サロンオーナー必見!

人を雇ったら知っておきたい
労務のキホン

スタッフを雇ってサロンを経営していく上で必要な、労務関連の制度や法律の基本知識について解説していきます。

vol.8

〜「厚生年金保険」を知る編〜

厚生年金保険に入っていないとどうなる?

前回(Vol.7)では、「健康保険」についてお伝えしました。今回は「社会保険」のうちのもうひとつの「厚生年金保険」について解説していきます。
※青文字・下線が付いた箇所をクリックすると、その言葉の説明が見られます。

連載ショートストーリー

「サロンRの日常」8
  • 須多井 リスオ

    須多井 リスオ(スタイ リスオ)

    アシスタントを2年経験し、スタイリストデビューをしたばかりの23歳。「サロンR」勤務。デビューして意気揚々。オーナーも店も基本大好きで、サロンとともに成長したいとはりきっている。
  • 小尾奈 サロヒコ

    小尾奈 サロヒコ(オオナ サロヒコ)

    「サロンR」オーナー。スタイリストとして7年間別のサロンに勤務した後独立。「サロンR」を開業して3年目の33歳。スタッフを大事にしてサロンを成長させたいが、経営の知識はない。
  • 赤出 ミーコ

    赤出 ミーコ(アカデ ミーコ)

    「サロンR」に勤務するスタイリスト歴5年の須多井リスオの先輩。27歳。指名が多く、新婚で公私ともに絶好調。同僚からの信頼も厚いが、結婚を機に子どもがほしいと考え始めている。
  • 秋田センセイ

    秋田センセイ

    社会保険労務士。多数のサロンの労務管理相談を受けている、この企画の監修を担当。美容業界を他業界に負けないくらい、オーナー、スタッフともに働きやすい環境にしたいと考えている。
  • ビューティー

    ビューティー

    秋田センセイの名アシスタントの猫。先生の言いたいことを伝言するために、ここそこに現れるこの企画の陰のキーマン。サロンオーナーたちがいい経営者になることを心から願っている。
「厚生年金保険」と「国民年金」は何が違う?
POINT1

「厚生年金保険」への加入は法人の義務。

法人は必須だよ!

「厚生年金保険」は、国の年金制度の一種です。年金制度には大きく分けて2種類あり、会社などの組織で加入する「厚生年金保険」と、個人で加入する「国民年金」があります(*「厚生年金保険」加入者も厳密には「国民年金」にも加入しています)。
サロンの場合どちらに加入するかは、法人登記しているか否かで異なります。厚生年金保険は前号でお伝えした「健康保険」と合わせて社会保険と呼ばれ、通常セットで加入するもので、加入の条件も以下のように「健康保険」と同じです。

●サロンが法人の場合
サロンが株式会社や有限会社など法人登記している場合は、オーナーひとりで経営していても「厚生年金保険」への加入が義務づけられています。

●サロンオーナーが個人事業主の場合
オーナーが個人事業主でかつ従業員が5人未満である場合は「厚生年金保険」の加入は任意となります。通常は個人事業主でも5人以上雇っている場合は「厚生年金保険」への加入が義務づけされていますが、美容業は強制適用ではないため、任意加入となります。事業所としての「厚生年金保険」への加入は任意でも、20歳以上60歳未満の国民は、「国民年金」加入が義務づけられています。そのため、事業所として「厚生年金保険」に加入しない場合は、オーナーもスタッフもそれぞれで「国民年金」に加入しなければなりません。

「厚生年金保険」と「国民年金」の違いは?

上記のように20歳以上60歳未満の国民はすべて「国民年金」に加入することが義務です。「厚生年金保険」は「国民年金」に上積みされる保険(二階建て部分)で、上積みされる分、「国民年金」のみの人よりも保険料が増えますが、将来受け取れる老齢年金(老齢厚生年金)の額も増えます。加入手続きの方法や保険料の納付方法、従業員の負担率などで違いがあります(下記の「POINT3」参照)。
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POINT2

パートなどのスタッフは、条件によって加入できない場合も。

スタッフの条件も健康保険と同じです

サロンが法人の場合、正社員のスタッフは必ず加入させる義務があります。しかし、時間限定のパートなどのスタッフは、働いている条件によって「厚生年金保険」に加入できる場合とできない場合があります(下記の条件参照)。

●労働時間による条件
正社員であるスタッフの1週間の労働時間の、概ね3/4以上の労働時間があることが条件です。例えば正社員が1週間で40時間働いている場合は、原則としてパートスタッフは30時間以上勤務すればサロンで「厚生年金保険」に加入します。

●雇用期間による条件
2カ月以内の期間を定めて雇用する者は、被保険者から除外されます。よって、雇用契約期間は2カ月を超えていることが必要です。

これらの条件を満たしていれば、パートでもアルバイトでもサロンで「厚生年金保険」に加入させなければいけません。

サロンは法人だけれど、条件に満たないスタッフはどうすればいい?

上記の条件を満たしていないスタッフには、「国民年金」に入るよう伝えてください。ただしそのスタッフが夫の扶養になっていて、「厚生年金保険」も扶養扱いになっている場合は別です。

POINT3

「厚生年金保険」の保険料は事業主と従業員が折半で負担。

保険料はちょっと高く感じるかも

法人であるサロンが「厚生年金保険」に加入するには、所在地の管轄の年金事務所で申請します。加入義務のあるスタッフを採用するたびに申請手続きをしなければなりません。
「厚生年金保険」の保険料は、事業主と従業員が折半で負担します。保険料は、毎年国で料率が定められ、従業員ごとの給与によって異なります。
*平成27年(2015年9月~2016年8月)の料率17.828%の場合(料率は年度によって異なる)。
例:月収が30万円のスタッフの場合
月々の保険料:約5万3,484円
負担の内訳:事業主2万6,742円、従業員2万6,742円
*賞与にも別途かかります。

以下の「国民年金」の保険料と比べて高く感じるかもしれませんが、将来年金としてもらえる保険なので老後の生活を考えるととても大切です。
一方、個人事業主で「国民年金」の場合は、前述のように事業主も従業員も、それぞれ自分で、住んでいる自治体の役所で加入手続きをします。保険料は毎年変わりますが誰でも一律で、平成27年度(2015年4月~2016年3月)の保険料は月々1万5,590円です。「国民年金」の保険料は全額本人負担です。

「厚生年金保険」の保険料はどうやって納付して、スタッフ分はどうするの?

「厚生年金保険」は、保険料は事業主が毎月、年金事務所に納付し、従業員負担分は毎月の給与から天引きして徴収します。「国民年金」の場合は、それぞれの自宅に自治体から納付書が届くので、個人で納付します。

POINT4

「厚生年金保険」に未加入の法人は取締りを受ける可能性も。

法人はすぐ加入!

法人であるサロンは「健康保険」と同様に、未加入の場合、行政の取締りを受ける可能性があります。取締りを受けて強制加入となった場合、過去2年分を振り返って徴収されることになります。ご存知のように、日本は少子高齢化により年金の財源不足が深刻です。近年、未加入の事業者に対して行政が厳しく取締まると宣言しているため、早めに加入しておきましょう。

未加入だと何が困る?

法人なのに「厚生年金保険」に加入しておらず、そのことをスタッフも知らずに「国民年金」にも加入をしていなかった場合、スタッフが将来、老齢年金をもらえなくなります。また、年金加入者は老齢年金だけでなく、事故や病気などで何らかの障害を負った場合に給付される障害年金や、配偶者が亡くなったときに子どもや配偶者に給付される遺族年金ももらえますが、未加入だとこれらももらえないことになります。

今回のポイント

「厚生年金保険」は保険料が比較的高額で、事業主にとっては負担が高いと感じるかもしれませんが、法人になったらそれは義務。「健康保険」も含め、社会保険加入は一般企業では常識です。健全なサロン経営のためにも整備するようにしましょう。

次号からは、労務管理で重要な労働時間について解説する予定です。

秋田繁樹さん

監修

特定社会保険労務士

秋田繁樹さん

プロフィール:

社会保険労務士法人 秋田国際人事総研代表。東京都社会保険労務士会所属。国内大手生命保険会社、大手企業のシステムインテグレーターなどを経て、独立開業。人事労務のスペシャリストとして、多店舗展開の美容室の労務管理や就業規則・社内規定などにも詳しく、多数の美容室の指導相談に当たっている。http://www.akita-sr.com/

編集・取材・文
長島佳子
イラスト
木村𠮷見

※掲載されている情報は2016年03月07日現在のものです

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