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【ナレッジ編・最終回】「特別な対応」から「すべての人に心地よい接遇」へ

これまで、障がいのあるお客さまへの向き合い方について、法律の知識から具体的なシーン別のヒントまで、さまざまな角度から解説してきました。

「ナレッジ編」の最終回となる今回は、これまでの内容を総括し、「障がいがあるから」と特別に構えるのではなく、すべてのお客さまにとって心地よい接遇とは何かを考え、明日からサロン全体で実践できるスタッフ教育のヒントをお届けします。

お客さまの声からうかがえる接客のヒント

これまでご紹介してきた、サロンでの「うれしかった配慮」のエピソード。 見えてきた共通点は、主に次の3つです。

  • 障がいがあることを特別扱いするのではなく、自然体でフラットに接してくれること
  • 状態を理解したうえで、お客さまが気を張らずに「安心」して過ごせるように配慮してくれること
  • 一人ひとりの状況に合わせて、コミュニケーションの方法を柔軟に工夫してくれること

お客さまが本当に求めているのは、過剰なサービスではありません。一人ひとりの状況を見守り、「何かお手伝いできることはありますか?」と尋ねる姿勢。それは、お客さまの体調や気分に合わせて誰もが心地よく過ごせるようにする、「おもてなし」の基本そのものです。

「できません」で終わらせない。“建設的な対話”という解決策

とは言え、時にはすぐに対応が難しいご要望をいただくこともあるでしょう。そんな時、最も重要なのが「対話」です。

一方的に「できる」「できない」を判断するのではなく、まずはお客さまと一緒に解決策を探すプロセスそのものが、お店への信頼を育みます。これは、お互いの理解を深めながら最適な方法を見つけ出すための「建設的なプロセス」と言えます。

この「建設的な対話」を丁寧に行うことで、サロンのスタッフは「どんなお客さまにも寄り添う力」を育むことができ、結果として、すべてのお客さまにとっての「安心」と「信頼」につながります。

もちろん、お店の状況から、どうしても対応が難しいケースもあるでしょう。大切なのは、その場合でも「できません」の一言で終わらせず、「一緒に考える姿勢」を示すことです。

実は、この姿勢こそ法律(障害者差別解消法)が目指している考え方でもあります。法律では、障がいのあるお客さまから配慮の申し出があった際、お店の状況から見て負担が重すぎない範囲で、利用の妨げとなるものを取り除く工夫をすること(=合理的配慮の提供)が求められています。(#1を参照)これは「義務だからやる」というよりも、「対話を通じてお互いが納得できる着地点を探しましょう」というプロセスを重視しているのです。

だからこそ、まずは誠実に対話を行うこと。それが結果として、法律の観点からもお店とスタッフを守ることにつながっていきます。

【実践ロールプレイング】“建設的対話”の3ステップ

では、具体的にどのように対話を進めればよいのでしょうか。サロンのスタッフと、この下の例にならってロールプレイイングをしてみてください。

お客さま
〇〇してもらえると助かるのですが、可能でしょうか?
スタッフ
ご要望をお聞かせいただき、ありがとうございます。大変申し訳ないのですが、あいにくその対応は店内設備の都合上、すぐに実行するのが難しい状況でして…

いきなり「できません」ではなく、まずはご要望を伝えてくださったことへの感謝と、なぜ難しいのかを誠実にお伝えします。

スタッフ

「代わりに〇〇という方法でしたらご対応可能ですが、いかがでしょうか?」

ここで終わらせず、「お店としてできること」を具体的に提案します。この一手間が、お客さまの安心感につながります。

このほかにも以下のような対話例も参考にしてください。

  • 「もしよろしければ、他のお店ではどのように対応されているか、今後の参考に教えていただけますか?」
  • 「もしご希望に合えば、〇〇をご用意できますが、一度お試しになりますか?」

提案した代替案で、お客さまが「それで大丈夫です」と合意できれば、その方法で対応します。もし難しい場合でも、さらに対話を重ね、お互いが納得できる着地点を一緒に探していくことが大切です。

このプロセスを繰り返すことで、スタッフは「どんなお客さまにも寄り添う力」を自然と育むことにつながります。

特別なスキルより、一人ひとりに向き合う心

本連載を通してお伝えしたかったのは、障がいのあるお客さまへの配慮は、特別なスキルや知識ではない、ということです。

大切なのは、お客さま一人ひとりを尊重し、「無理のない範囲で、できることを丁寧に提供する」という真摯な姿勢です。

この記事が、皆さんのサロンの接客をさらに一段、素敵なものにするきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。ぜひ、今回学んだことをスタッフの皆さんと共有し、日々のサロンワークに活かしてみてください。

さて、本連載『障がいがあるお客さまとの向き合い方』のナレッジ編は、今回で一区切りとなります。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

そして次回からは、いよいよ実践のステージへ。まずは「特別編」をお届けします。テーマは「未来のサロンのつくり手たち」。障がいのある方への接遇を学び、誰もが使いやすいシャンプーの商品開発まで行う、ある専門学校の挑戦に密着します。

さらにその先には、全国のサロンの知恵と工夫が詰まった「事例編」も控えています。どうぞ、これからの展開にもご期待ください!

POINT

  • お客さまが本当に求めるのは「特別扱い」ではなく「さりげない心遣い」。
  • 対応が難しい時こそ、「できません」で終わらせない「建設的対話」が重要。
  • 対話のコツは「①難しい理由を伝える」「②代替案を提案する」「③合意点を探す」の3つ。
  • 特別なスキルは不要。「無理なく、できることを」から始めよう。

監修

株式会社ミライロ

「バリアバリュー」を企業理念とし、障がいのある当事者の視点から、社会におけるバリア(障害)をバリュー(価値)に転換するインフラやソリューションの提供を行っている。デジタル障害者手帳「ミライロID」によるインフラの提供、企業等への研修、リサーチ&コンサルティングの提供を軸として障がい者とその家族が今日を楽しみ、明日を期待できる社会を実現するための事業展開を行っている。

ミライロホームページ

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