Special Interview
美容業界が描く「女性活躍」のカタチ
RT HAIR CREATION
代表取締役社長 山本晋爾さん
高知県で現在10店舗を展開する「RT HAIR CREATION」。創業43年の同社は、2代目社長に山本さんが就任以降、女性スタッフが辞めないサロンへと生まれ変わりました。現在では、その経営や人事制度について学ぼうと、他県のヘアサロンからも見学者が訪れています。直営店6店舗中、5店舗に11名の女性マネジャーがいて、うち5名がママと、女性スタッフの活躍が当たり前になっている、女性活躍の理念についてうかがいました。
1966年8月岡山県生まれ。1982年、ロイヤルたかぎ美容室(現RT HAIR CREATION)入社。店長、ディレクターを経て、2000年株式会社RT代表取締役社長に就任。女性美容師の雇用環境の改善に力を入れつつ、事業拡大にも取り組んでいる。現在、グループ合計10店舗、スタッフ数約100名。
女性活躍支援の取り組み
- 時短勤務でも全員正社員
- 女性も幹部に積極的に登用
- ワーキングマザーが増える10年計画
- 評価基準に人間性も加味
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時短勤務でも全員正社員
以前は時短勤務の女性スタッフはパート雇用だったが、現在は時短でも全員正社員として雇用。時間が短い分はフルタイムより給与は減るが、給与体系の考え方や待遇、キャリアパスなどはフルタイム社員と同等。
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女性も幹部に積極的に登用
直営店6店舗のうち5店舗に11名の女性マネジャーがおり、うち5名がママ。働き方にかかわらず、実力と人間性を認められれば、幹部に登用している。
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ワーキングマザーが増える10年後の未来予想
2013年からスタートした「RT Next Door」という10年計画では、当時27名だったワーキングマザーが10年後の2023年には60名まで増えている未来予想を立てている。
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Q
現在ママである女性スタッフが30名、子どもがいる女性マネジャーも5名と多いですね。もともと「女性活躍」に取り組んだきっかけは?
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A
「育休復帰後もマネジャーを続けたい」と意思表示したスタッフがきっかけになりました。
やる気のある女性スタッフの育休復帰をきっかけに、パート制度をなくして正社員での時短雇用を始めた。
以前から子どもができても仕事を続けている女性スタッフはいました。しかし、時短勤務の場合はパート雇用だったため、キャリアに対して本人の意欲が下がる傾向にあったのです。また、まわりもまだ、子どもがいるスタッフに気遣いをする風土ではありませんでした。業界的にもそれが当たり前だったのかもしれません。
転機は、現在取締役でもあり、「Viviean Rosso」のディレクターを務める大﨑ゆりの出産でした。14年前、当時もマネジャーだった大﨑が育休から復帰する際「マネジャーとしても、個人としても売上を落とさないので、復帰後も正社員でマネジャーとして働かせてほしい。お給料も出産前と同じだけほしい」と言ってきたのです。前例がなかったですし、当然勤務時間は短くなるので「無理なのでは」と思いましたが、彼女は有言実行タイプでそれまでも高い実績を残していました。だから彼女ががんばりたいという気持ちを応援したいと思い、希望を受け入れることにしました。
正社員ワーキングマザーの誕生で、現在は産休復帰100%に。
大﨑が育休から復帰してきたとき、時短勤務のマネジャーとしての復帰は初めてだったので、まわりのスタッフとの摩擦もあったようです。けれど、大﨑は子どもがいることを言い訳にせず、実際に復帰した月からいきなり出産前の8割の売上を上げるなど、本当に実行しました。それ以降も、短時間で生産性を上げるために、平日や午前中の集客を工夫するなど、子どもがいる女性スタイリストの可能性を示したのです。大﨑のがんばりを見て、パート制度をやめました。産休・育休復帰後でも、時短の正社員として出産前と同じように活躍してもらうことで、現在では出産で辞めるスタッフはおらず、産後100%戻ってくるようになりました。
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Q
プロセス重視の評価制度や、ワーキングマザーの目標数なども設定した長期経営計画を打ち立てていますが、きっかけと内容を教えてください。
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A
環境を整えることだけでなく、「スタッフたちが会社や仕事に本当に求めていることは何か?」を真剣に考えました。
制度を整えても、辞めるスタッフはいる。スタッフが辞めない会社像を考えた。
当社では早い時期から、完全週休二日制にしたり、労働条件の改善や社会保障制度の導入など、スタッフの働きやすさを考えてきたつもりです。しかし、それでもスタッフが辞めることがある。産休後にせっかく復帰して、時短で働きやすくしたはずなのに、しばらくして辞めてしまったスタッフもいました。スタッフの退職は経営者にとっての悩みであり課題です。「どうしたら辞めないか?」を考えたとき、制度や待遇だけではダメなのではないかと。
そして、「美容師をやっていてよかった」と感じられるときをイメージしてみると、やはり「お客さまに喜んでもらえたとき」だと原点回帰したのです。さらに、働く人としてまわりのスタッフや家族からも「ありがとう」と言ってもらえる環境にいられたとき、しあわせを感じられるだろうと。それが実現できる会社をみんなでつくっていこうと考えました。スタッフたちが日々、身近なやりがいやを生きがいを感じられる会社にするために、会社のコンセプトを作り直そうと思いました。
好業績者の行動様式を分解すると、数字以外の能力が見えてきた。
新しい会社像を考えたとき、「会社がどういうスタッフを求めているか」「スタッフにはどういう働き方が必要なのか」を幹部会議で洗い出しました。具体的には、好業績を上げているスタッフの行動基準の言語化です。それをもとに、2010年頃に『RT ISMBOOK』という、会社のビジョンをまとめた冊子ファイルを作り、社員に配布しました。そこには、会社が大切にしている経営理念や、社員に求めること、教育理念などを書いており、毎年少しずつ更新しています。
また、3年前から給与の評価制度も変えました。それまでは売上中心の歩合だったのを、売上以外の貢献度やプロセスなど、人間性も反映することにしたのです。好業績者の行動には売上に結びつく前にしていることが見えてきたからです。人間性を、個人の主観でなく公平に評価するためのものさしを『RT ISMBOOK』の中で明確にしました。例えば売上以外に当社が必要とする能力に「チームワーク」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「愛社精神」などがあります。それぞれの項目について、「どんなことまでできればどれくらい評価するか」の尺度も言語化しています。もちろんそれらの評価の中心にあるのはお客さまです。いずれの能力もお客さまに喜んでいただくために発揮するためのものだからです。
プロセスを評価基準にすることで、ビューティコーディネーターなど、スタイリスト以外のさまざまな職種のやりがいにつながっています。導入当初は混乱もありましたが、微調整しながら続けることで社員の理解も得られるようになってきています。
社員に必要とされたとき、経営者としての喜びを感じられる。
2013年に創業40周年を迎えたことを機に、『未来予想図〜Next Door』という10年計画をつくり、冊子にして全社員に配布しました。すべて文章だけの『RT ISMBOOK』ではイメージしにくい社員もいたため、ビジュアル中心でわかりやすいものにしました。会社全体、新事業、クリエイション、キャリアパス、貢献活動など各部門で、10年以内に実現することを具体的に宣言しています。例えば、「ワーキングマザーを27人(2013年当時)から10年後には60人に」、「10法人、10人社長誕生へ。女性社長も誕生」などです。実際に4年目の現在、ワーキングマザーは30名まで増えています。
こうした取り組みをしてきてよかったと思うのは、社員から「この会社にいてよかった」「美容師になってよかった」と言ってもらえることです。美容師がお客さまに必要とされてうれしいように、経営者として「社員が会社を必要としてくれている」ことに喜びを感じられます。
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Q
これから取り組んでいきたいことは?
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A
女性スタッフの活躍の場を増やすために、会社として時代に合った戦略を立てていきたい。
制度にとらわれず、女性スタッフそれぞれの事情と希望の働き方で活躍してほしい。
女性活躍としては、今後も子どもを生んでも続けるスタッフを増やしていきたいです。女性のための特別な制度や仕組みはありません。むしろ前述のように、以前はパート制度があったのを取り払ったくらいです。制度でパートをつくってしまうと、産休復帰の時に「正社員かパートか」のような二者択一になってしまう。そうではなく、それぞれの事情に合わせた勤務時間内で、出産前と同じように活躍すればいいだけのことです。
大﨑のようにみんながバリバリと働くことを望んではいません。大﨑は前例がいなくて大変だったと思いますが、いまは大勢のロールモデルがいます。いろいろな働き方があっていいので、時短勤務の社員の呼び方もなく、全員がただ「正社員」。出産して育休復帰を控えたスタッフは直属の上司と面談して、その人なりの働き方を考えてもらっています。
若手の育成と同時に、幹部クラスの女性たちの活躍の場を広げたい。
2013年にオープンした「Viviean Rosso(ヴィヴィアン・ロッソ)」は、当社として初めてのトータルビューティーサロンです。つくったきっかけは、創立40周年のときに「昔のお客さまはどこに行ってしまったのか?」と振り返ったことでした。全社としての主要顧客層は20〜30代の女性で、以前いらしていた大人の女性の受け皿がないことに気づいたのです。そこで、各店の女性幹部たちを集めて、グループの他店よりワンランク上の、大人の女性のためのサロンをつくりました。目の肥えたお客さまを接客するためでもありますが、幹部クラスを元の店舗から異動させることで、若手の育成にもなると考えたからです。
「Viviean Rosso」は全スタッフ20名中ママスタッフが7名。それでもオープン初年度から、2,000万円/月を売り上げる、四国でも有数のサロンとなっています。時短勤務の女性スタッフたちの生産性の高さを実証しています。
高知は人口が減っていますし、経済環境がいい方向にあるとは言えません。今までの延長線の経営では頭打ちになることは見えています。会社もスタッフもともに輝き続けるために、時代に合った働き方を提示し合いながら、将来のあり方を探っていかねばなりません。目標は「高知で年収1000万の社員をたくさんつくる」。その見本を当社でつくっていくために、目先の利益だけを考えず、もっとお客さまに喜んでいただける会社を、スタッフと一緒に築いていきたいですね。
Company Data
経営者が見据える
本当の女性活躍とは?