第3章スタッフのため自分のために挑戦は続く
「事業構想は無数にある。
数十億円規模のビジネスに挑戦したい」
「オトコネイル」の教育メソッドは他社に公開されているそうですね。それはなぜ?
ネイル業界全体が活性化しないといけないと思っているからです。うちは男性専用のサロンだから成功したのではなく、やるべきサービスや技術ができるように教育してきた結果、生き残れたのです。私は他のサロンさまの相談を受けることもありますが、「お客さまの声を聞いていないな…」と思うこともあります。そうしたサロンが多い現状において、うちも完ぺきではないけれども、お伝えできることは伝えたいと思っています。
ネイル業界の課題だと感じられている点は?
私たちは「サービスを提供しているのだ」という自覚が必要かなと思います。このコロナ禍で来店してくださったお客さまから、あるとき厳しい声をいただきました。「僕らがここに来る気持ちを考えてほしい。こうしたピリピリした状況でここに来るのは、いい接客、いいサービスを受けたいからなんだ。いまは下手な接客を受けたくはない」と、当時の新人達を名指ししてご指摘があったのです。
いまの時代、そこそこよい商品ってありふれているでしょう。だからこそ「価値ある接客じゃないと嫌だ」とお客さまは考えているんだと気づかされました。そして、お客さまからは「満足ゆくサービスが受けられるなら、惜しまずにちゃんとした金額を払う」とも言っていただいています。こうした経験をふまえて、このコロナ禍の2年間で接客、サービス業の価値って上がったと思うんです。求められるレベルは高くなったけれど、こちらもしっかりとしたサービスを提供すれば期待に応えられる。そうして結果を積み重ねていった先に、ネイリスト全体の社会的地位の向上があると考えています。
ネイリストの社会的地位向上を実現するには、何が必要だとお考えですか。
近年は女性の社会進出を推進する動きもありますが、そもそもの女性自身が働くことへのマインドセットがされていなかったり、知識不足を感じることも…。私は女性も自立して働くべきだという考え。ですがせっかく時間とお金をかけてネイリストになっても、結婚したら辞めてしまう人も多くいます。仕事を通じて人間としての学びや成長はずっと続くのに、もったいないなと思うんです。
そういうマインドの部分も必要ですし、たとえば全体ミーティングで事業計画書の説明をしても店舗運営に必要な売上の規模感も把握していないし、税金や保険のことも知らない。キャリアパスで次のグレードに行くには月の売上目標が60万円だと話すと、「店舗全体の売上ですか?」なんて言われて。それじゃあなたたちの給料はとても払えませんよ!と店長がびっくりすることも。そういう子が不満を訴えてきて、話をよく聞いてみると、知識不足からくる発言だったんだなと思うことも…。だから社会的地位を高めるにはまず、そういう仕組みの部分から教育することが大切だと思っています。
メンズネイル市場について、一般の方に根付くまでは至っていません。今後はどうなるでしょう。
どんどん波に乗ると思います。ここ2年でメンズ美容の市場は広がっています。それはSNSの力が大きいと思っていて。火付け役は若い世代で、彼らがSNSで発信している。そして40代以上の方でもコロナ禍でSNSを始めた人が多くいるため、上の世代もメンズ美容を目にする機会が増えています。
いまはまだ「よく目にするようになった」状況ですが、それはビジネスチャンスがある段階に来たと言えます。現状のメンズ美容のお客さまは若い世代が中心なので単価が低いけれど、年齢層が上がればうちのような高単価市場もふくれ上がっていきます。メディアの勢いは止まらないので、この波も衰えはせず伸びていくと思っています。
店舗展開や業態の拡大については?
店舗展開はしたいですが、現在は既存店舗でも人手が足りず、求人が追いついていません。ここが解消されないと、積極的な店舗展開はできません。また、コロナ禍が明けると人の流れも変わるでしょうし、そこも見極めて考えたいですね。
業態や事業の拡大については、いろいろ試したいと構想していることはあります。男性、女性を問わずに美容市場ってまだまだやれることがいっぱいあるなと思っているので。市場規模が大きいと、企業としても一番成長できますから。「オトコネイル」はニッチすぎて分母が少ないので、ここまで来るのが本当に大変でした(笑)。
市場が大きい女性用ネイルなら、私ならこうする、この方法ならもっと上に行けるなって考えはあります。「オトコネイル」は専門性が高すぎるというウィークポイントもわかっているので、今度はそこを全部クリアしてイチから始めたらどうなるかな…って考えたりもします。案はたくさん出しておいて、タイミングを見て動き出したいですね。
最後に、坂下さんの夢をお聞かせください。
このコロナ禍を一緒に頑張って乗り越えてくれたスタッフたちにネイリストとして輝いてもらうこと。輝くためのキャリアプランとか人生プランをサポートしたいですね。うちはネイルサロンとしては一定の評価をいただくようになりましたが、イチ企業としてはまだ社会に認められてはいません。だからここで満足することはなく、「あのオトコネイルのネイリストだなんて、すごいね」って言われるようにしてあげたい。
もうひとつは、経営者としての評価の部分。経営者が評価されるのは“数字”という結果のみです。これからもっと、何億、何十億って結果を出せるようなビジネスに挑戦していきたいと思っています。
それは、お客さまが口コミで広げてくれるようになったからです。
以前は「男がネイルをしていることを言うのは恥ずかしい」という風潮が強く、
サロンに通っていることを内緒にしているお客さまが多かったとか。
「私の名前は覚えられなくてもいい。オトコネイルというサロン名を覚えてもらえれば」と語った、坂下さん。
男性ネイルが、少しずつ文化として定着してきているのを感じます。
その一端に、「オトコネイル」の存在があったことは間違いありません。