第2章若者をターゲットに、その根底にある想い
「自分たちは“魂をつくる集団”。
髪をきっかけに、誰かの人生を開いていきたい。」
「OCEAN TOKYO」を立ち上げたのは28歳頃のときですよね。人気スタイリストふたりによるサロンということで、最初から順調に?
高木●以前からのお客さんが新しい店のことを調べてくれて、最初の1カ月間は電話が鳴りやまないくらい。でもその後はパッタリ途絶えて。オープンした9月には自分のお客さんだけで300人くらい来てくれたけど、毎月カットに来るわけじゃないから10月、11月はすっごい暇でした。
中村●今までのように雑誌にも出られなかったから、一般のお客さんに向けて宣伝もできない。「こりゃやべーな」と。それを変えるきっかけをつくったのは、自分の後輩だった三科です(現・原宿店の代表)。SNSで発信するのを得意としていたから、どんどん情報を出して、お客さんに知られるようになっていったんです。その方法を自分たちも取り入れて、「自分たちの想い」を発信するようにしてからお客さんが増えていきました。
高木●僕とトメと三科の3人は自然と役割分担ができていて、三科はSNSの情報発信とか理論的な志向が得意なクールガイ。トメはプロデューサー。すごい熱量があって、相手の能力を引き出して、想いを盛り上げる力がある。この前、日本武道館でやったヘアショーに参加したときも(※)、最初は興味がなくて乗り気じゃなかったんです。でもトメにうまいことのせられて、出てみたらすごい経験になった。だから今は「出てよかったな」って思ってます。
※2016年5月開催「DREAM PLUS2016」のヘアステージに最年少スタイリストとして登壇
中村●確かに役割分担ができているかも。三科は頭を使って生きているタイプで、冷静に僕とタクのことを客観視してくれる。自分は数字よりもその過程を大切にしていて、チームで考えた目標に向けて、どう進むべきかを考える。タクは結果にこだわる派。そのために先頭に立って実践して、みんなを引っ張っていく。
タイプが違うと、共同経営をしていて衝突することはないですか?
中村●もちろん意見が違うこともあるけど、それは話し合えばどうにでもなる、ちょっとした考え方の違い。だから2カ月に1回、3~4時間くらいかな。「言い合いの会」っていうのをやってます。
高木●お互いに超ダメ出しするから、ドヨーンてなる(笑)。あとは一緒に遊んでる時とかに、「そういえばアレさ…」とか話すことも多いよね。
中村●それぞれに、まだ知らない面もいっぱいある。だけど、たとえば丘があって、あの丘の向こう側の景色を見たいとする。自分ひとりではムリかもしれないけど、仲間となら越えられるかも。だから衝突しても、それで知らない面が新たに見えると思えば楽しい。
いまや男子高校生、大学生を中心に熱狂的な支持を集めています。どういう想いでお客さんを迎えているのでしょう。そして若い世代をターゲットにしている理由は?
中村●そもそも美容師になったのは、「自分の成功体験を伝えたい」という理由。将来の夢はジャニーズ、サッカー選手、バンド…といろいろあったけど、すべては「モテたい」っていうミーハーな理由(笑)。学生の頃からモテるためにバンドをやったり、生徒会長をやったりしてきて。やることさえやれば、背が低くてかっこ悪いこんな自分でもモテた。だからクラスにいるひと握りのカッコイイ男じゃなくたって「お前も変われる、がんばればモテるんだ!」って伝えたい。その手段として美容師を選びました。
カットして外側をよくするだけじゃない、目指すのは、内側もカッコよくすること。そのために暑苦しいと思われたって、熱をもって働く姿を見せたいと思う。自分たちは「魂をつくる集団」。お客さんの髪形を変えるだけじゃない。教室に入って友だちから「お前いいじゃん!」て評価が変わる瞬間、それをきっかけに開けていく人生に変えていきたい。
高木●プロである以上、技術があるのは当然。そのうえで「ほかの店よりも、オーシャンに行くと元気になれる」って思ってもらいたい。実際、自分に自信がなくてオドオドしていた子が、髪を切り終えて店を出ていくときには性格が変わったように晴れやかな顔つきになることはよくあります。自分たちは「彼らが変わるきっかけ」をつくっている。そうして変わって、夢に向かって羽ばたく様子が見られるのが、何よりうれしい。だから高校生、大学生に限っているというより「変わりたいと思っている人の手伝い」をしている。そういう悩みや変化を求める世代が、若い子たちだっていうことです。
中村●若い子が日常で接する大人って先生や親だけど、自分たちはそういう人とは違う視点を持っているつもり。だから大人というより兄貴的な存在として、新しい世界や自分たちが今まで経験してきた「男として憧れる経験」を伝えていきたい。たとえば自分らしく生きるためには、自信を持つためには、自分を好きになるためには…とかね。
現在のように次々とお客さんが来ると、ひとりあたりに取れる時間は短くなります。その制限の中で、カットだけではなく相手にあったアドバイスもできる秘訣は?
中村●変に気を遣わないで、思ったことをいうことかな。その子にとってプラスになる言葉を伝えるようにしています。今の子は親や友達にさえ気を遣って生きている。うちの店は、そんな子が心を許せる場所になりたい。「OCEAN TOKYO」という居場所をつくってあげたい。最近の子は冷めているなんて話もあるけど、実は心の中には熱いものを持っているんです。だから自分たちは彼らが前に進めるように、髪型と接客を通してちょっと背中を押しているだけ。
高木●思い込みで自信がない子も結構いるんですよね。だから「こんな考え方すればいいじゃん」って違う視点を伝えたり、その子が持っているいいところを伸ばすようにアドバイスしたり。自分は昔、超デブだったとか、進学の失敗とか、キメるべきところでキメられないタイプだったけど、あるときから変わることができたんです。それは物事をポジティブにとらえるようにしてから。スタイリストデビューする前の22歳のとき、うまくいかなくて落ち込んでいた。そのときに読んだ漫画の主人公が、すごい前向きに生きていたんですよ。考えてみたら僕だって、「僕という人生」の主人公。後ろ向きな考え方の主人公の話より、ハッピーエンドの話のほうが、誰だって読みたいはず。だったらみんなに認めてもらうためにポジティブになろうと。そういう考え方をするようになったのがターニングポイント。だから「僕だって変われたんだから、みんなも変われるよ」って伝えていきたい。
中村●タクも自分も、学生の頃コンプレックスの塊だったし、いじめられた経験もある。でも、そのときに救ってくれた人がいた。だから「今の若い男の子たちを救ってあげられる存在に、自分たちもなりたい」って思うんです。