Special Interview
美容業界が描く「女性活躍」のカタチ
株式会社
アトリエはるか
取締役 西原良子さん
2001年、名古屋のセントラルパークに1号店をオープンしたヘアメイク専門サロン「アトリエはるか」。「あったら便利だな」という発想から生まれたお店は、瞬く間に働く女性たちのハートを掴み、東京、大阪、名古屋を中心に店舗を拡大。全国に54店舗を展開するヘアメイク業界の大手企業へと成長しました。サロンスタッフはほとんど女性。女性スタッフとともに成長してきた会社には、女性が働き続けるための様々な取り組みがありました。産休・育休中のスタッフを合わせて、47名のママスタッフが在籍している今、創業者である西原良子さんに、これまでの道のりや想い、そして実際の取り組みについて伺いました。
「アトリエはるか」の創業者であり、取締役副社長を務める西原良子さん。名古屋で会社員をしていた24歳のときに、「デートや飲み会に行く前に、ヘアメイクをプロの手でやってもらえたら便利だな」と思い、美容業界での経験がない中でヘアメイク専門サロンをオープンする。現在は3人の男の子を育てながら全国の店舗にも足を運び、働くママとして活躍。新規店舗の開発やスタッフのための制度づくりなどに力を入れている。
女性活躍支援の取り組み
- 産前8週間前から取得可能な産休・育休
- ママスタッフに「両立社員制度」を導入
- 認可外保育園手当を支給
- ママスタッフのランチ会を開催
- 年代ごとの悩みに合わせた研修を実施
- 夢シートを使った月1回の面談で個別にフォロー
-
ママスタッフに「両立社員制度」を導入
小学生以下の子どもがいるスタッフが、家庭と仕事を両立するために時間を短縮して勤務できる制度。条件や待遇は一般社員と異なるが、A、B、C3種の勤務パターンの中から自分に合ったものを選ぶことができる。週の実働時間はいずれも35時間。接客業のため土日祝日の勤務はゼロにはできないが、その分、時間を短くすることで家庭での時間が取れるように設計。1日の勤務時間を7時間とし、土日祝日の勤務日が異なるA、Bと、曜日により勤務時間が変動するCの3種で、保育園のお迎えや家族の協力体制に合わせて選択できる。
-
認可外保育園手当を支給
小学校就学までの子どもを認可外保育園に預けているママスタッフに、保育園手当を支給する。対象は会社が定める一定ランク以上の社員に限られるが、地域の保育料を考慮し、2万円を目安に支給。認可保育園に入れず、高い保育料を払っているママスタッフを、経済面で応援したいという想いから作られた制度だ。
-
ママスタッフのランチ会を開催
子どもの熱などによる急な欠勤を店内でフォローできるように、店舗にママスタッフは1人ということが多い。そこで、エリアごとにママスタッフのランチ会を開催。ママスタッフ同士の交流を図っている。
-
Q
OLからヘアメイク専門サロンを開業。起業時の想いや、これまでの道のりを教えてください。
-
A
OLから見た美容師の世界は驚くことばかり。スタッフが安心して働ける「企業」にするという強い想いが芽生えました。
美容業はもっと世の中に認められるべき。一流企業と言えるような組織体を作っていかないといけない。
起業前は名古屋のテレビ局で事務職をしていました。いわゆる「OL」の気楽な仕事で、就業後はメイクや髪を直して「合コン」に行く日々。その中で、「これを誰かにやってもらったら便利だな」と思い付いてこのお店を作ったんです。お店を作って、はじめて美容師の方と働いて、その働き方に衝撃を受けました。仕事を終えた後に練習をはじめるなど、とにかく休まず働くんです。でも、今までの給与を聞くと、賞与もなく低賃金で働いてきた人ばかり。すごく驚いたし、世の中不公平だと思いました。
その想いは今も変わらず、美容業界で働く人がもっと世の中に認められるべきだと思っています。社名もそんな想いから、「はるか彼方まで成長したい」という意味を込めてつけています。もっと制度を整えて、福利厚生面などが充実したトヨタ自動車のような会社にしたいと思っています。
スタッフの離職が「働きやすさ」を見直すきっかけに。本部スタッフを増員し、制度の整備を続けてきました。
起業してから6、7年後。店舗が12〜13店舗と順調に増え、スタッフが100人に届きそうなときに、「とにかく人が辞めていく」という時期がありました。「スタッフのために会社を成功させようと一生懸命がんばっているのに、どうして辞めていくんだろう」と悩みましたが、そこで起業家精神とマンパワーのみに頼っていたことに気が付きました。当時は、スタッフは全員アルバイトからの採用で、社員登用制度も整備されていない状態だったんです。それからは、就業規則や福利厚生面などを見直し、それまでは3人だった本部スタッフも増やして「企業」として制度を整備し続けてきました。
-
Q
400名のスタッフのうち、男性は10名以下という女性が主役の職場。今、取り組まれていることを教えてください。
-
A
今の制度は、どれも現場スタッフの率直な意見から生まれたもの。昨年は時短制度を見直し、「両立社員制度」として新たな運用をはじめました。
サロンで働くママの悩みに応える、3パターンの「両立社員制度」。
2015年4月から、「両立社員制度」というママスタッフのための時短制度をスタートしました。それまではスタッフと個別に話し合って決めていましたが、スタッフ全員が分かるように会社として制度化することにしたんです。検討段階では勤務パターンは2種類でしたが、「自分の場合はどちらでも働きづらい」という現場のママスタッフの声に応じて、もう1種類を加えました。
私達の仕事は接客業です。社員は土日や夕方といったお客さまの予約の多い曜日・時間帯に勤務することが求められます。とはいえ、夫が土日休みであればすれ違ってしまいますし、子どもが一番多感な時期に一緒にいられないというのは働く女性にとっては大きなストレスになります。私自身、3人の子どもの母としてそれを実感しているので、働き方の選択肢を増やすことで、会社として接客業で働き続けるママスタッフを応援したいと考えています。
すべての制度は「夢シート」に書かれたスタッフの声から。
当社には「夢シート」というものがあり、スタッフに月1回、夢や目標、会社やお店の問題点や改善策などを書いて提出してもらっています。「両立社員制度」もこの「夢シート」から生まれた制度のひとつです。このシートを作ったきっかけは、起業して、一緒に働くスタッフの夢を聞いたときに、「スタッフ一人ひとりの夢を叶えられるような会社にしたいな」と思ったこと。そのためには、みんなでお互いの夢を共有して、力を出し合って会社を成長させていくことが必要です。「問題点や改善策を書いてもらうのも、会社をみんなで改善していくために大切なこと」とスタッフにしっかり伝え、提出された夢シートはすべて役職者で読んで、夢の実現や課題解決に取り組んでいます。
働く仲間と一緒に楽しめる、スタッフが集まるイベントをたくさん用意。
「夢シート」以外にも、スタッフからの意見を吸い上げられている理由のひとつが、とにかくスタッフが集まる機会が多いということ。定期的に研修やバレーボール大会、食事会などを企画して、スタッフ同士の交流を図るようにしています。人生の中で「働いている時間」は長いですよね。だから、働く仲間はすごく大事だと思うんです。イベントを通じて、スタッフたちがより一層お互いを「一緒に働きたい相手」だと思ってくれるようになる。そのことが、会社全体の風通しの良さにもつながっています。
創業15年で見えてきた、女性の「年代別の悩み」に応じ、研修を実施。
以前から取り組んでいることのひとつに、年代別に行う研修があります。女性が仕事で悩むポイントは、年代ごとに変わってきます。入社直後は技術の習得で精一杯ですが、3年目頃になり仕事に慣れてくると「本当にこの職場でいいんだろうか」と考えはじめます。5年目くらいになると、後輩の育成に悩んだり、美容業界以外の企業に勤めている会社員の友達と自分の環境を比べはじめたり。そして20代後半になると「結婚しても仕事を続けるか」という悩みが生まれてきます。
たくさんの女性スタッフと働く中で年代ごとの悩みが分かってきたので、その段階に応じた研修を全国で行っています。創業の精神や企業理念の教育からはじまり、次はリーダーシップ研修。次のステップでは社会の流れを学び、その中で自分がどうやってキャリアアップしていくかを考えます。
-
Q
これから取り組んでいきたいことを教えてください。
-
A
目指すのは「一流企業」。時代に合わせて、改善努力を常に続けていきます。
産前14週間前からの短時間勤務を認めることで、立ち仕事の不安を解消したい。
産前休暇は法定では6週間前。当社では有給を使って8週間前から休めるようにしていますが、今年の春からは14週間前からの短時間勤務を大幅に認めようと考えています。立ち仕事をしている女性は、「お腹の子どもになにか影響が出るのではないか」という不安を抱えています。それをストレスに感じて仕事を辞めてしまったり、復帰できなくなったりするのはもったいない。「休めるときに休んでもらって、働けるようになったらがんばってもらえればいい」と思っています。
公平性にも気を配り、制度のブラッシュアップを続けていきたい。
保育所などのあり方もこの先変わっていくと思いますし、制度は時代に合わせて変えていきます。今、世の中的に「働くママを優遇しよう」という流れになっていますが、ただママを優遇するだけでは意味がない。結婚や出産をしている人と、していない人をなるべくフェアな状態にすることではじめて意味を持つと思っています。店内でがんばっているスタッフたちにはインセンティブを多くつけるなど、みんなに公平性があるかという点に気をつけて制度づくりをしています。
すぐにはうまくいかなくても、改善努力を現場のスタッフたちは見てくれています。そのための努力を「やっている」ということが大事だと思うので、これからもスタッフのために、「一流企業」を目指して取り組みを続けていきます。
ヘアメイクからはじまり、ネイル、まつげエクステ、ドレスレンタルなど、女性にうれしいサービスが続々と登場。今後は男性をターゲットにした「グルーミングサロン」や前髪などのドライカットができるお店も増えるとのこと。働く女性として西原さんのお話に背中を押され、続々と広がりを見せるサービスにワクワクしたひととき。ますます魅力的になっていくサロンから目が離せません!
Company Data
3人の子を持つ女性創業者が考える
ママが働きやすい職場とは?