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さらには東京、パリへの挑戦。"
100年史の1ページ目は岩手。さらには東京、パリへの挑戦。
千葉
今後、予定されていることは?
松田
直近だと、今年(2025年)の3月29日、岩手・盛岡にある創業158年のカワトク百貨店に、フラッグシップ店舗としてリニューアルします。「人々に根ざす文化をつくる」という意味でも、フラッグシップはヘラルボニーが生まれたふるさと・盛岡を原点にしたいと思いました。
文登と、「このまま20年、30年とうまくいって、ヘラルボニーの展覧会とかできたらどうする?入口には絶対、年表があるよね。その100年史の最初の1ページ目に何があったら、かっこいい?」って話をしたんです。「“岩手からスタートした”って書けたら、かっこいいよね!」って(笑)。
千葉
本社は今も、岩手なんですよね?
松田
そうです。起業するとき、僕は東京に住んでいましたが、文登は「結婚してっから、岩手から出れねぇ!」と。結果、本社を岩手にして、よかったです。僕は東京、文登は岩手でそれぞれ活動ができますし、何より岩手のみなさんが応援してくれるのが、本当にありがたいですね。
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カワトク百貨店の象徴ともいえる1階正面エントランスに完成予定の「ISAI PARK」。障害のある人の可能性を体験できるショップやギャラリー、地元の食材を使ったカフェ、イベント開催などを想定している
千葉
岩手以外での出店予定はありますか?
松田
2025年3月15日(予定)、東京・銀座にヘラルボニー初となる都内の常設店舗「HERALBONY LABORATORY GINZA(ヘラルボニー ラボラトリー ギンザ)」をオープンします。古いビルで、素敵な空気感あふれる場所。1階が店舗、2階がギャラリー兼オフィスです。 岩手・東京・パリって、すごくないですか?(笑)
千葉
勢いが、すごい!(笑)
ちなみにホットペッパービューティーアカデミーの読者は、美容サロンの方々です。こういうサロンがあったらいいな、というのは?
松田
子どもの頃に困ったのは、兄貴の髪を切ってくれるところが、なかなか見つからなかったこと。「障害のある人をカットしていい免許」というものがあるわけではないし、どこに行っていいかわからない。だから、特性を理解して受け入れてくれるかどうか、ステッカーとかで、すぐにわかるようになったら、うれしいなぁ。聴覚過敏や、カンシャクを起こしたら迷惑をかけてしまう、などの理由で、外で髪を切ることができない人は、たくさんいます。
ちなみに兄貴は、5歳から37歳になった今も、岩手にある同じ理容室にお世話になっています。すごいリピート率ですよね(笑)。
千葉
受け入れているサロンもありますが、まだまだ少ないのが現状ですよね。
最後に、松田さんがヘラルボニーを通して実現したい世界を、教えてください。
松田
「重度の知的障害を伴う自閉症の兄貴に向けられた冷たい視線を変えたい」というのが僕たちの起点。『異彩を、放て。』をヘラルボニーのミッションに掲げていますが、いわゆる“普通じゃない”というのは、“可能性”でもある。アートに限らず、障害のある人の得意なところに目を向けていきたい。そのうちのひとつに、障害のある人たちが働くカフェのアイデアなどもあります。
障害のある人と社会の関わりが増えることで、隔たりのない世界になるといいですね。これからも、「100年先の文化をつくる」ことに挑戦していきます。
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子どもの頃の兄・翔太さん(写真中央)と、崇弥さん・文登さん。「僕たちの人格は兄によって形成された。兄はヘラルボニーという会社の真の創業者です」と語った崇弥さん
これほど、人さまに持ち物を褒められたことはない。
なかには、「私も同じものを買いたい!」というほど気に入ってくれた人も。(しかし、人気のためSOLD OUT!)
障害のある人の作品であることは大切な意義だが、そこは関係がないというかフラットだ。
単純にアートが気に入り、使い心地に惚れ惚れし、作家とブランドのファンになる。
支援ではなく、伴走者であるのがヘラルボニー。ファンである我々もまた伴走者。
クラウドファンディング「盛岡の地に新しいシンボルを、みんなで。カワトクとともに、」は2025年1月23日、当初の目標を倍以上うわまわる、2,364万5,000円でゴール!
この熱量が岩手から東京、パリ、そして世界中に。伴走者であふれる世界は、そう遠くない。