第3章一人ひとりが未来のために考えるべきこと
「50歳でセミリタイア。残されたあと9年で、
“自分がいなくても成り立つ組織”をつくる。」
さまざまな新しいチャレンジをしてきたカンタロウさんですが、将来的に思い描く姿は?
いま41歳ですが、50歳をめどにセミリタイアを考えています。この話をすると、「LIM」の社長には「お前、逃げるのか」なんて言われるんだけど、そうじゃないんです。自分がいなくても成り立つ組織をつくり上げることが、「LIM」における自分の役割だと思っていて。それができた時点で身を引けば、その代わりに活躍する人もできるし、僕の給料の取り分も他者にまわっていきます。
カンタロウさんがいなくても成立する組織がつくれたら、先ほどのお話にあった「恩返し」が終わる?
そうですね。セミリタイアするのは、時間軸なら50歳、状況軸で言うと組織づくりが完成したとき。それがひとつの区切りだと考えています。だから組織づくりができたら、セミリタイアを早めることもあり得ます。
そのあとは、これまでの活動をバックボーンにして本を書いてもいいし、50歳になってから初めて自分のサロンをつくるのもおもしろいかも。美容と関係のないことをやるのも興味ありますよ、実家の明太子を全国販売する手立てを考えたりとか(笑)。
今後の美容業界について、思うことは?
「業界をよくしたい」って結構聞きますけど、「業界の前に、お前が変われよ」って思っちゃう。なんとなくイメージがいい言葉だから、それがひとり歩きしている面があるんじゃないかな。だから「業界をよくする」って何なのか、そのためにどうすべきなのかを、僕を含めた美容にかかわる人間みんなが考えないといけないなって思います。
速くて安いサロンがいい人もいれば、とにかく高い技術を求める人もいて、「いいサロン」の姿は人によって違う。美容業界のために何をすべきか考えて実践する内容は、それぞれの立場によって違っていていいと思う。
僕としては、これからの美容業界のためにまず美容師を減らすべきだし、そして待遇もしめつけるべきだと考えています。業界発展のために美容師を増やすべきってよく言われるけど、それもひとつの方法。だけど僕が携わっている「ブランドサロン」としては、給料も待遇も厳しくして、それでも勝ち残ってくるクオリティの高い美容師を育てることが役割だと思う。
なかなか大胆な意見です。
だって、ネームバリューがあるブランドサロンが待遇までよくしたら、地方のサロンは太刀打ちできません。だからこそ、ブランドサロンは狭き門にすべき。最近は“ゆとり世代”なんて言うけど、そのなかでも本気で美容師を目指すやつらは絶対いる。そういう「何が何でも一流になる」って決意した人たちをキャッチするための、“選別手段”が必要。修業時代はしめつけるけど、一流になったら還元する。たとえば、いい車に乗れたり、いいところに住めたり。そういう「きちんと還元される未来を用意すること」も大切です。
一方、地方のサロンは手厚い待遇を用意するとか。これは一例ですが、今はそうしないと人材が集まらないかもしれません。
サロンの規模や立ち位置によって、果たすべき社会的役割があるはず。どんな美容師が増えたらいいか?どんな業界にしたいのか?美容師一人ひとりが本気で考えないと、真の意味での「業界をよくする」ってことには、つながらないと思います。
その言葉を胸に、目まぐるしく忙しい日々を過ごすカンタロウさん。
セミリタイアまで、あと9年。
何をもって恩返しするか、そして後輩に、未来に、何を残せるか。
そんな風に、“自分以外”のことばかり考えています。
なぜそこまで?と聞くと、
「昔ヤンキーだったからかな。義理は通す!」と笑いました。
「業界をよくしたい」という言葉が嫌いだと言ったけれど。
その実現に向けて誰よりも“行動”で示しているのは、
カンタロウさん、あなた自身だと、私たちの目にはうつりました。