Vol.1/美容業界の常識は社会のヒジョーシキ!?
- サロンの労務知識
美容の未来のために、学びと調査・研究を
サロンオーナー必見!
須多井 リスオ(スタイ リスオ)
小尾奈 サロヒコ(オオナ サロヒコ)
赤出 ミーコ(アカデ ミーコ)
秋田センセイ
ビューティー
Vol.18で、就業規則の見本や、書かなければならないことをお伝えしましたが、それを見て「どこのサロンも同じような内容でつくればいいのでは?」と思った人もいるかもしれません。しかしそれは全く違います。就業規則は、オーナーの経営理念が反映されるものです。例えば賃金の計算方法でも、実力に伴って評価する歩合給の比率を多くするか、みんなで盛り立てるサロンにするために基本給の比率を多くするかによって、内容も書き方も異なってきます。
また、福利厚生にかかわる内容も含まれてくるため、スタッフのがんばりに対してサロンがどう応えるつもりかも明確にしておく必要があります。今までなんとなくやっていたことを、就業規則で明文化することで、スタッフが公平さを感じてくれるきっかけにもなります。
「経営方針を明確にする」とは、精神論で「みんなで会社を大きくする!」などと決めることではありません。その想いを、待遇や約束ごととして数字や具体的な行動内容に落とし込むことが、就業規則作成で必要なことです。通常、社会保険労務士がそれぞれの項目についてサロンの決まりごとを尋ねます。その際に、社会保険労務士に相談しながら、自分がサロンをどうしたいのかを、改めて具体的に考えていくとよいでしょう。
就業規則は事業場ごとの約束ごとですが、その約束ごとが労働基準法などの法律にのっとった内容であることが大原則です。
例えば、年次有給休暇はVol.11でお伝えしたように、「6カ月以上勤続して8割以上出勤したスタッフは最低10日間取得できる」と法律で決められているのに、サロン独自で「年次有給休暇は6日とする」などと規定してはいけないということです(上回る分には構いません)。それを知らずに、もしもすでに作成した就業規則に、法律を下回る日数で書いてあっても、当然その部分は無効になります。
特に注意したいのは、Vol.18のPOINT2でお伝えした「絶対的必要記載事項」の項目です。①労働時間関係はVol.9やVol.11でお伝えしてきた労働時間や休日・休暇の法律に則していなければならず、②賃金はVol.18のPOINT3でお伝えした最低賃金を下回らないように設定する必要があります。
就業規則があることは、労使双方にとってメリットがあることです。スタッフの働き方に関する基本的なことを定めたものですから、本来は理解した上で入社しているはずで、オーナーは自身が作成しているので内容を理解しているはずです。しかし、就業規則をすでに作成している会社でも、その内容を熟知している人は美容業界に限らずほとんどいないのではないでしょうか? 退職を考えたときに初めて就業規則を見る人も少なくないようです。
POINT1でお伝えしたように、就業規則はオーナーの経営理念が反映されているものです。「これだけがんばれば、こんな手当を用意しているよ」、「労働環境をよくするために、就業規則で時間外手当を明確にしたよ」などと、スタッフとのコミュニケーションにも使えるのです。
あたりまえで最も大事なことは、「就業規則は守るためにある」ということ。規則をつくってもその通りに運用されていなければ意味がありません。法律はもちろん、就業規則の内容にもとづいて、オーナーとスタッフがともに働きやすい環境をつくり、サロンを反映させてほしいものです。
「労務のキホン」は今回で終了させていただきます。今までお読みいただきありがとうございました。監修の秋田先生からみなさんへのメッセージです。
「これまで100社を超えるヘアサロンから労務に関する相談をいただきました。最近の傾向としては、トラブルを防ぐというより、深刻な採用難をどうやって乗り切るかが課題であり、その対策として『いかに労働条件を良くしていくか?』という相談が増えています。休日数の増加、残業代を明確にするなどですが、これからサロンは今まで以上にスタッフが『いかに安心して働けるか』を真剣に考え、そして実践していくことが重要ではないでしょうか?」
これからも労務についてわからないことがあった際に、ぜひ読み直してください!
監修
特定社会保険労務士
秋田繁樹さん
プロフィール:
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研代表。東京都社会保険労務士会所属。国内大手生命保険会社、大手企業のシステムインテグレーターなどを経て、独立開業。人事労務のスペシャリストとして、多店舗展開の美容室の労務管理や就業規則・社内規定などにも詳しく、多数の美容室の指導相談に当たっている。http://www.akita-sr.com/
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