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離職続きだったヤッホーが競争率100倍の人気企業に
千葉
スタッフの方が「ファンを喜ばせたい」と、自発的に動いてくれるのはなぜでしょう?
井手
まず、「自ら考えて行動しよう」という文化がベースにあります。人って、指示されると後ろ向きになってしまいがちですが、「自分がやりたい」という能動的な気持ちがあれば、自然と「いいビールを提供したい」「喜ばせたい」となる。それを加速させた最たるものが、ファンイベントでした。
あとはチャレンジするマインドを育てるために、たとえうまくいかなくても「次に活かそう」と、失敗を許容する。「どうしてくれるんだ」なんて一度でも責めてしまったら、そのスタッフは次に何か思いついたとしても、言い出せなくなってしまうと思うからです。
千葉
井手さんがスタッフに、怒ったりすることは?
井手
ないですね。あ、僕が「仏」ということでは全然ないですよ!家では毎日、子どもを叱っていますから(笑)。うちのスタッフはみんな優秀で、怒るようなことをしないんです。
逆に、いい取り組みをしたら「すごいね!」「ありがとう!」って、素直に褒めます。本心でそう思っているので、それが伝わるように。
千葉
(この日の取材はオンライン)あ、いまチャットで、井手さんのアシスタントさんから「直接でも、オンライン会議でも、メールでも言ってくれます!」というコメントが(笑)。
井手
あはは!ありがとう(笑)。
千葉
そういったやりとりを見ていても、会社の雰囲気のよさが伝わってきます。
「2021年版 日本における“働きがいのある会社”ランキング」の中規模部門(従業員100-999人)で、ヤッホーブルーイングは18位。2017年から5年連続「ベストカンパニー選出」というのは、すごいですね。
井手
ランキングの上位を占めるのは東京にあるIT企業など、いわゆるホワイトカラーの企業が多く、我々のような地方のメーカーがベストカンパニーに選ばれるのは珍しいと思います。それは、職種に関係なく、“働きがいを感じられる仕組み”があるからです。
創業4年目の2001年~代表に就任した後の2010年くらいまでは、会社の業績が振るわず、人がどんどん辞めていった時期がありました。なので“チームで働ける会社”をつくろうと。「チームビルディング研修」を10年以上行ってきました。これを体験すると、みんなで同じ方向を目指して目的を達成することが、どれだけ素晴らしいかを実感できるようになり、“働きがい”に直結します。
また「プロジェクト制」というのもあって、これは仕事に費やす時間の2割を、自分の担当部署以外の、好きな仕事をするというもの。知識や経験の有無は関係ありません。製造担当や出荷担当が、畑違いのイベントの企画運営をすることも。自分が興味のあることなのでモチベーションもあがり、スキルの幅も自発的に広がっていきます。
千葉
ほかに、独自の取り組みは?
井手
フラットな関係性づくりのため、全員「ニックネーム」で呼び合います。僕自身もスタッフやファンの方から「てんちょ」と呼ばれていて、みんな砕けた雰囲気で話しかけてくれますね。
部署名も変わっていて、代表取締役である僕は「よなよなエール愛の伝道師」、物流なら「ハッピーお届け隊」、人事・総務は「ヤッホー盛り上げ隊」。そのほうが、自分たちの使命を理解したうえで、働けると思うからです。
千葉
一時は離職に悩んだとのことでしたが、現在は?
井手
ここ数年、全国から採用応募者が飛躍的に増えました。社長に就任した頃は、求人広告を出しても一人もこなかったのが、信じられないくらい…。現在は選考基準も厳しく、競争率は約100倍です。
採用サイト、会社説明会などでも繰り返し「こういう企業理念・カルチャーがある。ここにフィットできない人は、せっかく入社してもお互い不幸になるだけです」とはっきり伝えています。
またチームビルディングなどの取り組みも功を奏して、何かプロジェクトを発足させるとき「一緒にやってくれる人、いますか?」と声をかけると、「はい!はい!はい!」「やります!参加します」と名乗り出てくれる。そのような感じで、スタッフが自走してくれるようになりました。
千葉
「優秀な人が全国から集まり、さらに会社が成長していく」というサイクルが生まれているんですね。
井手
従業員満足度も、10年前に比べてとても高くなっています。今後はさらに、一人ひとりのスタッフがもっと「こんなに幸せな会社はない」と思えることを、みんなと一緒に考えていきたいです。
すでに動き出していることでいうと、「地域の社会貢献活動」を今期から一生懸命やっていて。そうした活動が、自分の会社に誇りを持つことにつながっているようです。