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訪問美容~実施マニュアル編~
vol.2
【実例紹介/施設編】
訪問美容の一日に密着!
実際の仕事内容に迫るべく、訪問美容師の一日に密着。午前中は施設に、午後は個人のお宅へ伺いました。今回は前編として、午前中に伺った施設での仕事ぶりをご紹介。必要な道具は?施術中に注意すべきポイントは?など、仕事内容とともに気になる疑問が解消できます!
午前中は施設で5名のお客さまを施術。
ご協力いただいたスタイリスト
園田敦子さん(写真左)
44歳。スタイリスト歴21年、訪問美容師歴10年。長男の出産を機にサロンを退職、子育てが落ち着いた2年後に「NPO法人ふくりび」所属の訪問美容師に。一緒に施設を訪問した同僚の高橋さおりさん(写真右)は、美容師歴7年&訪問美容師歴2年の27歳。サロンワークと訪問美容を両立しています。
園田さんのタイムスケジュール
9:30施設に到着
準備をしっかり&移動は車で。
訪問美容は準備が肝心。「事前に訪問先からいただくオーダーリストをもとに、訪問先の場所・訪問時間・施術メニューをチェック。前日までに必要な道具を自宅でまとめ、忘れ物がないかダブルチェックします」と園田さん。当日は車を運転して、自宅から直接、訪問先へ。
point服装について
動きやすく、清潔感のある服装がオススメ。ジャージやスウェットなどは印象的にNG。インパクトの強い柄や肌の露出も避けましょう。お客さまやご家族、介護スタッフの方に好印象な服装が望ましく、アクセサリーの着用も原則NGです。
9:35ご挨拶&施術準備
事務所の方にご挨拶し、施術場所へ。
施設内の事務所に伺い、職員の皆さまにご挨拶。日程調整や施術時のサポートをしてくださる施設スタッフの寺島さんの案内で、施術場所へと移動します。施術場所に着いたら、すぐに準備開始。施術スペースを確保し、道具を目の届く場所に並べます。特に、ハサミやレザーはお客さまの手が届かない場所に置くよう、注意。
9:45担当者と打ち合わせ
変更点や注意点をヒアリング。
施術場所へ案内してくれた施設スタッフと、施術前に打ち合わせ。お客さまの体調や要望、当日の変更点などを確認します。「訪問美容では、お客さまご本人だけでなく、ご家族や施設の方の要望も必ず確認。双方の意見を聞き、折衷案を提案することが大切です」と園田さん。本日は、10名のお客さまをふたりで担当。
9:50ご案内&カウンセリング
介護しやすさも考慮して、髪型を提案。
施設スタッフに施術場所までお客さまをご案内いただき、ご挨拶。まず、カウンセリングでお客さまの要望をヒアリングします。ご本人と施設スタッフの希望を踏まえつつ、介護しやすさ・手入れしやすさも考慮してヘアスタイルを提案。体の調子やケガの有無、地肌や毛髪の状態もチェックします。補聴器を付けている場合は、水に濡れないように外していただきます。
pointカウンセリング方法
カウンセリング時は、お客さまの状態に合わせて対応を。例えば目が見えない方には、長さや毛量を手で触って確認してもらいながらご説明。耳が遠い方には、口元を見せてゆっくり話しましょう。どのような対応がベストか、事前に付き添いの方に確認しておくことも大切です。
10:00施術開始
話しかけながら、手早く施術。
車椅子を覆う大きめサイズのクロスを掛けて、施術開始。明るく適度に話しかけながら、作業を進めていきます。カットの場合、施術時間はひとりにつき15分ほど。お客さまの体への負担を考え、短時間で行います。また、感染症予防のために手指と器具を消毒するなど、安全面への配慮も大切です。
pointメニュー&料金は?
今回の取材にご協力いただいた「ふくりび」のメニュー&料金は以下のとおり。
・カット/2500円
・ヘアカラー/3000円
・パーマ/4000円
・ポイントパーマ/2500円
・シャンプー/1000円
・出張料金/1500円(一度の訪問につき。お客さま3名以上の場合は無料)
※消費税別
【お客さまの感想】
「これまで月に1度のペースでお願いしていたのですが、入院していたので髪を切ってもらうのは3カ月ぶり。本当にさっぱりきれいにしてもらえてありがたいです。いつも来てもらってとっても助かっています」と玉井さん。施設スタッフの寺島さんも「カットしてもらう前と後では、表情がガラリと変わるんですよ。みなさん、本当にうれしそう」と笑顔で話してくれました。
11:10個室へ移動&施術
お客さまの部屋でベッドカット。
チャペルでの対応後、ベッド上での施術を望まれるお客さまの部屋へ移動。寝たきりなどのお客さまは「ベッドカット」で施術します。ご本人やご家族の方にご挨拶後、カウンセリングで体調や希望を伺います。ベッドカットの準備をして、施術開始。必要に応じて施設スタッフに介助をお願いし、手早く丁寧に作業。やさしく語りかけながら、希望のスタイルへと整えていきます。
【お客さまの感想】
カットしてもらい、気持ちよさそうな川崎さん。「祖母はおしゃれ好きなので、きれいになってとってもうれしそう。家族やスタッフ以外の方と交流できたことも喜んでいると思います」と、おばあさまの明るい様子に孫の綾子さんもうれしそう!
11:30後片付け
掃除はしっかりカンペキに!
ふたりで2名のベッドカットを終え、再びチャペルへ。簡易モップやローラー式粘着クリーナーなどを使って落ちている髪の毛を片付け、ゴミはすべて持ち帰ります。荷物をまとめ、会計時に提出する報告書を書き終えたら事務所へ。
11:45会計&退出
会計後は次回の訪問日を確認。
片付けを終えたら事務所へ。施設スタッフに報告書を確認してもらい、誤りがなければ会計してもらいます。今回ご協力いただいた「ふくりび」は、現金にてお支払い。会計後は次回の訪問日を確認し、きちんとご挨拶して退出します。
point代金の受け取り方法は?
料金は、その場で現金で受け取るか、銀行口座などに振り込んでもらうかの、主に2通りの方法があります。振込みの場合は、振込手数料をどちらが負担するか契約時に必ず確認を。後日の振込みとなるため、入金の遅れで資金繰りができなくならないよう注意が必要です。現金徴収の場合は各スタッフに現金を管理してもらう必要があるので、帳簿や領収書の管理を徹底しましょう。
お役立ちリスト&アイテム
必要な道具
必要な道具の中には、延長コードや簡易モップ、50音が書かれた表、スリッパや救急用品など、訪問美容ならではのアイテムも。キャスター付きのキャリーカートに収納すると、移動時などに便利です。
美容カルテ
下記の美容カルテは、「ふくりび」が医師と共同で開発したもの。お客さまの身体の状態などを丁寧に記入&把握することで、より最適な施術が行えます。ヘアケアに関する情報を書き込めば、介護者にも役立つ一枚に。
担当の施設スタッフとの連携が大切。
施設での施術では、お客さまの状態や要望を把握しているスタッフとの連携が大切なポイントに。オーダーシートの内容だけで判断せず、必ず施設スタッフと打ち合わせし、気になる点はその都度、確認しましょう。サロンワークとの違いは、施術場所を貸していただくということ。そして、施設の方々との良好な関係が重要であること。そうした意識をしっかり持ち、施術に臨むことも大切です。
次号では、今シリーズの続きをご紹介。個人宅での仕事ぶりをレポートします。
監修NPO法人 全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)
理事長 赤木勝幸さん
「誰もがその人らしく美しく過ごせる社会の実現」を目指し、全国の「訪問理美容サービス」の質の向上、理美容師の育成や高齢者・介護者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上などに尽力する同協会を2007年に設立、理事長に就任。2008年社会貢献支援財団社会貢献賞受賞。著書に、「技術からマネジメントまで 訪問理美容スタートBOOK(女性モード社)」など。
事務局長 岩岡ひとみさん
同協会の事務局長。ヘルパー2級取得、美容師国家資格取得。2009年内閣府青年社会活動コアリーダー育成プログラム英国派遣団員。2010年東アジア地域国際シンポジウム招聘者。2012年内閣府女性のチャレンジ賞受賞。2013年シアトルiLeap SIFJ招聘者、第27回人間力大賞厚生労働大臣奨励賞受賞。2012年より愛知学院大学経営学部非常勤講師。
ふくりび http://www.fukuribi.jp/
参考文献
「技術からマネジメントまで 訪問理美容スタートBOOK」
NPO法人 全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)編著/女性モード社