第3章常識にとらわれないヘアサロンを目指して
「世の中の若者が求めていることなら、
今までの概念をブッ壊して実行あるのみ。」
新店舗の出店だけでなく、今年3月に一般向けの「メンズヘアブック」を発行したり、生活雑貨店の「ロフト」で11月から「オリジナルヘアワックス」を販売したりと意欲的な試みをしています。こうしたことに力を入れているのは?
中村●一つは「サロンワーク外の新規事業」に取り組みたいからです。新しい美容室の在り方、新しい美容師の在り方を創造していきたい。社会的地位や給料が低い、時間がない、将来が見えないなどは、既存の美容界からできてしまったイメージ。これをブッ壊したい。それには「新たな仕組みの創造」と、「サロンワーク外でも継続して固定の利益が上げられる事業」をする必要があります。そこでまずはオーシャン単独雑誌「メンズヘアブック」の発行、そして「オリジナルワックス」の発売をディレクションしました。メンズヘアブックは美容業界向けじゃなくて、一般の男の子が見て、ヘアスタイリングやファッションコーディネートの参考にできる内容です。うちの店になかなか来られない子たちでも、この雑誌を読めばカッコよくなる方法がわかるし、クラスで友だちと見て盛り上がれる。そんな想いで、つくりました。
高木●ワックスもサロン専売品じゃ意味がなくて、うちの店に来られなくても買えることが重要なんです。もちろんワックスの品質にもこだわったし、デザインもありがちなものじゃなくてカバンから取り出してカッコいいものを追求しました。若い男の子たちが求めるもの、自分たちが自信をもって薦められるものを商品化したんです。
今年はアパレルショップ「WEGO」の全国6都市にある店舗で無料カットイベントを開催されました。これも「若い子たちのため」という考えから?
高木●自分たちは、「お客さんが心を許せる場所をつくりたい」と思って店を立ち上げました。だけど人気が出てきて、知らないうちに敷居が高いと思われるようになっていて。「自分が行ったら浮かないかな?」と思われたりね。それにうちの店には北海道とか沖縄とか全国からお客さんが来てくれているんだけど、学生からしたら東京に来る交通費だけでもすごい負担ですよね。なので「じゃあこっちから行っちゃおう!」ってことで、自分たちの想いを伝えに札幌から福岡まで全国ツアーでまわったんです。そこでイベントを見て、僕らがどんな感じか知ってくれた子たちは、今度は気負わずにサロンにも来やすいだろうし。
中村●美容師は「世の中の若い子たちが望むものを実現する手段の一つ」だと考えているので、従来の美容室の枠組みにとらわれないで、いろんなことにチャレンジしたいですね。ふたりとも従来の美容室って堅苦しくて好きじゃないので、それを変えていきたいってのが根底にあると思います。これからのことはいろいろ考えはあるけど、やる・やらないの判断基準はいつも「自分たちのファンであるお客さんたち、そして世の中の若者に求められているかどうか」。ここはブレないようにしています。
お店の立ち上げから一貫して「お客さま志向」なんですね。「美容業界」「美容師という職業」に対して思うところは?
中村●はっきり言って表参道・原宿などの都心は、ブランド力があっても利益を出すのは難しいのが現実です。利益が出ない=新たな仕組みの創造は難しい。だからこそサロンワーク外の新規事業を行う。「OCEAN TOKYO」はまず立ち上げ3年でブランディングを全国へ、そして今後は店舗を全国に広げていきます。あと美容師はそもそも営業職なので、会社として他の部署や総括は、その分野のプロフェッショナルに任せた方が潤滑にまわると考えています。なので外部からそれぞれのプロフェッショナルを迎え入れ、それぞれの部署を設け、「組織」として動かしていきたい。それは美容師の仲間たちに、やるべき事とやりたい事を、自由に全うしてほしいからです。そこから生まれる、美容師としての新たな発信も楽しみです。
ワックスの発売は、世界へ行くための飛び道具。まずはうちのスタッフたちを新しい世界に引き上げて、世界中のお客さんを幸せにしたいですね。そしていつか、美容業界以外の方からも「OCEAN TOKYOは会社として一流」と言われるようになるのが目標です。
高木●モテたくて美容師になったって言ったけど、でもまだ「医者と美容師、結婚するなら」と聞いたら、みんな何て答える?医者だよね。自分のやっている職業が人気ないって、ダサくないですか?
昔の「カリスマ美容師ブーム」って、自分はまだ小さかったから当時のことはよく知らないんだけど。でも、そのころから活躍している方たちって、いい意味でギラギラしていたイメージ。だけど今の美容師ってすごく普通だし、僕らはプライドをもって働いているのに世の中からナメられている感じがしていて。だからこそ、ムダな慣習だとか待遇も変えていきたいんです。「OCEAN TOKYO」として、勢いだけではなく、ワクにおさまるのではなく、本質といろんな世界観を発信していきたい。
先輩たちが築いて、そこから受け継いだイイものも、もちろんたくさんあります。でも自分たちは先輩を追い抜くことこそが恩返しだと思うから、今いる先輩たちをドンドン追い抜いていかないといけない。固定概念をブッ壊して、僕らがてっぺんを取りにいきます!
中村さんが「僕は字が汚いけど、高木はこう見えて字がきれいだから。
年賀状やお礼状は、なるべく書いてもらっている」というエピソードを
教えてくれました。それを聞いて、過去の誤解が解けました。
前回の取材でお会いした際、
後日おふたりの連名で、お礼の手紙をいただいたのです。
そこには習字のお手本のような、とてもとてもきれいな手書きの文字。
「拝啓 清秋の候~」という挨拶から始まり、取材時のできごと、
これからの想い・・・。感動するとともに、大変失礼ながらその時は
「代理でどなたかが書いたのかな?」と思っていたのです。
とにかくお会いする度に、いい意味でのギャップにやられます。
「それ、計算ですか?」と聞いたら、「自分のウリは最大限
つかわないと(笑)。でもウソはないです!」とのお答え。
まっすぐで正直、だから時に誤解されることもあるけれど、いつも一生懸命。
「OCEAN TOKYO」がお客さまに、業界の先輩方に、
ここまで愛される理由がわかりました。