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第3章日本のシニア層を、アジア女性の憧れに

「シニア層を輝かせるには、美容師レベルを上げる。
パターン化したヘアカットから脱却する必要があります。」

美容業界のための活動もされている由藤さんからみて、業界の課題だと感じる点はありますか。

技術者として「美容師のプロ意識」が薄れているように感じています。今は低価格・スピード重視タイプや、面貸しサロンが増えています。お客さんの選択肢が増えるという面においてはいいことです。でもみんながそうなってしまって、従来からあるスタッフ育成型サロンが廃れてしまうのは、これまで育まれてきた日本のヘアカット文化が途絶えることにつながる。それは結果的に、お客さんの不利益になります。ですから若手を育成する環境づくりに取り組み、美容師としての志を伝えていきたいですね。

最近は若手の子まで、売上至上主義の傾向があります。もちろん経営者層はビジネスですから、数字を考えなければいけません。でも技術がまだ未熟な若手が、数字を気にしすぎるのは違うんじゃないかな。技術もないのに売上を高める方法論ばかり考えるのは、レストランで言ったら「まずい料理をどう食わせるか?」と考えるように不毛なことだと思うんです。

では業界の未来について。10年後の美容業界の予測や、こうなっていたいという希望は?

日本はこれまで、パリやニューヨークの女性のヘアに憧れて追いかけてきたように思います。10年後は日本のシニア層のヘアデザインが、アジア圏の人々の憧れになっているんじゃないか。というか、そうなるようにしていきたいと思います。

すでに始められている「ファッションシニアプロジェクト」の完成形ということですね。取り組みを具体的に教えてください。

65歳くらいから上の年齢層のお客さんに、僕が勝手にヘアデザインを提案してカットしているんです。服装は素敵なシニア女性でも、ヘアのことになると「普通に」とか「無難に」っていう答えが返ってくる。でも今のシニア層は新たなムーブメントをつくってきた団塊世代、新しいことに意欲的な世代です。仕事や子育てもひと段落して、せっかく自由なファッションを楽しめる年齢になったのに、もったいないですよね。「新しい生活に合った、新しいヘアを提案したい」と思ったんです。

最初は「いつもと違って大胆すぎる」とか抵抗されます(笑)。でも実際に僕の提案したヘアにすると、まわりからほめられる。そうすると「じゃあ次はこうしましょう」と、どんな提案をしても受け入れてくれて、どんどんキレイになっていきます。

美しい「ファッションシニア」が日本では当たり前になり、アジア各国から憧れの存在になる。そのために、美容師に求められることは何でしょう。

「パターン化したヘアカットしかできない美容師から脱却して技術を高めていくこと」です。シニア層を輝かせるというのは、単に若作りをしているわけではない。年齢やその人に合った美しさを引き出しているんです。若いお客さんを相手にする以上に、一人ひとりに合ったオートクチュールのデザインが求められます。そのためには技術を磨き、美容師としてのレベルを上げていかなくてはなりません。

ヘアは、その人の印象や人生に大きく影響します。その人の大切な人生をあずかっているとも言えます。だから、本人ですら気づいていないその人の魅力を、ヘアで際立たせたい。難しいけれど、やりがいのある仕事です。自分の父親が78歳まで現役だったので、僕の目標は80歳。「美容師になりたい」と文集に書いた小学生の頃の自分を裏切らないように、これからも日々努力して、もっともっと上手くなりたいですね。

  • 由藤さんが小学生の頃に書いた文集。高校生の頃には父親とヘアセミナーに行っていたそう。「いつか、あんな風にプロの前で切れる人になりたい」と思った夢を今、見事に実現している

 少し個人的な話をさせてもらうと、40歳を過ぎてチラホラ出てきた「白髪」は憎き存在でしかありませんでした。そんな時にFacebookのタイムラインに出てきた、何ともかっこいい白髪スタイルの女性の写真!それは由藤さんが手がけた「ファッションシニアプロジェクト」の一枚。今から20年近く前に流れていた某化粧品のCM「美しい50歳がふえると、日本は変わると思う。」というコピーを思い出しました。由藤さんはまさに、新潟だけではなく、日本を変えていこうとしています。日本女性の価値観・スタイルさえも変えてしまう力を持っています。少なくとも私は、由藤さんのそのたった一枚の写真で、白髪を含め歳を重ねた自分の未来が、明るいものに変わりました。
 ヘアサロンひしめく東京に住む私が、一年に一度は新潟に赴き由藤さんに髪を切ってもらう理由。それは、その類まれなる“技術”と“人柄”に触れたいと思うからです。

その年齢だからこそ表現できる美しさを形にする「ファッションシニアプロジェクト」。来るべき高齢化社会に向け、その先駆けとも言える取組み(写真:由藤さん撮影)

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