Special Interview
美容業界が描く「女性活躍」のカタチ
株式会社ユニックス
代表取締役社長 森俊雅さん
東京・埼玉・神奈川・千葉に30店舗展開する「UNIX」は、ヘアをはじめスパ、ネイルも提供する美容サロン。創業41年を迎え、約400名の従業員のうち6割強を女性が占めています。現在の社長・森さんは航空業界出身。お客さまをゲスト、社員をクルーと呼び「ゲストの、そしてクルーの人生を豊かにする」ことを目的に、同社の労働環境改善・生産性向上に努めています。創業当時より受け継がれた協力し合う温かな社風と、現社長・森さんによる制度化。この2つから形づくられている、女性が働きやすい環境への取り組みをインタビューしました。
1981年、上智大学卒業後に日本航空株式会社へ入社。同社の幅広い分野でキャリアを積みながら、1993年にはアメリカ・ハーバード経営大学院にてMBAを取得。2010年に退職後、株式会社ユニックスへ。同年7月、代表取締役社長に就任。現在は経営大学院の講師としても活躍中。
女性活躍支援の取り組み
- 産休・育休制度の定着(毎年約10名が利用)
- 正社員の時短勤務制度は、子どもが小学生卒業まで適用。パート雇用も選択可
- 復職時に技術・マインドをおさらいする研修「復帰アカデミー」を導入
- 主任クラスの5割強、管理職クラスの3割弱に女性を登用
- 閉店後に行う「社長懇親会」で、働く女性の本音をキャッチ
-
復職時に技術・マインドをおさらいする研修「復帰アカデミー」を導入
産休・育休、あるいは子育てによる休職期間など、ブランクがある経験者を対象にした研修制度。職歴やブランク期間、スキルに応じたカリキュラムを用意している。まず社内基準の技術レベル判定試験を実施するため、復職前の技量ではなく現状の本人レベルにカスタマイズした研修内容が構成できる。研修では技術・接客・会社理念などを、1カ月~4カ月ほどかけて習得。美容師、セラピスト、ネイリストの3職種向けのコースがあり、研修期間の給与・研修会場への交通費ももちろん支給される。
-
閉店後に行う「社長懇親会」で、働く女性の本音をキャッチ
本部と現場のコミュニケーションを図るため、閉店後のサロンにて社長・役員と店舗クルーによる「社長懇親会(通称・社コン)」と称した食事会を各店で年3~4回開催。和やかな飲食タイムで心をほぐすことにより、クルーの本音が引き出せると共に、本部の方針も伝わりやすいという効果がある。
-
Q
航空業界から、分野が異なる美容業界へ転身し、
女性が活躍しやすい環境改革を進める想いをお聞かせください。 -
A
「美容業界」という視点ではなく、
他業界の成功例や当然とされている制度を導入しています。
創業以来、育まれてきた女性支援の風土を整理して制度化。
創業者の水島は、美容師の地位向上に向けて労働環境を充実させてきました。そのため以前からママさん美容師はいましたし、産休・育休、復職時の技術研修、時短勤務などもあったのですが、その場その場で話して対応を決めるような状況でした。しかしそれでは対応に個人差がでることも考えられるため、私が引き継いでから制度として整備しました。
制度の内容は現場の声も取り入れながら改善しています。これまで未就学児のお子さんがいるクルー限定だった時短勤務も、昨年からは子どもが小学生卒業まで適用範囲を広げました。
他業界の「当たり前」を、美容業界にも定着させるために改革。
航空業界からユニックスへ転身して以来、私の使命にしていることは生産性を追求することと、それに関連して労働環境の整備をすること。改革する際は多くの企業が取り入れているトヨタの生産方式をはじめ、他業界の事例も参考にしています。美容業界では当たり前と考えられていたことも、広い視点から見ると非効率であったり遅れていたりといった点もあります。たとえばユニックスでも以前から週休2日制を採用していましたが、そのうち1日が研修日に費やされることも。現在は研修もきちんと業務扱いにして、休みとは分離して実施しています。
私の考え方としては業界の枠にこだわらないだけではなく、既婚・未婚、子どもの有無、性別や年齢で差別はしません。ですから女性支援というよりは、会社に貢献してくれるクルーみんなが働きやすい環境にしたいと思っています。もちろん性差やライフステージの違いにより「働きやすさ」は異なるため、それに対応できる制度を整えるように努めています。
-
Q
制度が充実しているからこそ、「ケアされて当たり前/休職者の
代わりに自分ばかり忙しい」というマイナス面の影響はない?
-
A
日頃から培われたクルー間の協力関係と、
がんばりを評価する給与体制により不満の声は挙がっていません。
意欲あるママさん店長が女性クルーのロールモデルに。
先ほど話したように、創業者社長のときから産休・育休やママさん美容師をサポートする風土はクルーに根付いており、いきなり女性支援策を導入したわけではないので反発はありませんでした。結婚・出産を経ても働き続けることを選択した時点でしっかりとした働く意欲・姿勢があるため、制度に甘えて仲間への感謝の気持ちを忘れることもないのでしょう。
現在も3人の子育てをしながらフルタイム正社員として働く店長がいます。フルタイムだけれど子どもの急な発熱時などは早退できるようにクルーが協力していますし、そのぶんママさん店長も自分ができることは精一杯取り組んでクルーに還元しています。周囲のクルーは彼女のようなママさんクルーを見ているため、自然と助け合う土壌がつくられています。
また当社では個人の売上に比例して歩合率が高くなる給与体系を採用し、がんばった人にはきちんと還元する仕組みにしています。
人員不足による忙しさの偏りが起きないヘルプシステムを構築。
産休・育休をはじめ店舗クルーが減少した場合は補充のため人事異動を行っていますが、予約がないお客さまの飛び込みなどにより、急きょ忙しくなることもあります。当社ではそうした状況をインターネットを介して、本部がリアルタイムで把握できるシステムを導入しました。受け入れ人数に対して人員が不足している状況にある、あるいは店舗側から要請があった場合は、近隣店舗からヘルプ人員を派遣するのです。このシステムも、早退などによる急な欠員のサポートに役立っています。
-
Q
労働環境面で、課題に感じていること、
これから始めたいと考えていることは?
-
A
人気スタイリストになって燃え尽き症候群になりやすい、
中堅女性クルーのケアに取り組みたい。
働く女性の気持ちを「見える化」できる調査を検討中。
30代前半は男性の場合バリバリ働く世代ですが、女性は体力が落ち始める人が多いようです。ちょうどそのくらいの年齢は技術力・接客力が備わり、指名が増えて忙しくなるころでもあります。すると「やりがいはあるけれど体力的にキツイ」という状況におちいり、疲弊して辞めていく人も出てきます。そうした状況があることを、先日の「社コン」の場で聞く機会がありました。
仕事への取り組み方や貢献度を査定する人事考課の基準では、こういった彼女たちの声は把握しづらいものです。ですから、職場の満足度や協力関係を推し測れる調査を導入していきたいと考えています。
お客さまが「個人」ではなく「店舗」につく体制へ。
忙しさが個人に集中しないようにするため、お客さまが「人(クルー)」ではなく「店舗」につくような仕組みもすでに構築しています。これは約2年前に導入した電子カルテで、50項目ほどにおよぶお客さまのパーソナルな情報が電子端末を介して全店舗で閲覧できるようにしたもの。そのため担当美容師ではなくてもお客さまの好みや来店履歴が把握でき、出産育児による休職中、同僚にお客さまを引き継ぐ際の心理的負担を軽減することにもつながっています。
スマートな森社長の違う一面が垣間見えたのは、会議室からサロンへ移動したとき。撮影のために女性クルーに囲まれて会話してもらったところ、取材中のビジネスマンらしい毅然とした様子とは違った、やわらかい話し方に。女性クルーから「社コンのときは恋愛相談をしたことも」と教えてもらいましたが、それほどの信頼関係を築けている秘訣は、こうした飾らない接し方にもあるのかもしれません。
Company Data
先代から受け継いだ
女性支援をより強固に発展。