4
今後、生き残るのはたくさん失敗する人。
千葉
最近は「働き方改革」なんて言われて、組織人、起業する人、箕輪さんのように従来にとらわれない人…とさまざまな働き方が生まれています。今後、生き残るのはどういう人だと思いますか?
箕輪
「たくさん失敗をする人」ですかね。変化が速く不確実性が高い時代になって、みんな何をすれば正解なのかわからない。失敗を避けようとして念入りに下準備しても、いざ着手したらすでに時代遅れだったりする。実際にやってみないとわからない、細かいツボって無数にありますよね。だからこういう時代にうまくいくのは「トライすることを楽しめて、失敗しながら成長していく、チャレンジできる人」だと思います。
失敗しても「あれ?あっちだったか!」と軽く思えるくらいがいい。ゲームみたいに何度もプレイして、コツを見つけていくことが大事ですよ。
千葉
この記事の読者は、美容業界で働く人たちです。供給過多と言われるほど競争が激しい、賃金が低い…など、課題感を抱えている人が多くいます。こうした業界で、勝ち抜くためのアドバイスをいただけますか。
箕輪
うちのサロンメンバーにも美容師さんをはじめ、美容サロンの人は多いんですよ。みんなの話を聞くと、単価を上げられないこと、労働集約型で売上が頭打ちであること、そういう状況で店舗展開をするリスク、といったことが共通の悩みですよね。それをふまえて考えると、「何を売るのか」を見直すことが大事だと思います。
僕で言うと単なるハウツー本ではない、「ノウハウじゃなくてスタンスを売っている」と考えています。体制に向かっていくスタンス。これは本にとどまらず、何にでも転換できます。トークイベントにもコミュニティにもグッズにもなります。
千葉
たとえば?
箕輪
美容室だったら、単に技術が高いだけじゃなくて「こういう雰囲気」「っぽさ」を売る、と考えるといいんじゃないかな。「箕輪さんっぽい」ってイメージが浮かぶことありますよね?いい加減で生意気で…とか。嫌いな人もいるけど好きな人にはハマる。そういう、「何々っぽさ」を打ち出さないといけないし、美容ってそれがやりやすい業界だと思うんですよね。
「技術じゃなくて、世界観を売る」と意識を転換する。技術じゃないって言いましたけど、「◎◎スタイル」みたいなヘアスタイルを確立するところまでいけたらアリ。そういうブランディングを確立できたら、「◎◎っぽい洋服、バッグもほしい」って広げることができます。
千葉
美容室の場合、「サロン」と「美容師個人」、2つのブランディングが考えられます。どちらが大事だと思いますか?
箕輪
それは圧倒的に「個人」だと思います。個人の集合体として、サロンがある。まず個人にファンがついていて、個々ががんばり、支え合うから看板が強くなる。オーナーは全体の世界観に合ったスターを連れてきて、さらに看板の強さを補強していく。
「NewsPicks Book」で言えば、僕はこのレーベルに合う起業家に執筆を依頼する、そして本が売れてスターが生まれる。そうすることで「NewsPicks Book」のブランド力がまた高まる…っていう感じです。
千葉
人手不足というのも、美容業界の課題です。
箕輪
かつては労働の対価が、お金や労働条件しかなかった。よっぽどひどい環境でない限り、給料がよければ人が集まりました。でもいまは、「この店だから働きたい」という層が増えています。「ブランドを報酬として受け取りたい」って考え方です。
「NewsPicks Book」で出した『モチベーション改革(尾原和啓 著)』という本に、モチベーションの源泉である“欲望”には「達成・快楽・意味合い・良好な人間関係・没頭」があると書かれています。「うまいものを食べて、いい女と結婚する」みたいなのが「達成・快楽」で、昔はこれを望む人が多かった。でもいまは生まれたときから、サイゼリヤやユニクロで、おいしいもの・洋服が手に入る。それで満足している人にとっては、好きな人と楽しく働ける「良好な人間関係」や、自分がそこで働くことの価値・世の中に対する意義などの「意味合い」が大事になるんです。
千葉
確かに、そうですね。
箕輪
だからこの「5つの欲望」を満たす環境を用意することが必要だと思います。5つの比率はそのサロンによって違うだろうけど、もはや「お金だけじゃダメだ」ということを認識する。そして自分のサロンは、働いてくれる人に「何を対価として渡せるのか」を考えることが大事です。
「達成・快楽」のために突き進んできた従来の成功者からしたら、「何を生ぬるいことを言ってるんだ、石ころでもいいからとにかく売ってこい!」と思うかもしれないけど、それは通用しない。「給料がよくても石ころなんて売りたくない。売って世の中の役に立つ?Twitterで誰も“いいね”くれないっすよ」と考えるのが現代の若者です。
千葉
「達成・快楽のためにガツガツ突き進んだ世代」と、「お金以外に価値をおく世代」。箕輪さんはその“はざま”の年代ですよね。
箕輪
そうですね。僕自身、お金がほしいと思うこともあるし、そんなものいらないとも思うこともある。見城さんと藤田さんの共著『憂鬱でなければ、仕事じゃない』みたいな、圧倒的努力にも共感する。オンラインサロンのメンバーが「楽しければいい」なんて言ったら「そういうことは何か成し遂げてから言えよ!」って言っちゃいますし(笑)。
一方で、「成功者になりたい」って人には「何者かになる意味って何?楽しかったらよくない?」と言うこともある。どっちの感覚も“自分ゴト”として理解はできます。
千葉
最後に。これだけ個人で活躍しつつ、いまも幻冬舎の社員でもあります。今後はどのように考えていますか?
箕輪
幻冬舎は辞める理由がいまのところないので、どうこうしようとは考えていません。幻冬舎に所属しているほうが本をスムーズに出せるし、僕自身は本で儲けようとは思っていないですから。
編集者の仕事って、僕にとっては「仕入れ」なんです。普段の飲み会では話さないような深い話が聞けて、そこで集めた「原液」は、別の仕事にも役立つ。極端な話、仮に給料がなくたって僕にとって必要な作業です。そして本が売れることで、僕自身のブランドが強くなる。本を作ることが自分の強みであり、根源。だから、これからも「編集者」として生きていくつもりです。
でも実は、待合せ場所にはいつも約束の時間より早く到着し、見送ってくれる時は頭を3回下げていたりと、生真面目な一面が伝わってきます。
そして時に、作家やビジネスパートナーに手紙を書き、綿密な計算と地道な行動で、ポイントをおさえにいく。
この“超緻密×超大胆”な仕事っぷりこそ、
彼が「箕輪厚介」というブランドを手に入れた理由に、ほかなりません。