第3章未来の「美容師の芽」を育むために
「未来はわからないけど、常に変わっていきたい。
ただ、美容師ではあり続けたい。魅力的な美容師で。」
どんどん新しいことを手がけている北原さんが思い描く、10年後の美容サロン像はありますか。
10年後について、今の段階で言えることはないかなぁ・・・。5年先でも自分が何やっているか我ながらわからないしね(笑)。この前始めた「SALON“アンド”」だって唯一の正解だとは思ってないです。現に、いろんなコンテンツを揃えた「SALON“アンド”」とは真逆のサロンも2015年11月に大阪にオープンさせました。こちらは真っ白な空間にシャンプー台とカット面だけ用意していて、店名は“余白”と“箱”からとって「ヨハコ」。いわゆる面貸しのサロンですが、自分としてはアトリエやスタジオのように使ってほしいです。ヘアアーティストやフォトグラファーとか若い人が出入りして、「新しいものを生み出す実験室」という感覚かな。
将来的には、美容室とは違うことをしていることもありそうですね。
飽きっぽくはあるけれど、ハサミは持ち続けていたいし、美容室であることにはこだわりたい。そこを離れたら違うなっていう想いはあります。今も「SALON“アンド”」や「ヨハコ」など自由にやらせてもらっているけれど、それも「SORA」という母艦、戻る場所があるからできるんです。
理容師、美容師と経験した僕が思うのは、どちらにしろ「技術は人とつながるツールだ」ってこと。そしてファッションショーなどで外の世界を見たからこそ、あらためて美容室のお客さんのありがたさがわかりました。たとえばショーでヘアメイクの仕事依頼があったとします。僕の都合が悪かったとしても、そのショーの日程は変わらない。僕の代わりは、他にいくらでもいる。でも、今来てくれているお客さんは「あなたでないとダメだ」と言ってくれる。僕のために時間を合わせてくれる。なかには親子3代で利用してくれるお客さんもいるし、人生の大切なイベントごとに来てくれる人もいる。これってすごいことですよね。
ただ僕は経歴からしても正統派サラブレッドとは違うので、「アイツまた変わったこと始めたな~」って思われるような立ち位置でやっていきたい。美容師としてのスタートが遅かったので、そのぶんムチャしたいっていう想いもありますしね。僕の話、あまり参考にならないでしょ(笑)。マネはおすすめしません。だって誰かみたいになりたいって考えた時点で、もう「永遠の2番手」になってしまうと思うから。
美容業界の未来を考えたとき、近年問題視されている「美容師のなり手不足」も気になるところです。北原さんが考える改善策はありますか。
僕は美容専門学校で講師もしていますが、美容師を目指す学生に志望理由を聞くんです。そうすると「自分が美容室で大きく変わって感動した」か、「憧れるような美容師に出会った」という2つにほぼ絞られます。なりたい人が減っているんだとしたら、それは今、美容師である自分たちの魅力が問われているんだと思う。魅力というのは流行の髪型ができるとかじゃなくて、目の前のお客さんにオートクチュールのものを提供できること。たとえば「こんな髪型にしてください」ってお客さんがいたとします。そのときに「あなたの場合は、これよりあと5mm前髪を短くした方が似合う」とか、ちゃんと “提案”ができるかどうか。
お客さんが自分に会いに来てくれるなんて、ほんと幸せな仕事です。そして「私もあなたのような美容師になりたい」って、そう思ってもらえる、魅力ある自分でいないとね。
「北原ってこういう人って、イメージを固定されたくない。美容室にしてもワンマン経営でずっと同じことをしていたらダメになっていく。『SORA』も”SORA=北原“というイメージが強くなってしまって、それでちょっと離れたくて『SALON“アンド”』を始めたって部分もあるんですよ。僕はこの先もずっと、アイツってよくわからないよね~と思われることが本望(笑)」。
直感とアイデア、そしてそれをカタチにしていく行動力。取材場所だった『SALON“アンド”』同様、たくさんの魅力が詰まった方でした。