第3章業界の革新者が進める、新たな取り組み
「高齢化社会に向けた、訪問理美容への参入。
それは、“サービス”と“理美容師”の幅を広めるチャンス。」
10年後、理美容業界はどうなっていると思いますか。
今は理美容室の数が多く飽和状態ですから、業界の活性化には新陳代謝が避けられません。これからの10年は、大きな転換期となるでしょう。ですから10年後にも、「お客さまと働き手の双方から選ばれる」ことが重要です。これからもトライ&エラーを重ね、質を高めていくチャンスともいえます。
北野さんから見て、今の業界に対して変えるべきだと思う点はありますか?
「理美容学校の改革」が必要だと思っています。なり手の減少に歯止めをかけるには、「選ばれる学校づくり」に取り組むべきでしょう。いまや大学も学ぶ環境の改革に力を入れていますが、理美容学校は旧来から大きく変化していません。働いてから必要になる技術が学校では習得できず、それによって社会に出た時にギャップを感じて挫折する人も少なくありません。
昔はアシスタントとして雑用をこなしながら、閉店後に無給で修行をして技術を身に付けていました。でも現代でそれをやったらブラック企業ですし、アシスタントを抱える余裕がないサロンも増えている。もうこれまでのモデルが成り立たないのです。ですから選ばれる学校になるため、「現実に即していて、意欲がある学生のうちに成長実感が得られる教育カリキュラム」への改革が必要だと思います。
QBハウスとして、これからチャレンジしたい分野はありますか?
すでに展開していますが、海外事業は今もチャレンジ中といえます。海外は離職率が日本より高めで、シンガポールは当初7割が離職していました。でも最初は「離職が多いのは新陳代謝のために必要」だとも考えていました。でも、「そんな状況でも残った人」というのは輝きが違います。入れ替わりながら意欲のある人が残り、マネージャーや店長にしっかりとQBの考えが伝われば、その下のスタッフも辞めなくなります。
現在、進出から3年経った台湾は離職率5割くらい。進出から10年経った香港は2割くらいです。先ほど、最初のうち離職率が7割といったシンガポール、13年経った今では辞める人はほとんどいません。海外進出においても、結果を早く求めず、あきらめないで続ける気持ちが大切だと考えています。
現在は海外店舗を日本企業の「海外事業部」として展開していますが、目標はアジアを代表する企業になることです。アジア圏は成長期を迎えていて、これから世界の中心になっていくでしょう。そうした時代が来た時に、QBもアジア企業というくくりで「アジアの理美容」についてインタビューに答えているかもしれない。未来は予想できませんが、だからこそこんな未来もあり得るともいえます。そう考えると、ワクワクしますよね。
国内では介護福祉施設や病院の利用者へ向けた「訪問理美容事業」も立ち上げています。これも未来を見据えたものでしょうか。
未来は予想できないといいましたが、「これから高齢者の割合が増えることは確定」しています。まだハッキリと目に見えるほどの変化はないけれど、20年後には顕在化しているでしょう。その時に向けた準備として、「訪問理美容」を始めました。今は既存の訪問理美容サービスを展開しながら、現状を把握している段階。ですが今後、「理美容業のサービスを広げるきっかけになる」と感じています。身体に触れる理美容師に対して、利用者は高い信頼感を抱いてくれます。その信頼感を土台にして、将来的には「家庭の中に、さまざまなサービスを提供することができるのでは?」と考えています。
利用者である高齢者からの信頼を得ているのは医師も同様ですが、サービスを提供するという面では理美容業のほうが適していると思います。考えられるサービスの一例として、例えば食事を届けるようなもの。すべて自前でやるのではなく、他業種と協働する形かもしれません。時代の流れを見て進めなくてはいけないので、実現の時期は明言できませんが・・・。こうして理美容師の役割を広げられたら、理美容師の価値も上がります。ですから「訪問理美容」は、すごいチャンスを秘めています。そうしてサービスの幅を広げていって、いつか「QBってもともと理美容業だったの!?」なんて思われるくらいになりたいですね。
そこで、カット練習をしている風景を見学させてもらいました。みなさんが着ている、爽やかな青いシャツ。これはスタッフが中心となり考えに考えて、みんなが納得するまで話し合い、なんと構想から4年をかけて完成したものだとか。「当初ユニホームの変更に反対していた最年長のスタッフも、いざ袖を通すと“10歳若返ってみえるね!”と言ってくれました」と、笑顔で話す北野さん。
「10分1000円」、その言葉が象徴するように常に時間という“制限”に向き合ってきたQBハウス。一方で、スタッフ全員に満足してもらうために、ユニホーム完成まで4年もの歳月をかける。この両極端な時間軸は、徹底的に「お客さま」と「スタッフ」に寄り添った結果、うまれたものでしょう。それが「お客さまとスタッフ両方に選ばれる会社」になり得た、理由のひとつなのだと思いました。