女性スタッフが
長く働けるサロンとは?
~オーナーの実例紹介から、専門家による労務知識まで~
全国5カ所で開催するイベントの第1回目は、九州・福岡です。イベント当日、福岡は記録的な大雪・・・。
一部、交通機関も乱れるなか、たくさんの方にお集まりいただきました。豪華な登壇ゲストを迎え、ディスカッションでは参加者もまじえて盛り上がりをみせました。その様子をレポートします!
登壇ゲスト
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株式会社GARDEN
代表取締役加藤敏行さん
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Daisy
代表松田秀則さん
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株式会社L’Aube
代表取締役後藤忠臣さん
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社会保険労務士法人
秋田国際人事総研
代表秋田繁樹さん
第一部サロンの実例を知る
前半はホットペッパービューティーアカデミー・齋籐より、日本、また美容業界における女性の働き方の現状、そのために必要なことなどをお話しました。
そして後半は、実際に女性が長く働けるための取り組みを行っている3サロンのオーナーより、それぞれのサロンでの具体的な事例を、質問形式でうかがいました。
Daisy(デイジー)
「ゲストもスタッフも楽しい時間を」というコンセプトで2009年、福岡・天神にオープン。ファッション誌でも数多く紹介されるなど、若い女性を中心に圧倒的な人気を誇る。
- [店舗数]
- 1店舗
- [スタッフ数]
- 11名(うちスタイリスト6名、アシスタント5名)
女性が長く活躍できるための取り組み
[ママスタッフ2名、1名が既婚で時短勤務中]
- 産休&育休、時短勤務制度
- 正社員、準社員、パートから雇用形態を選べる仕組み
- 産休に入るスタッフの顧客引き継ぎ
- 勉強会や会議を、朝に設定
当日出たお話を、
一部抜粋してご紹介します
- Q正社員以外に、準社員、パート社員という3つの雇用形態を用意されているとか?
-
A
はい、スタッフに「どんな風に働きたいか」を聞いて、雇用形態を選べる形にしています。準社員というのは、例えば時間短縮6時間勤務、週休2日、週30時間以上という形です。子どもがいてもいなくても、結婚したら正社員または準社員の選択が可能です。もちろん、子どもができたタイミングで準社員に切り替えることもOK。
この取り組みを始めて約2年になりますが、人が辞めなくなりましたね。
松田さん
- Qママスタッフは、ミーティングなどの参加は難しくないですか?
-
A
うちでは勉強会・ミーティングは「朝」に設定するようにしています。午前11時オープンなので、ミーティングは朝8時か9時から。本人から「夜に残りたい」「夜に練習したい」という希望があれば、本人がプログラムを組んでやっています。最初は朝早いことで遅刻者も多かったんですが「何を大事にして、なぜこうするのか」という理由をきちんと伝えることで遅刻する者もほとんどいなくなりました。朝に変えてすごくいいですよ!男性や若いスタッフも夜飲みに行けることを喜んでいます。
また、ママスタッフがいることは、若い女性スタッフにも「将来こうなれる」というモチベーションにつながっています。あと、お子さんがいるお客さまもすごく増えました。同じママ同士、共感できる部分が多いので満足度も上がっているように思います。
松田さん
L’Aube(ローブ)
2007年に福岡・九産大前駅近くにオープン、現在は住宅街を中心に3店舗を展開。高い品質をリーズナブルに&お子さま連れにもやさしいサロンで、地元ママのファンが多い。
- [店舗数]
- 3店舗
- [スタッフ数]
- 25名(うちスタイリスト16名、アシスタント9名)
女性が長く活躍できるための取り組み
[ママスタッフ4名、1名が既婚で時短勤務中]
- 産休&育休、時短勤務制度
- スタッフに「ママスタッフの大変さ」を伝え続ける
- ママスタッフだけの店舗をオープン予定
当日出たお話を、
一部抜粋してご紹介します
- Qママスタッフだけの店舗をオープンされる予定があるとか?
-
A
現在3店舗なので、2017年中に1店舗、ママスタッフだけのお店をつくりたいと考えています。労働時間の設定は本人の希望を聞きながら決めますが、幼稚園の時間を考慮して15時までの営業にするか、朝のオープン時間を早くするか、バリエーションを考えているところです。「営業時間が短くなり利益が下がるのでは?」と心配されることもありますが、「どこに利益をおくか」の問題です。求人問題に直面するサロンは多いと思いますが、ママスタッフの求人も出せるので入口を広くすることができます。また一度辞めたスタッフが復帰しやすくなるという利点も。
ママスタッフからの意見を拾い集めることで、一店舗単位の営業利益よりも採用力が上がり、結果、顧客満足につながる。そういった「会社全体でのメリット」で考えています。
後藤さん
- Qママ以外のスタッフから、不満の声は出ませんか?
-
A
とにかく、オーナーである自分からことあるごとに「ママスタッフに働いてもらうことの大切さ」を伝えています。実際、過去には子どもを持っていないスタッフとの摩擦もありました。僕が心がけているのは、常日頃からミーティングなどでスタッフに「自分がそうなった時」を意識してもらうようにすることです。「相手の立場にたった行動」を会社のコンセプトにしているので、「ママスタッフの子どもが発熱した時のフォロー」「何かあった時は指名のお客さまの予約をずらす」など、スタッフ一丸となって取り組む姿勢が大事だと思います。
後藤さん
GARDEN(ガーデン)
東京・原宿に200坪という日本最大級のヘアサロンを2006年にオープンさせて以来、銀座・新宿・ニューヨークなどに店舗を展開。常に業界のトップを走り続けるサロン。
- [店舗数]
- 9店舗
- [スタッフ数]
- 270名
(うちスタイリスト99名、アシスタント121名、レセプション40名、バックスタッフ10名)
女性が長く活躍できるための取り組み
[ママスタッフ3名]
- 産休&育休、時短勤務制度
- 産休に入るスタッフの顧客を「仲人型」で引き継ぎ
- 希望給与から勤務体系を導く「逆算型」の時短勤務
当日出たお話を、
一部抜粋してご紹介します
- Q「逆算型」の時短勤務というのは、どういったものですか?
-
A
まず「一人ひとりの人生プラン」を聞きます。結婚・出産したいのか、自分の店を出したいのか、人それぞれです。そのゴールに向けて、今何をしたらいいのかを「逆算」で考えるんです。本人がこれからどうしていきたいかを、大事にしたい。そこに向けて、納得できる制度をサロンがつくっていくようにしています。
スタッフに知識がないケースが非常に多いので、サロン側がきちんと説明しないといけないですよね。
なので希望する雇用形態によって、その後の給与シミュレーションもきちんとします。「スタッフ一人ひとりの夢を叶えてあげたい」と思っているので。
加藤さん
- Qスタッフが産休・育休に入る際、お客さまのケアはどうしていますか?
-
A
「仲人型」で引き継ぎを行います。お客さまに合ったスタイリスト、お客さまの好み、それらをふまえて任命制で直接引き継いでいきます。それはサロンの失客を防ぐのはもちろん、お客さまに安心してご来店いただくアフターフォローの意味合いもありますね。スタッフが産休に入ってから1カ月後くらいにDMで、「よろしければ、このスタッフに引き継がせてください。お好みのスタイリストがいれば全店舗からお聞かせください。」とお伝えします。
一方で産休に入るスタッフには、ブログ・SNSで近況をアップしてもらうようにしています。そうするとお客さまに共感・応援してもらえる環境が整いますよね。またスタッフが産休・育休明けに戻ってきた時は、お客さまに再度スタイリストの希望をお聞きしています。会社の風土として「お客さまをとった、とられた」などの空気はないので、そのへんも安心です。
加藤さん
第二部労務のキホンを知る
秋田さん
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研・労務士。社会保険労務士業務の他、多数の美容室の労働管理・指導相談にあたっている。「美容室・はじめての労務管理と就業規則」など、著書多数。
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研・秋田先生より、美容サロン経営をするうえで必要な労務知識(産前・産後、復帰後の制度など)についてお話いただきました。ホットペッパービューティーアカデミーのサイトでも、イラストをまじえて楽しく労務知識が学べる記事を連載中です。ぜひチェックしてみてください。
第三部パネルディスカッション
3サロンのオーナー、秋田先生に再度ご登壇いただき、参加者の方からの質問をもとにパネルディスカッション形式で進行しました。その一部をご紹介します。
会場からの質問に答えていただきました!
- Qアシスタントが妊娠したときは、どのような対応をされていますか?
-
A
サロン側が受け入れるかどうかだと思います。本人が「やりたい」という気持ちがあり、サロンも受け入れるなら話し合いをする。復帰した時、技術面で練習をしないといけないので「練習は朝、夜どちらがいいのか?」そのつど本人のタイプに合わせて話し合います。レセプションやネイルなど、美容師以外の道も視野に入れつつ、幅広くキャリアを考えてあげてもいいと思います。スタッフ一人ひとりの話をじっくり聞いて、ときほぐしていけば解決方法があるのではと思います。
Daisy
松田さん
- Q求人で「いきいき働いているママスタッフがいること」を
どのようにアピールしていますか? -
A
ぜひ「L’Aube」のホームページ「Recruit」の欄を見てください。作りすぎるくらいでもいいと思います。こと細かく書いてあげると求人の応募が増える傾向にあります。具体的には2015年11月からの2〜3カ月で、6名の応募がありました。ホームページの更新をマメにすることも必要です。
応募してくれた方に理由を聞くと、「社会保障に惹かれてきた」という声が多かったですね。
L’Aube
後藤さん
- Qスタッフが産休の時、ぎりぎりまで働いてもらってもいいのでしょうか?
-
A
法律上ではNGではないですが、母体保護の観点から主治医が止めるようであれば、働いてもらうのはやめたほうがいいでしょう。そこは、それぞれのスタッフと密に話し合う必要があります。
社会保険労務士法人
秋田国際人事総研
秋田さん -
A
妊娠している女性へのケアは男性では分かりにくいところもありますが、オーナーとして責任を持ってやらないといけない。以前、妊娠しているスタッフが体調を崩してしまったことがあり、そこからさらに気を配るようになりました。たとえ本人がギリギリまで働きたいと言っても本人の体調を考え、時には休むように説得することも大切。その事例をもとに、GARDENでは初めて体の勉強会(婦人科系)を実施しました。栄養士をしている女医を招いて、食生活の大切さなどを教わります。くわえて、女性スタッフの血液検査もやっています。
まずは自分の体を理解してもらい、できるところから始める。人が辞めない環境を作るうえで、「サロン側がスタッフに合わせて労働環境を変えていく」というのは非常に大切なことです。
GARDEN
加藤さん
社会保険労務士法人
秋田国際人事総研
秋田さん
女性が活躍できる場、美容師が活躍できる場、それがこれからの業界に必要です。その世界の実現に向けて、私も一緒に力を注いでいきたいと思います。
Daisy
松田さん
今日参加してくれた方々が、明日から何かひとつでも変われたらいい。まずはスタッフと話をして向き合ってみてください。少しでも労働環境を良くすることで、女性スタッフがもっと輝ける場が待っています。
L’Aube
後藤さん
美容師って、まだ下の方の職種と思われているところがあるような気がしています。それを変えるために、まずは給与形態の底上げをしていきたい。女性活躍への取り組みが、美容師人口を増やし、美容業を増やす第一歩につながるといいですね。
GARDEN加藤さん
人口のボリュームゾーンであるオトナ女性が求めるものに対して価値を提供できる、「寄り添えるサロン」が今後のキーワードになってきます。オトナ女性のお客さまに寄り添えるのは、きっと女性スタッフ。サロンの皆さんが一歩ふみだすことで、業界全体が変わっていくはずです。