Special Interview
美容業界が描く「女性活躍」のカタチ
株式会社Blanc
取締役社長兼COO
多和好人さん
創業からわずか8年で、国内112店舗、海外にも5店舗と急成長を続けるまつげエクステサロン「Blanc」。340名の社員の98%が女性、300名余りのまつげエクステスタッフは全員女性です。だからこそ、女性たちが働きやすく、長く続けられる会社を目指して、さまざまな制度をつくってきました。今年4月に多和さんが社長に就任し、さらに新しい取り組みも次々に始めようとしています。若い会社でスタッフの7割以上が20代。現在30名のママスタッフ、産休・育休中が20名と、今後も新たなライフステージを迎える社員が多い同社。女性活躍に対する想いについてうかがいました。
1971年生まれ。飲食、介護・医療などのフランチャイズ事業に約15年間従事した後、2014年「Blanc」に入社。店舗開発部門で、「Blanc」の多店舗展開に携わり、同社の急成長に貢献。2017年4月、創業者で現グループCEOの山下晴之氏より、取締役社長兼COOに任命。
女性活躍支援の取り組み
- 完全週休2日制、週休3日制も導入
- 病児保育支援
- 従業員相談窓口
- 検定試験による評価制度
- 結婚祝い金、ウェディング休暇
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完全週休2日制、週休3日制も導入
年中無休のショッピングセンターに店舗があるため、以前は休日が「月6日」だったが、2016年2月より完全週休2日制とした。また、集中して働きたい人のために同年10月より「週休3日制」も導入。さまざまな働き方の希望に対応している。
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病児保育支援
子どもが急に熱を出したときでも予約などで仕事を休めないママスタッフのために、病児保育施設に預ける際の費用の一部を会社が負担。わずかな自己負担で病児保育を利用できる。
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従業員相談窓口
スタッフが悩んでいることについて、匿名でメールや電話で本部スタッフに相談できる窓口。普段は現場スタッフの声は、店長やエリアマネージャーを通して本部に上がるが、伝達では現場の本音が伝わらない場合もある。より風通しのよい風土にするために今年から設けられた。
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Q
「社員のほとんどが女性」というなか、人事制度を充実させてきた背景は?
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A
女性はどうしたら「この会社で続けたい」と思ってくれるのか考え続けてきました。
急成長の反面の、離職率の高さをなんとかしたいと思いました。
我が社は創業以来、フランチャイズという形で急成長し、8年で112店舗にまで広げることができました。フランチャイズといっても、112店舗のうち70店舗は運営委託を受けて当社の社員が店舗で勤務しています。ただ、店舗拡大のスピードの一方で、社員の気持ちが追いついていなかったことに気づきました。経営陣は私も含め男性で、会社を大きくすれば社員も喜ぶと思っていました。店舗を増やせばその分管理職が必要となります。しかし、現場の社員はそもそも技術職の女性たち。施術や接客が好きでこの世界に入っており、店長やマネージャーなど管理職に興味をもつスタッフはあまりいませんでした。結果として、結婚などを機にした退職者が多かったのです。
本来、創業者の山下が店舗を増やしてきた理由のひとつが、「産休明けで復帰するスタッフが戻ってくる場所をつくってあげたい」ということでした。それなのに産休に入る前に辞めてしまうことを、何としても食い止めたいと考えたのです。
産みの苦しみを経て「完全週休2日制」に。
「どうしたら辞めずに続けてくれるか」を考えたとき、まずは労働環境の改善から着手しました。もともと完全シフト制で1日の勤務時間は8時間、残業はほぼありません。しかし、年中無休の大手のショッピングセンター内の店舗が多いため、月の休日は6日でした。それを昨年から完全週休2日制にしました。意外なことに、「完全週休2日制にする」と言ったときに、現場から反対の声があったのです。仕事への意識が高いスタッフほど反発しました。「勤務日数が減ることで予約やシフトのやりくりが大変になる」と受け取られたようです。当初の3〜4カ月は移行への混乱がありましたが、現在では週休2日制が当たり前のことと捉えられるようになりました。
スタッフが「成長したい」と思える評価制度を導入。
「完全週休2日制」導入の混乱で、実は一時期離職率が上がってしまいました。そこで、休みだけでなく、給与制度も見直すことにしました。スタッフの技術力と接客力を10段階に分け、段階ごとに社内の検定試験に合格すれば昇給する制度の導入です。昇給の理由が明確になるので公平と受け入れられますし、がんばって検定にチャレンジすれば昇給します。「成長したい」というやる気も起こさせたかったのです。技術力の向上は、そのまま店舗の売上にも直結します。例えば、ボリュームラッシュは検定に合格しなければそのメニューでの入客はできません。お客さまにより多くのサービスを提供できるスタッフになるための登竜門という位置づけです。また、技術よりも接客が得意というスタッフもいるので、お客さまへの対応力も基準に入れて評価しています。
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Q
最近新たに取り組みはじめた施策は?
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A
よりスタッフの意向に沿えるよう、新たな取り組みを始めました。
スタッフ一人ひとりが匿名で悩みを相談できる「従業員相談窓口」を設置。
今までは、休日や給与など、待遇面を改善する取り組みを行ってきました。私が弊社に来る前に携わっていた飲食や介護も、美容業界と同様に離職率が高い業界でした。その理由のほとんどが、過酷な労働環境にありました。弊社の場合は労働時間は長くはありませんし、待遇面を改善してきました。しかし、離職率を劇的に下げる決め手になったとは言えない状況でした。
そこでさらに考えたのは、「スタッフとのコミュニケーションが足りていなかったのではないか」ということです。もともと当社には、上司と部下がよく対話する風土があり、エリアマネージャーたちも現場スタッフと面談や懇親会をしています。幹部も、多い店舗では週1回は訪問しています。ただ、店長→エリアマネージャー→部長と伝言ゲームのように我々に伝わってくるケースが多いため、「トップにはいいことしか伝わってきていないのでは?現場で本当に起きていること、スタッフ一人ひとりが考えていることをもっと知るべきではないか」と思いました。
そこで、今年の6月から「従業員相談窓口」を設置しました。相談者も受け手もお互いに匿名で、メールや電話でどんなことでも相談できる窓口です。スタッフたちの本音を吸い上げるコミュニケーションの糸口になればと考えています。
「病児保育支援」でママスタッフがより働きやすく。
また、ママスタッフからの声で、病児保育施設に預ける際に会社から補助金を出す制度も始めました。本部勤務で社内スクールの講師をしているスタッフの子どもが熱を出したとき、本人はスクールのある日で休むことができなかったのです。「病児保育に預けたい」と申し出があったため、そのための入会金や年会費を会社で負担することにしました。また、1回預けるごとに1万円前後かかるので、使用料についても自己負担が少なく済むよう、補助を出すことにしました。ちょうどママスタッフのための制度を充実させたいと考えていた時期だったので、職種やエリアに関係なく誰でも使える制度にしました。
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Q
今後女性活躍で取り組んでいきたいことは?
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A
社員の時短勤務と、アレルギーで現場に立てなくてもキャリアアップできるしくみなどです。
正社員でも勤務時間を選べる雇用形態をつくりたい。
現在、現場ではフルタイム勤務のスタッフは正社員(子育て中の短時間勤務制度は有り)、フルタイムより短い勤務のスタッフはパートとしていますが、今後は正社員でも勤務時間を選べる雇用形態をつくりたいと思っています。店舗勤務ではないエリアマネージャーなどの場合は、お客さまや他のスタッフに迷惑をかけることが少ないため、短い勤務時間の正社員がいます。しかし、店舗の場合はシフトの関係で、社員で勤務時間を短くすると不公平感がでる可能性があり、今まで着手できませんでした。しかし、その分給与で調節するなど、他のスタッフにも受け入れられるような、働き方のバリエーションのひとつとして整えていきたいです。
グルーアレルギーのスタッフもキャリアアップを可能にしたい。
まつげエクステ業界共通の課題といえることが、グルーアレルギーの社員のキャリアステップです。まつげエクステが好きでせっかく入社してくれても、アレルギーで現場を続けられなくなる社員が少なからずいます。店舗スタッフの場合は、スタッフ→副店長→店長→複数店を担当する兼任店長→店長リーダー、その後もエリアマネージャー→部長というキャリアステップが用意されています。同様に、アレルギーで店舗勤務がむずかしくなったスタッフには、本部でトレーナーとしてのキャリアステップを用意していく予定です。どんな職種でも「『Blanc』で働いてよかった」と、当社で働いていることに誇りをもってもらいたいと願っています。
社長自らが現場の生の声を聞いていきたい。
私自身も今まで以上に現場に出かけていって、スタッフたちと直接面談する機会を増やしたいと考えています。すでに予定している面談もあり、スタッフたちの生の声を聞いて、「彼女たちががんばれるために、会社にどうなってほしいか」を率直に聞きたいです。目指すのは「日本一働きがいのある会社」。産休・育休に入るスタッフも増えてきたので、彼女たちが「必ず復帰したい」と思える会社にしたい。スタッフがそう感じることが、お客さまに良質なサービスを提供することにつながるからです。規模では業界最大級になりましたが、さらに技術でも働きやすさでもNo.1になるために、今後もさまざまな取り組みに挑戦していきます。
Company Data
働きがいでも日本一の
まつエクチェーンを目指して