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第1章
すべてを失った20代。そこから見えた「真の幸せ」とは?
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第2章
「許すこと」が自発性を育て、次のチャレンジを生む
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第3章
弱い人間こそ上に。それが強い組織をつくる
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第4章
これから勝ち残るのは、「個の力」を活かせる企業
第2章「許すこと」が自発性を育て、次のチャレンジを生む
「 “ミス”は、トライしたからこそ起きるもの。
それを否定したところで、何も生まれません。」
リラクゼーションスタジオ1号店のオープンから13年。現在はフランチャイズ店を含めると約170店舗で約1000名を雇用されていますが、1号店のオープン時は?
最初は自分が店長で、スタッフは16人。でもなんと、1カ月でそのうち13人が辞めちゃったんですよ。オープン当初は赤字で、スタッフも不安だったんでしょうね。オープン前にITコンサルタントで貯めた資金もあったし、有名な屋内型テーマパークにオープンするリラクゼーション施設のコンサルタントも始動していたので、僕はさほど危機感はなかった。だからスタッフを集めて、そうした状況や、今後1年間で4店舗オープンする計画を話しました。ところがその翌日から、1人辞め2人辞め・・・、ついに残ったのは3人だけになりました。
事業資金や出店計画があるという話は、モチベーションアップになりそうですが?
実際に4カ月後には黒字に転じて、1年後には4店舗オープンも実現したんですが・・・。スタッフにしてみたら「そんな夢みたいな話をされても信じられない」と思ったようです。普段からビジネスの世界にかかわっている人には通じる、わくわくする話でも、お客さんが来なくて不安に感じているスタッフには通用しない、不安な話でしかなかったのです。僕の伝え方がいけなかったんですね。「あなたが働きやすい環境を用意する」とか「キャリアアップする仕組み」とか、もっと身近で実感できることを伝えるべきでした。「相手の視点に立って話す」「難しい伝え方はしない、とにかくわかりやすく」。それが、僕が学んだ教訓です。
「リラク」の企業理念や会社案内がとてもわかりやすいのも、そうした考えがベースになっているのですね。ほかにスタッフの教育・育成で、大切にしていることはありますか。
「自発性を尊重して許すこと」です。自発性というのは元来、多くの人が備えているもの。ところが何かミスをしたときに怒られると、萎縮して自発性が失われるというパターンが多くあります。ミスというのはトライしたからこそ起きるわけで、それを否定されるとトライしない人間になってしまう。だから怒るのではなく、許すことが大切です。「許す」とは、その本人を「認める」こと。許され、認められた経験は、本人に内的成長をもたらします。「よし、次はがんばろう」という動機づけになるんです。
意地の悪い考え方をすると、なかには奮起する気概のない人もいるのでは?
それにはいわゆる「2・6・2の法則」を受け入れる必要があります。集団・組織になると「優秀な人2割、普通の人6割、なかなか力を発揮できない人2割」にわかれる傾向は実際にあって、変わらない人がいるのも承知しています。だとしても、なかなか力を発揮できない2割の人たちを切り捨てたらどうなりますか?人員を補充する労力やお金をかけたすえ、新たな下層の2割が生まれるだけです。さらに、「ミスをしたら切り捨てられる」という不安をスタッフに植え付けることになる。結果的には人の心もお金も失うだけで、いいことは何もありません。
それに多くの場合、人は環境で変わることができます。問題児とされてしまったスタッフが別の店舗に異動した結果、見違えるように成長した姿を何人も見てきましたから。
失敗を許し、認める・・・。お話を聞いていると納得できますが、実際にできるかと考えるとなかなか難しいですよね。でも「リラク」では、そうした考えが徹底されています。スタッフみなさんの意識を統一して、実践させるコツは?
彼ら自身も失敗を許された経験があるからです。自分がされたことを、今度は後輩に実践しているのがひとつ。あとは「リラク」の理念やスタッフの行動指針を言語化した「クレド」の存在。これを全スタッフで共有している結果が、行動に表れているのだと思います。
社員教育に「クレド=信条・経営理念」を導入したという話はほかでも聞きますが、単なるお題目に終わっている企業も多いようです。「リラク」ではどのように運用して、実践に結びつけているのでしょう。
とにかく、毎日、繰り返し、クレドにふれることです。「リラク」のクレドは大きくわけて「For you mind」「Professional mind」「Human mind」の3つあります。その内容を14項目記載した携帯用の「クレドカード」と、クレドの意味することや行動例を冊子にまとめた「クレドブック」を全スタッフに配布しています。そして毎日クレドブックに沿って、日替わりでひとつのクレドについて話し合いの場をもちます。
たとえばクレドの1番「私はどんな時も相手の気持ちを感じとり思いやりのある行動をします」がテーマの日だとします。参加者は「最近見かけた思いやりのある行動」や「相手のためにこうすべきだったけどできなかったこと」など、自分の経験や想いを共有していくんです。
これを繰り返しやり続けると、本当に変わりますよ。うまくいっていない店舗へ行ってクレドを上手に取り入れるためのサポートをすると、結果的に売上アップに転じます。こうした活動は社内の「クレドチーム」によるものです。このチームは正式な部署でもなく手当もない純粋な有志によるもので、クレドの内容から考えてくれました。
毎日クレドにふれ「For you」の精神を我がものにしたスタッフは、仲間と一緒に相手のためにがんばりたいと考えるようになります。ある種、「クレドという誓い」の信者になるんです。