第2章とことん「消費者視点」に立って事業化
「料金は、採算よりも“このくらいなら払う”と
自分が利用する立場になって決めました。」
「アトリエはるか」のようなメイク・ヘアセット専門店は、それまでなかったと思います。なぜ専門店という業態がなかったのだとお考えですか。
あまり儲かるイメージがなかったのかもしれませんね。でもだいたいうちの店舗ではメイクやヘアを10分1000円ほどに設定していて、金額自体は高くないですが時間当たりで考えると安いわけでもないんです。それまでが高かったんじゃないかなと思います。ですからスタート時の料金設定も深く考えずに決めましたが、始めてみたらきちんと採算はとれました。
あとは想像になりますが、美容室の方たちはカット以外の、メイクやヘアセットにそれほど注力していないのかなと思います。メイクサービスなんて毎日お客さまに必要なものではないし、そういうニーズに対してそれほど技術をつきつめて学ぶ必要性を感じていないのかもしれません。
先ほどお話にあった出店の立地もそうですが、料金設定なども事前にマーケティング調査をして決定したわけではないんですね。
とにかく自分の考えで決めていました。立地なら先ほど話したように駅から近くて雨にぬれずに行けること、あとは女性って地図が難しい場所は嫌だし、ビルの3階以上というのもちょっと面倒じゃないですか。そういう「自分なら」という視点がすべてです。メニューも10分、20分程度で完成するものにしようと決めたのは、自分ならそれ以上時間がかかると嫌だから。料金設定も「これくらいなら払うかな」という観点で決めました。
狙いは当たり、現在では60店舗を展開されています。最初から拡大志向だったのですか?
いえいえ、全然考えていませんでした。ご縁があったおかげというか、1店舗目があった地下街にアパレルの「オンワード樫山」さんのショップがあって、そこで「イベント時に、メイクやヘアをお客さまにサービスでやりませんか」と声をかけていただいたんですね。それ自体は無償での協力だったんですが、宣伝になるのでお受けして。そうしたら「オンワード樫山」さんの本部の方の目に留まり、「今度、東京で出店するお店の一角に出店しませんか」というお話をいただきました。それが当時、東京の「銀座松坂屋」にオープンした約270坪もの広さがあるショップ。うちはその一角の15坪ほどのスペースでお店をやらせてもらうことになったんです。
「銀座松坂屋」のお店ができたのは、1号店オープンの半年後の2001年9月。東京に進出したことでドラマの撮影に使われたり、名古屋のタウン誌だけでなく全国誌の取材を受けたりするようになって。知名度が高まってデベロッパー(開発業者)さんから声をかけていただく機会ができ、3店、4店・・・と、以降の出店がしやすくなりました。
名古屋から東京への進出が速いですね。地域差で困ったことは?
ヘアもメイクもお客さまにカウンセリングをしてから行うので、地域差で困ったということはそんなになかったです。ただ東京のほうがいろんなサロンやサービスがあるので、お客さまの目も肥えていて厳しいという印象はありました。
次第に店舗が増えるにつれて思ったのは、お客さまの地域差よりも、こちら側の「品質の均一化」が必須だということ。チェーン展開するなら、お客さまがどこの店舗に行っても安心して同じサービス水準で同じメニューを利用できることが大事です。それで、会社のなかに「教育部」を立ち上げました。
提供メニューとしては、最初にメイク、ヘア、ネイルがあって、現在は着物レンタルや着付け、ヘアカットを行う店舗もあります。どういった基準でメニューを広げていっているのでしょう。
感覚としては、うちは「美容業」というよりも「サービス業」という考えでいます。お客さまにとってはヘアメイクにお金を出すのも洋服を買うのも、お財布は一緒じゃないですか。だからすべてのお店が競合店であり、参考にすべき相手だと思っています。
そのなかでどんなメニューを提供するかというと、まず「便利であること」が前提です。以前、お客さまになぜうちを利用するのかというアンケートをとったとき、最も多かったのは「自分でやるのが面倒だから」という声でした。私が目指したのもそこで、着物レンタルを導入したのも「着物は持っていないし着付けもできない、でも着てみたい」という自分の欲求が基です。
業態を広げる理由は?
さまざまなデベロッパーさんと取引をするなかで同一地域に出店する場合、「近くにお店を出すとそっちにお客さまをとられるのでは」と心配する声があがります。その解決策として、業態を広げる必要に迫られたという面もあります。
また、「アトリエはるか」の出店先は駅ビルをはじめとした商業施設であり、定期借家契約ですから売れなければ撤退しなくてはいけません。ですからメニュー内容もブラッシュアップしていくことを常に考えています。
次々と出店されていますが、スピードにはこだわっていますか。
意識して出店時期の間隔を短くしているわけではなくて、そんなに莫大な初期費用がかかる業態ではないのでトライ&エラーで「やってみる」という気持ちですね。着物レンタルのサービスも、そんなに需要はないかなと思いつつ始めたのですが、やってみたら予想以上に好評で導入店舗を増やしていったという流れ。4年前にスタートして、年々売上を伸ばしています。それで今年は卒業シーズンに向けて、袴レンタルの導入も進めました。
創業当初よりご自身の「これがほしい」という想いを基本にされています。現在のメイン顧客層は30代~40代とのことですが、やはり西原さんの年齢と共に顧客層も上がっているのでしょうか。
まさにそういう状況にありまして、弊社の中での世代交代もひとつの課題だと感じています。またお客さまも同様で、若い層にも顧客層を広げるため、今年はさまざまな学校の学園祭に協賛しました。広告を出したり、あとはミスコンのヘアメイクを担当させてもらって、まずは若者世代の認知度アップを狙っています。