第2章ロングライフ美容師
「今年の11月で、65歳。
“いつまでやるの?”と聞かれることも(笑)」
今も現役でサロンワークをされています。第一線で活躍し続けられる秘訣は、どこにあるのでしょう。
今年の11月で65歳になるので、同じ時期に独立した友人たちからは、「いつまでやるの?」と聞かれることも(笑)。ありがたいことに、お客さまからは「ずっと続けてね」と言ってもらうこともあります。自分としては、サロンワークのスピードが落ちている感じはないし、お客さまも減っておらず、新たな紹介のお客さまも…。いろんな活動や人との繋がりのなかで、まだまだ新しいことが生まれています。
僕が若い頃、憧れた美容師の先生方がいました。素敵な先輩がいるというのは大事なこと。自分がそうなれているかは別として、同年代の方や、これからの方にとって、ひとつの羅針盤になれたら、という想いはあります。
特に男性美容師さんは40代以降、指名が落ちてしまうという声を、多く聞きます。
例えば、スポーツ選手だと年齢を重ねると走るスピードが落ちてしまったり、勝ち星をあげるのが難しくなる場合もあります。
でも、美容師って年齢であきらめる必要がないと、僕は思います。不器用で売上があがらなかった人でも、丁寧にお客さまに接していくなかで、「いい仕事しているね」って言われるようになることもあります。
美容には、終わりがないですよね。トレンドもあるし、薬剤も日々進化する。いろんな変化があるから、休む間がない(笑)。でも、だからこそ自分も成長できる。長く続ければ続けるほど、その良さもあるし、難しさもある。やりがいを深く感じられる職業だと思います。
小松さんの著書『RESET. REPLAY. RESTART.』(女性モード社/2022年発行)では、“ロングライフ美容師”と表現していましたね。
僕のように現役でやっているおじさん美容師を、“ロングライフ美容師”と言うのかなって。そう唱えることで、自分のなかにも責任が出てきます。
長く活躍するために、日頃から気をつけていることはありますか?
月並みですけど、やっぱり「健康」は大事。メンタルが落ちると、体にも影響してくるし、その逆もあります。コロナ禍になってから飲む機会が少なくなったこともあるんだけど、ストレッチやスクワットを始めました。食べ物にも、より気をつけるようになって、結果睡眠の質も上がった気がします。
あとは「清潔感を失わない」ことと、「新しいものが好き」なこと。これらは、どの仕事でもみんなそうだし、長くやっていくうえで必要ですよね。
確かに、小松さんはすべて体現されています!
清潔感は、若いスタッフに嫌われないように、結構ささやかな基準ではありますよね(笑)。でも、これが結構難しい。
非常によくわかります。僕も50歳になって、その難しさを実感しています(笑)。
「新しいものが好き」でいうと、小松さんはコロナ禍でYouTube「チョッキン倶楽部!」をスタートさせたり、新たなSNSであるThreadsもされていますよね。
健康と清潔感がベースにあれば、新しいものに興味が湧き、技術やセンスが生まれてくると思います。好奇心が尽きないのは、どこか少年なんでしょうね(笑)。想像すること、妄想することが、やっぱり楽しい。
美容師という仕事を、とても楽しんでいるのが伝わってきました。
長い間、美容業界を見てきた小松さんが、昨今の美容業界について思うことはありますか?
最近よく「秒速で」って言葉が使われていますよね。もちろん、なかには秒速でできることもあるけれど、それは人マネでしかないのかな、って。自分やサロンが、“ここにしかない特別な存在”になれたほうが、充足感や幸福を感じられるんじゃないかと思うんです。
ただ、それは実際に積み重ねてみないと実感できないこともあります。僕も、若い頃はわからなかったから。
あ、今ちょうど山菜の時期だけど!子どもの頃は、田舎にいっぱいあっても、おいしさがわからなかった(笑)。でも今は、あの“えぐみ”がおいしく感じる。そうやって、歳を重ねないと、気づけないこともあるんですよ。
料理人さんや職人さんもそうだけど、美容師も “積み上げていく”ことを大事にしている人が、長く続いている気がします。