Special Interview

美容業界が描く
「女性活躍」のカタチ

LIM

統括ディレクター
カンタロウさん

すべてのスタッフが
幸せに働く道をつくることが
ブランドサロンの使命

東京・大阪にヘアをはじめネイル、アイラッシュ、ヘッドスパサロンなどを展開する「LESS IS MORE(LIM)」。シンガポールに4店舗、ロンドンに1店舗、香港に1店と海外進出も果たし、現在は国内外で計20店舗。カンタロウさんは2013年に「LIM」を退社・独立しましたが、現在も同社の店舗ブランディングや人材育成を担当する統括ディレクターを務めています。社員時代から現在に至るまで、社長の西村徹也さんとともに「LIM」の女性活躍の基盤をつくってきたのもカンタロウさん。「LIM」の女性活躍の道筋と、ブランドサロンならではの想いについて聞きました。

Profile

1975年、福岡県生まれ。高校卒業後に美容師を目指して大阪へ。1年ほど勤めたのち、当時は大阪でヘアサロン2店舗を展開していた「LIM」へ転職。たちまち売れっ子スタイリストに。25歳より同社の人材育成や店舗ブランディングといった経営部門にも携わる。2006年の東京進出、2009年のシンガポール進出を軌道にのせた。また2014年のロンドン出店の指揮を執るなど、「LIM」独立以降も外部委託の統括ディレクターとして、同社の発展をサポート。

女性活躍支援の取り組み

  • 女性スタッフだけの店舗を創設
  • 産休中も担当顧客の売上の一部を還元
  • 子どもの行事のための有給休暇
  • ママ以外の女性も応援する「Wの幸福」

PICK UP!

上記の中から、一部を抜粋してご紹介します

  • 女性スタッフだけの店舗を創設

    妊娠や育児による時短勤務など、女性特有の事情について気兼ねなく仲間に相談したり、休みを取ったりできるよう、女性スタッフだけの店舗「douceur+LIM」を創設。「douceur+LIM」だけで、21名のスタッフ中、4名のママスタイリストが活躍している。

  • 産休中も担当顧客の売上の一部を還元

    産休・育休中に他のスタッフに引き継いだ顧客について、売上の一部を元のスタッフに還元している。それにより、復帰して仕事を続ける意欲につながっている。

  • 子どもの行事のための有給休暇

    子どもの行事のために、年6回有給休暇を取ることができる。6回以上になっても休めるよう、フレキシブルに対応している。

Q

「LIM」が女性活躍に取り組みはじめたきっかけを教えてください。

A

とにかく、「社員が辞めたくない会社」にしたかったのです。

人生すべてをかけて働いていた先輩女性たちに、自由に働いてほしかった。

 まだ私が20代だった頃、スタイリストって人生すべてをかけなければトップを維持できないような風土が業界全体にありました。私の先輩にも2名の女性のトップスタイリストがいて、そんな働き方をしていたんです。でも30歳を過ぎた先輩たちに、女性としての幸せも追求して、もっと自由に働いてほしいと思いました。それで、その2名のために「LIM second」という店舗をつくることにしたのです。売上さえ維持できれば「勤務時間など、自由にやってください」と2名には伝えて2003年にオープンしました。本人たちは「いいの?」と戸惑いもありつつ「やってみよう」と。けれど、いきなり「自由に」「早く帰ってもいい」と言われても、どうしていいかわからなかったようで、ふたりともその後独立のために退職してしまいました。

トップスタイリストの結婚を機に、女性だけのサロンを創設。

 「LIM second」をつくっても優秀な女性たちが辞めてしまったのはショックでしたね。「どうしたら辞めずに続けてもらえるか」を考えていたときに、当時トップスタイリストだった山根実佳が結婚しました。結婚は働き方には影響はなかったのですが、いずれは山根が妊娠する可能性がでてきたということです。これからは結婚や妊娠した女性スタッフが続けられるように、女性スタッフだけの店舗をつくろうと考えました。妊娠中に体調の変化で休みがほしいときなど、女性同士なら気兼ねなく話しやすくなるのではないかと考えたのです。そこで、2007年に「LIM second」を「douceur+LIM」という、アシスタントを含めてすべて女性スタッフだけのサロンとして再生させました。

ママ1号の誕生で、ママスタッフが増え始めた。

 「douceur+LIM」ができてほどなくして山根が妊娠しました。山根から妊娠の報告を受けたとき、「山根が女性の新しい働き方のロールモデルになってくれる。チャンスだ!」と思い、すぐに「おめでとう!いつ戻ってこられる?」と聞きました。前例がいなかったので、山根自身はどうしていいかわからなかったようで「本当にいいんですか?」と驚いていました。こちらも前例がなく、どうしてあげるのがママになるスタッフにとって働きやすいかがわからなかったので、とりあえず本人の希望はすべて受け入れる覚悟で、好きにやってもらうことにしたのです。「LIM second」のときは、生活に縛りがない女性スタイリストたちだったので「自由に」と言われても困ったようでしたが、山根の場合は子育てという縛りがでてくるので、「自由」がありがたかったようです。産休に入る際の引き継ぎや、復帰の際のお客さまへのお知らせ、時短勤務の設定など、山根の妊娠出産時に土台をつくっていきました。山根が育休復帰してからは、妊娠しても辞めない女性スタッフが増え続け、現在、全店で180名のスタッフ中、9名のママスタッフが勤務しています。

ママスタイリスト1号として、8歳になるお嬢さんの子育てをしながら活躍する山根さん

女性だけのサロンならではのチームワーク力で成長を続ける「douceur+LIM」のスタッフたち。写真のメンバーは全員既婚者だ

Q

現在、女性活躍として、子どものいるスタッフのための制度にはどんなものがありますか?

A

基本の制度はつくっていますが、個々の状況に合わせた対応をしています。

産休中に、元のお客さまからの売上の一部を還元。

 制度は法定に則った産休・育休はもちろん、社会保障完備なので、出産手当金や育児休業給付金が支給されます。産休・育休中の引き継ぎは、元の担当者がお客さまとのマッチングで引き継ぐスタッフを決めて、必ず三者の対面で引き継ぎします。また、引き継いだお客さまからの売上の一部を、産休・育休中の元のスタッフに還元しています。金額はごくわずかですが、「戻ってきてほしい」という会社の意志を示し、スタッフにとっても「続けたい」という意欲につながっていると思います。
 復帰の際は、お客さまにメールで復帰のお知らせをして、元の担当者に一気に返すようにしています。お客さまの都合で、時短勤務のママスタイリストでは難しい場合は、引き継いだスタッフが担当し続けることもありますが、8割は元のスタッフに戻せています。

働き方は個々の事情に合わせて、自由に設定。

 上記の制度以外は、「お客さまのために、働く曜日と時間を決める」というルールだけつくって、あとは売上さえキープしてくれれば個々の自由にしてもらっています。人によって子育ての環境が異なるので、個別対応する方が実情に合っていると考えているからです。時短でも正社員のままで、歩合の部分のお給料が減るくらいです。歩合率は出産前よりもむしろ上げるスタッフもいます。戻ってきてくれる貢献度を評価しているからです。歩合については復帰前に面談して、実際に働ける時間や戻ってきそうなお客さまの数などから、個別に対応しています。

がんばった人が報われるための制度として捉えてほしい。

 山根が育休から復帰したことで、ママスタイリストとして続く後輩が増えて、長く働き続ける女性が増えてきました。ママになる女性を大事にしていくのはもちろんですが、その制度が「LIM」のウリではありません。山根もトップスタイリストまでいって、今も時短ながら150万円/月近くの売上を上げています。ブランドサロンとして、やはりがんばっているスタイリストを輩出していかねばなりませんので、福利厚生のよさで「LIM」を目指してほしくはない。スタイリストとしてバリバリやりたい若い人たちを採用し、彼女たちががんばった先に女性としてのしあわせを考えたときに、続けられる条件としての制度なのです。山根をはじめ、今のママスタイリストたちは、そういう背中を後輩たちに見せてくれています。

「最初はお互いにどうしていいかわからなかったので、ママスタッフの希望を重視して、その後は個別対応で制度を整備していきました」と語るカンタロウさん

Q

これから取り組んでいきたいことは?

A

すべての社員がしあわせで長く続けられる、多様な働き方を提供したい。

ママスタッフ以外の女性も、自由に働ける制度をつくった。

 女性の働き方は多様になってきています。出産後も仕事を続けたい人もいれば、結婚よりも仕事をがんばりたい人もいます。また、家庭を持つこと以外で自分の時間がほしいと考えるスタッフもいます。時短勤務は現状ではママスタッフだけに適用しているため、そうでない女性スタッフが、自由な働き方を求めて面貸しサロンに流れていく傾向がありました。そのため、こうした女性たちにも「LIM」を通じて幸せになってもらいたいと考え「Wの幸福」という新しい制度をつくりました。
 「Wの幸福」は、簡単にいうと「LIM」で業務委託として働く制度です。つまり「面貸しサロンに流れるなら、うちでやればよい」ということ。面貸しサロンに否定的な経営者の方もいますが、増えているということはそれだけ女性美容師にとって面貸しサロンが魅力的ということです。それなら見習えばよいと思いますし、大手ブランドサロンとしてうちがやってみる責務があると思っています。
 「Wの幸福」では、一度退職して「LIM」の社員ではなくなり、個人事業主となります。福利厚生はなくなり、給与管理も自分でやることになりますが、その分時間は自由になります。お客さまから見ると、「LIM」のスタイリストのままです。条件としては、勤続年数が5年以上のスタイリストです。昨年つくったばかりの制度なのでまだ利用者はいませんが、現在1名が検討中です。

スタッフの満足度が、組織の強さにつながっていく。

 こうした多様な働き方をスタッフに提供しているのも、とにかく「辞める人をなくしたい」から。人が辞めない会社になれば、美容は成長し続けられるビジネスだと考えています。スタッフの満足度が高まれば、組織が強くなります。組織が強くなればますますスタッフを支援することができるようになります。
 そう考えたのは、「独立支援制度」をつくったときに組織が強くなった成功体験があるからです。以前、男女問わずスタッフが辞めてしまったときに、売上も組織もボロボロになりました。辞めてしまう理由を突き詰めると「自由」と「いい報酬」の2つでした。「この2つを保障してあげれば辞めなくなる」と考えてつくったのが「独立支援制度」でした。これは勤続年数10年以上が条件だったため、男性はうまくいきましたが、女性の利用者がひとりもいなかった。そこで考えたのが女性のための「Wの幸福」です。スタッフにとっていろいろな働き方の選択肢を増やしていければと考えています。

制度利用者1号目は、多少のリスクがあってもやりきる覚悟が必要。

 女性のための制度をつくると、「男性スタッフから不満がでるのでは」と考える経営者もいると思います。能力に性差はありませんが、子どもを産んだり、その期間のキャリアが中断されるなど、男女には決定的な違いがあります。「男女は平等だけど、『区別』はすべき。だから女性を守る」と毅然と伝えるべきだと思います。
 ママスタッフやこれからやろうとしている「Wの幸福」にしても、肝心なのは第1号です。最初の1人は本人も会社も覚悟が必要。会社に多少の不利益や波乱があるとしてもやる覚悟です。やってみてうまくいかなかったら「どうだったらいい?」と練っていけばいい。だから一人ひとり面談して臨機応変に変えています。
 そのためにも、スタッフ自身がどういう人生を歩みたいか、意識してほしいですね。私は日頃からスタッフに「これからどうしたい?」「将来どうなりたい?」と問い続けています。若い子はすぐ答えられなくて当然で、キャリアが上がっていくうちに考えるようになります。スタッフが「こうしたい」という希望が出てきたときに、それを社内でかなえられる方法を考えていけばいいのだと思います。

※女性だけのサロン「douceur+LIM」の取り組みはこちら
※ママスタイリスト、山根実佳さんのインタビューはこちら

若手スタッフにも気軽に声をかけ、それぞれの考え方をさりげなく聞いている。「社員のしたいことの先に、会社がつくるべき制度がある」と考えている

 「昔はスタッフに怖がられてた」と笑うカンタロウさん。いまもストイックに世界を駆け回っていますが、ご自身もお子さまが生まれたときに、「才能のある女性スタッフをもっと大切にしなければ」と、考え方が変わったと言います。若いアシスタントたちにいじられても笑顔で返している様子を見て、ベテランスタッフたちから「変わりましたよね〜」とさらにいじられて、少し恥ずかしそうにしていらしたご様子がとってもキュートでした。これからも、業界が驚くような次の一手を期待しています!
インタビュアー
白尾瑞希(ホットペッパービューティーアカデミー研究員)
編集・取材・文
長島佳子
撮影
酒井修平

※掲載されている情報は2016年12月15日現在のものです

Company Data

LESS IS MORE(LIM)

創業年
1991年
店舗数
20店舗
従業員数
約180名
備考
https://www.lessismore.co.jp/

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