サロンで始める
訪問美容~データ&実例編~
超高齢化社会を迎え、サロンの潜在市場として注目される “訪問美容”。
データや実践事例を交えて訪問美容の可能性について考えていきます。
vol.24
実例編29歳、ひとりで始めた訪問美容。契約までの道のり
h Hair Design 2nd.
- 全スタッフ4名
- 2店舗
- スタイリスト:
- 廣原和明さん
- 訪問美容開始:
- 2018年
- 訪問施設数:
- 3施設
- 施設訪問頻度:
- 1カ月に1回
- 価格:
- カット2,000円〜、パーマ4,000円〜、カラー3,500円〜
-
Q
訪問美容を始めようと考えたきっかけは?
-
A
「美容室に行くのが大変」と言った祖母の言葉でした。
一度辞めた美容師に、今のオーナーの誘いで復帰することに。
自分は美容師として就職して、一度すぐに辞めました。最初に就職したサロンで、シャンプーもさせてもらえずチラシ配りばかりでイヤになってしまって。その後は3〜4年間、全く異なる営業の仕事など職を転々としながら「そろそろ定職に就かなければ」と考えていました。当時、顧客として通っていたサロンの担当者が、今の「h Hair Design 2nd.」のオーナーです。オーナーから誘われてそのサロンにアシスタントとして復帰し、オーナーが独立した際に今のサロンに転職しました。そのため、スタイリストデビューしたのは26歳と遅かったです。
最初に美容師になったのも、高校時代の仲間が「美容の専門学校に行くから」と一緒に行ってみただけだったので、強い動機があったわけではなかったのです。訪問美容と出会うまではフラフラした感じでしたね。
祖母の言葉で訪問美容について調べ始めました。
美容師に復帰してから、実家に帰るたびに祖母のヘアカットをしていました。祖母は寝たきりではなかったので「サロンに来ればいいのに」と言うと、「美容室は遠いから疲れるし、年を取ると家を出るのが大変なんだよ。お前も施設にいる人の髪を切りに行ってあげれば」と言われました。そのとき初めて、「年輩の方は外出すら大変なんだ」と知ったのです。
それをきっかけに、ネットなどで訪問美容について調べてみました。調べている中で、ホットペッパービューティーアカデミーのイベントを見つけて参加したのです。参加者の人たちは経営者の方が多く、「ひとりで始められるだろうか」という不安がありました。けれど、映像で「trip salon un.」の湯浅一也さんに施術を受けた高齢者の方が笑顔になり、その方の手を引いて歩く湯浅さんの姿に感動しました。「やってみたい!」という気持ちが高まったのです。
そのイベントで「訪問美容ゼミ」をやることを知り応募しました。選考があるので受かると思っていなかったため、オーナーには受かってから報告すると、「自分で責任をもってやれるならやってみれば」と応援いただきました。
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Q
「訪問美容ゼミ」に参加してみてどうでしたか?
-
A
いろいろな考え方を知ることや、仲間とのつながりができました。
最年少のゼミ生で、人一倍の努力が必要だと実感。
ゼミに参加してみたら、自分以外はみんな経営者の方ばかりで、20代は自分だけ。その分、「人一倍勉強しなければ」とプレッシャーを感じつつ、「絶対やる」という目標が定まりました。サロンには迷惑をかけられないので、営業や施設への訪問ができるのは定休日のみ。自分には部下もスタッフもいませんし、全部ひとりでやらなければならないため、効率も考えました。妻も元々美容師だったのですが、自分がゼミに入る直前に長女を出産していて子育てが忙しく、手伝ってもらえる状況ではありませんでした。
ひとりでやっていると、営業が大変だったり、志がぶれそうになることもあります。でも、SNSでゼミの仲間ががんばっていることを知ると「自分もがんばらなければ!」という気持ちになることができました。
人生の先輩方の考え方が何より参考になりました。
ゼミに参加してよかったのは、みなさん美容師としての先輩なので、訪問美容だけでなく、仕事に対する考え方などを勉強させていただけたことです。特に、講師のふくりびの赤木勝幸さんが、「新しいことを始めるときには、身近な人に、やる理由や自分の想いを話してみるといい。言わないとまわりの人に気持ちは伝わらない」とおっしゃっていたことが心に残っています。それを聞いて、妻や訪問美容に共感してくれそうな同僚に、自分の気持ちを話してみました。するとみんな、「できることは協力する」と言ってくれたのです。
講師の方やゼミ生たちは本当にすごい方ばかりで、みんな「できない」と言わないのです。突き詰めていって、失敗してもできるまでやる人ばかり。それがすごい刺激になりました。
もちろん技術も勉強になりました。「trip salon un.」さんの施設訪問の現場見学に行き、寝たきりの方の施術方法などを見せていただいたことなど、実践の際にとても参考になりました。
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Q
実際の営業や訪問美容の準備はどうしましたか?
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A
効率を考えながら、気持ちが折れないように進めました。
訪問美容の営業に行く時間を、午前中のみに決めました。
営業は、ネットで施設を調べたり、市役所で施設の一覧をもらったりしてアプローチ先を探しました。営業に行けるのはサロンの定休日だけですが、休みの日を終日営業にあててしまうと家族と過ごす時間がなくなるため、営業は午前中だけと決めました。その半日で15件回ると決めて、車で30〜40分で行ける範囲の施設を片っ端から飛び込みで回っていました。時間で区切ったことで気持ち的にラクになれたと思います。営業は断られることの方が多いので、丸1日営業していたら心が折れることもあったかもしれません。
また、週1回、ゼミへの活動報告がありました。その週に何件回って反応はどうだったか報告しなければなりませんでした。だからこそがんばれたのだと思います。
最初に契約が取れた施設は、病院が経営している老人ホームでした。既に他の訪問美容業者が入っており、初回の営業では手応えがありませんでした。でも後日訪れると、「今の業者と同じ値段で、もっと融通をきかせてくれれば変えてもいい」と担当者の方が言ってくださいました。自分はひとりでやっている分、融通できる強みがあり契約に至りました。その後、同じ系列の2施設とも契約いただきました。
必要なものの準備はなるべく費用がかからないように工夫。
ひとりで訪問美容を始めるために大変だったのは、必要なものをそろえることでした。サロンのものは持ち出せないため、一通りのものを買いそろえなければなりませんでした。契約が取れたら次の日からでも施術に行けるように、事前準備しておかなければなりません。訪問美容専用でなくても済むワゴンや掃除道具などは、100均やディスカウントストアを利用。移動式シャンプー台が最も費用がかかりましたが、フリマアプリで中古の物を新品の半額で購入するなど、極力安く済むように工夫しました。総額で15万円くらいかかったと思います。
契約後に施設に訪問する際は、忘れ物がないように、買いそろえた一式をチェックリストにして確認しています。
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Q
訪問美容をやってよかったことは?
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A
自分に自信がつきました!
できない理由が多くても、やりたい気持ちが勝ちました。
訪問美容をやって、お客さまに喜んでいただけることが本当にうれしいです。そして、訪問美容を始めたことによって、自分に少し自信がつきました。今までの自分の人生の中で、自分で考えて行動して、結果が出るまで全部ひとりで成し遂げたことがなかったからです。「スタイリストになってまだ3年目で始めて、経営者でもない自分にできるのだろうか」という不安もありました。出産したばかりの妻も、最初は乗り気ではなかったため、できない理由を探したら、できる理由よりも多かったのが事実です。でも、「自分の祖母世代の方々を、美容を通して喜ばせてあげたい」というやりたい気持ちを突き詰めたからできたのだと思います。
妻も今は応援してくれて、施設での施術人数が多い日に手伝いに来てくれました。美容師を離れて時間が経っていたのでドキドキしたそうですが、「楽しかった」と言ってくれました。将来子育てから手が離れたら、妻と一緒にできたらと考えています。そして、訪問美容で地元の方々を元気にしていきたいです!
廣原さんからひとこと
「訪問美容をやってみたい」と思うなら、環境や年齢などが原因でできない理由を考えるより、とりあえず始めてみるといいと思います。できる可能性があるのにやらないことは、美容室に行くのが大変で困っている人に喜んでもらえるチャンスをなくしてしまうことになるからです。やれば自分のように、必ず形になります!
Salon Data
h Hair Design 2nd. 【エイチ ヘア デザイン セカンド】
- アクセス
- つくばエクスプレス研究学園駅から車で6分
- 創業年
- 2013年
- 店舗数
- 2店舗
- スタッフ数
- 4名