第2章「選択と集中」による特化型教育
「新人がミスをしてお客さんを失うことよりも、
スタッフが経験して成長することが僕には大切。」
「ALIVE」さんは「スタッフが早く育つ」点が特徴です。これは教育に力を入れている結果でしょう。
勤めていたときに中途採用の人とも出会いましたが、中途で群を抜いてすごい人って、あまりいなかったんですよね。だから新人のときの教育はとても大事だと店を出す前から思っていて、「ALIVE」が2012年の5月にオープンして、翌年の4月には新卒を3名採用しました。
スピード教育を叶えるため、どんな点を重視していますか。
うちの特徴は「やらせる教育」。どんどん任せて、経験させるようにしています。アシスタントに任せられず、自分でやってしまうスタイリストも多いでしょう。「お前はできないからダメだ」なんて、アシスタントから外されることも有名店だと結構あります。でもそれじゃダメだと思うんですよ。アシスタントってシャンプー、ブロー、カラー塗布ができれば十分。シャンプーもブローも教えれば難しいことではないし、カラーは先輩と一緒にやりながら覚える、OJT(実際の職務現場において、業務を通して上司や先輩が部下の指導を行う教育訓練)をしたらOKです。
ひと通りシャンプー、ブロー、カラーを教えたら、お客さんを担当させて実践させる。すると早く育っていく実感があります。野球でたとえると、試合に出すのと、練習やボール拾いばかりしていた人とを比べたら、3年後には大きな差が開いているでしょう。生のお客さんを感じるって、すごい成長につながりますからね。だからまずは、打席に立たせる。
カットだけはOJTというわけにいきませんが、シャンプーやカラーの教育に余計な時間をかけないぶん、カットの教育に十分時間を割くことができます。うちのスタイリストデビューは平均3年でそんなに早いわけでもないですが、その3年間にお客さんに対する場数はたくさん踏んでいるので、デビューした時点で度胸がしっかり身についています。
確かにシャンプーひとつでも、完ぺきにできるようになってからお客さまを担当させるサロンも多いでしょう。それはお客さまに対して「間違いを起こしてはいけない」という配慮からくるものでしょうが…。
みんなお客さんを第一に考えていて、指導もお客さん目線だから完ぺきを目指すんですよね。でも僕は、アシスタントがミスをしてもいいと思っています。極端に言えば、たとえミスによってお客さんを失っても構わない。お客さんよりスタッフとのほうが長い付き合いになるんだから、彼らがいい美容師になってくれることを重視しています。
詳細なカリキュラムがあるわけではない?
僕はカリキュラム否定派なんです。デビューまでに膨大なチェックリストがあって、何でもできる美容師を目指す風潮ですよね。でもこれからは、トータルビューティーよりも「特化型=スペシャリスト」が支持されると思うんです。
無駄に何もかも覚えるより、得意なことがひとつあるほうがお客さんはつくものです。これって考えてみたら昔からそうで、有名美容師といわれる人たちは「◎◎さんといえばボブカット」みたいに、カラー、パーマなどその人の代名詞になる強みがある。支持されるのは、「強みがある人」なんです。
つい、あれもこれもできないと…という思考になりがちです。
「選択と集中」は大事です。うちは店としても必要な技術を絞り込んでいます。メンズカットは他店のほうがいいですよ、というスタンスですし、うちはストレートパーマの需要もないのでやりません。ごくたまに希望する人がいても、そのために何百時間も練習をするなんで無駄でしょう。絞り込んだほうが、スタッフが覚えることも厳選できて効率的です。ラーメン店が週に1人注文するかどうかのカレーの用意をするよりも、ラーメンに絞って在庫を抱えたほうが管理しやすいというようなものです。
そうしてスペシャリストを目指す教育の成果の代表といえるのが、2015年に新卒入社した中村雄樹さんですね。入社1年後にカラーリストとしてデビューし、ハイライトを武器にしてデビュー7カ月で月間売上120万円を突破。デビューの1年後、つまり入社2年後には月間売上230万円を達成しています。
ここで少し、中村さんにもお話に入っていただきます。「ハイライトに特化して勝負する」というのは狙ったものですか。
(中村さん)フリーで来店されたお客さまを担当したとき、ハイライトがとてもうまくいったのがきっかけで、たまたまなんです。写真もきれいに撮れて、インスタ(=SNSのInstagram)に上げたところすごい注目してもらって。それで僕は、「ハイライトでいこう」と決めました。
インスタのフォロワー数も現在は1万5000人以上。近年はインスタも重要な集客ツールですが、投稿する際に工夫している点はありますか。
(中村さん)検索性を重視しています。インスタをきっかけに来店されたお客さまの話を聞くと、僕の名前で検索して見つけているわけじゃなくて、「ハイライト」というワードで調べて知ったという人がほとんど。だから僕の名前を売ることより、「ハイライト」「グラデーションカラー」といったハッシュタグをつけること、写真も背景は白くしてヘアカラーが目立つようにすることを意識しています。多い日には1日50件くらい投稿しているんですが、これも検索したときに新着順で表示されるため、常に上位にいられるようにするためです。
50件も投稿するとなると、素材となる写真の用意が大変では?
(中村さん)毎回撮り下ろしているわけじゃなくて、人気が高かった写真は繰り返し投稿しているので撮影が大変ということはありません。フォロワーさんもたくさんいますが、その方たちが来店されているわけではないんですよね。検索して初めて知って、それで来店してくれるんです。だから「前もこの写真を見た」と思われるかな、とか気にせずに繰り返し投稿しています。美容師はプライドが高い人が多いように思うのですが、結果じゃなくてプロセスにプライドを持ってしまっているというか…。それよりは結果を出すために、いろいろトライすべき。“プロセスではなく、結果にプライドを持つ”ことが大切だと思っています。
「同じ写真は投稿しない」と思いがちですが、それは新しい考え方ですね!中村さん、ありがとうございました。西川さんにお話を戻しまして、中村さんのこうした取り組みはどのようにとらえていますか。
いやぁ、いいこと言うなぁ(笑)。確かに見る人が同じわけじゃないから、同じ写真を気にせず投稿する彼の柔軟さは感心しますね。
中村さんのように得意分野を伸ばしていくため、マネジメントで大切にしている点は?
最近の若い子たちは自分がやりたいことがはっきりしています。だから僕は彼らがやりたいこと、好きなことに関する彼らの現状と、お客さんを呼べるレベルとの間にあるギャップをなくすサポートをしています。技術が未熟ならそこを重点的に教育したり。うちはちょっと落ち着いたグラデーションカラーが売りなんですが、もっとビビッドなカラーをやりたいという子がいたらモデル撮影をして発信して認知度を上げたり。
あとは「ほめる」ようにしています。やったことに対して「ちゃんと見ているよ」と伝えてほめる。また、挨拶や協調性、自発性など9項目を設定して、それぞれの1位、2位を毎月表彰して手当をつけています。
そうすると結構な人数が表彰されることになりますね。
そうですね、ほめるためにやっていることなので、ほとんどのスタッフが表彰の対象者になります。できないことを責めるより、できたことを認めるほうがいい。でもこんなふうにほめるようになったのは3年前くらいからです。以前は自分の中に「こうあるべき」という正解があって、そこから外れていると気になってしまうタイプでした。自分が現場の仕事から少し離れるようになってから、ほめる教育ができるようになったんです。