残念ながら淘汰されても仕方がないと思います。
鈴木さんは、ネイル・ヘアにとらわれることなく、柔軟にいろいろなものを取り入れていらっしゃいますね。
そうですね。あと、ヘア業界で行われている「クリエイティブフォトコンテスト」を、ネイル業界にも広げていきたいとずっと思っていて。それを、この2016年・秋に実現します。そこからまた新しいネイリストの「やりがい」が生まれると思っています。
では美容サロン全体について、今後の展望はありますか。
ネイリストと美容師どちらにも言えますが、「ファンがつく」ってすごい職業だと思います。僕は他の業界も見てきたからこそ、余計にそう思います。そんな職業、なかなかないですよね。その価値をもっといかせるように、現在ブランシェホールディングスの組織再編を進めているところです。ブランシェホールディングスはビーファーストが運営するネイルサロンのほか、ヘアサロン事業や飲食事業も展開していますが、これまでは独立採算で顧客情報もそれぞれの管理でした。それをヘアからネイル、飲食へとパスをつないで顧客を共有しあえる仕組みづくりを強化していきたいと考えています。
美容師は髪型だけではなく「お客さまが喜ぶもの」をコーディネートすることが役割で、お客さまの支持を得ている彼らにはネイルや飲食の提案をして受け入れてもらえるだけの「人間力」があります。これはネイリストも同様です。パスをつなぐ先は自社運営に限らず、異業種他社と提携するのもアリでしょう。せまい美容業界内でお客さまを取り合うより、広がりは大きいものになります。
広告の世界にいた時と大きな違いだと感じるのは、お客さまの声がダイレクトにわかること。それは、サロンという「現場」を持っているおかげです。お客さまが欲しいもの・望むものを作ればいいから、マーケティングがずれることがないんです。
美容サロンができることの可能性を、もっと広げたい。カットやカラー・ネイルだけで勝負する時代から、今、変わるべき時期が来ていると思います。
このように業界全体を俯瞰している点など、広告代理店で働いていた経験・知識が随所でいきています。「ネイルも、髪を切る技術もない」、鈴木さんはご自身をそう表現されました。でも、だからこそ見える視界で、これからの業界を変えていく。そんな可能性を強く感じました。